先生が限界だっ!
ブロイドワン帝国・帝都帝宮内
突如として先生がモジモジとし始めたのだがどうした? お手洗いか? 足を出しまくりの服が悪いのか? 冷え性なのか?
でも今日はそこそこ暑い。
あっちに巨大な氷の塊が存在しているから、風が吹くと冷気が漂ってきてそこまで暑くは感じない。打ち水効果と言うか置き氷効果と命名しよう。
「シュシュよ」
「何だぞ~?」
「先生がこっちをチラチラ見ながらモジモジしているのだが、どうすれば良いのだろう?」
「……」
僕の指摘にシュシュもようやくそれに気づいたらしく、アイルローゼの居る方を見てポンと手を叩いた。
「ここにワインの空瓶があるぞ~」
「それか。それを……どんな風にするの?」
「それはこうして……何をさせる気だぞ!」
実演しようとしたシュシュが瓶を逆に持って殴りかかって来た。
理不尽だ。ちょっと興味を覚えたから質問しただけなのに!
「瓶では難しいと?」
「……難しいぞ~」
掴んでいた瓶を投げ捨て真っ赤になったシュシュが何かを誤魔化すようにフワる。
恥じらう姿もまた可愛いが、そうなると別の方法でトイレを考えねば。
「やはりここは古来よりの方法か」
「何だぞ?」
「ここにオーガさんがプチっとした木製人形が被っていた兜があります」
落ちていた鉄製のフルフェイスな兜を掴んで……中身が入っていたので、そのまま石畳の上をボーリングの投球感覚で転がし遠ざける。
次は頭の上半分を覆う兜を掴む。これなら中身の残留とかあり得ない。
「この中に砂を入れるのはどうだ!」
「おお~!」
僕のプランにシュシュが驚く。
「何より女性はスカートを穿いている。つまり軽く屈むだけで全てが隠れるのだよ!」
「それは凄いぞ~」
シュシュが穿いているロングスカートなら屈む必要すらない。僕の猫用トイレプランは完璧だ!
「ただアイルローゼのスカートだと、色々丸見えだと思うぞ」
「あっ」
そうだった。彼女のスカートはその素晴らしい足をより多く見えるように極力布地を省いて作られている。つまりトイレを跨いだ時点で何も隠せない。そっちの性癖の人が居たら大興奮の案件だ。
「大丈夫。僕はそれぐらいで怯んだりしないから!」
田舎で暮らしていた僕を舐めるなと言いたい。
僕が田舎に引っ越した当初のピュアな少年時代の記憶にはっきりと残っている。近所のお婆ちゃんがその辺でしていたのだ。屈んで。自由にだ。
その姿を目撃している僕としては、むしろ先生だったら色々と耐えられると思います。
決してその手の性癖は持っていません。これは重要です。
精神的に我慢できるかできないかで言えばということです。
「旦那様」
「ほい?」
ツンツンとシュシュがある方向を指さす。
「アイルローゼが物凄く怖い顔でこっちを見ているぞ~」
「大変申し訳ございまんでした!」
全力で頭を下げて謝罪する。
自分の非を認め謝罪することは大切だ。何より地位など気にしないから僕は簡単に頭を下げられる。
『……死ね』
「お怒りだよ~」
「当り前だと思うよ」
「ぞを忘れて冷静に指摘しないでよ~」
まさかシュシュまで裏切るなんて!
僕の何が悪いのさっ! ただ先生のトイレを心配し手配しようとしただけなのに!
「先生がお花摘まないでいるのが悪い!」
「うわ~。自分の性癖を誤魔化したぞ~」
「違うから! 僕にそんな性癖無いから! 何よりホリーに知られたら大変だからマジで止めて!」
「あ~うん。分かったぞ~」
それはそれで納得しちゃうシュシュにも色々と問題があるような気がします。
君はホリーのことを何だと思っているんですか? お姉ちゃんは……トテモヤサシインダヨ?
「で、まだアイルローゼがこっちを睨んでいるぞ?」
「のわ~! 謝罪ですか? それともやっぱりこれが必要なんですか? なんか攻撃して来た~!」
「今のは旦那ちゃんが悪いと思うぞ」
「夫婦ってこんな時に助け合うべきだと思うんだ!」
アイルローゼが放ってきた魔法から逃れ、僕はシュシュを壁にした。
「……関係を解消しても良い?」
「ぞを忘れてそんなこと言わないで!」
「何か色々と冷めそうで」
「落ち着いてシュシュ! 後でたっぷりお礼するから!」
「……」
深いため息を吐いてシュシュが封印魔法で壁を作る。
「結局一番ダメなのが私自身だと思うんだぞ」
そう言わないでよ。
「何だかんだでこんな馬鹿に付き合ってくれるシュシュのことは大好きだよ。いつもありがとうね」
「……やっぱりダメだぞ」
何故に?
でもシュシュは僕に抱き着いて来て甘えだした。
そして先生が僕らに向けて光の矢を飛ばして来る。顔面直撃の結構本気系の威力で。
「旦那君は本当にズルいんだぞ」
「ズルでも良いから! 先生の矢で壁が抜けそうだから!」
追い打ちの矢で壁に傷がっ!
必要ならば後で腰が抜けるほど愛してあげるから! だから今だけはちゃんと壁を作ってください!
《あの馬鹿は……後で絶対に……もうっ!》
馬鹿弟子へのお仕置きを考えたアイルローゼであったが、その後のことを恐れ迷ってしまう。
お仕置きをした分だけ自分に跳ね返ってきたらと思えと、今まで彼に何をしたのかも一緒に思い出し……一瞬にして心が死んだ。
《もう死にたい。それか穴に入って埋まりたい》
絶対にただでは済まない。
あれほど理不尽極まりない無いことをして来たのだ。その全てが自分に向けられても仕方ない。
《踏んだりしたのは喜んでいたけど……それ以外は……》
しゃがんで膝を抱え込み存在自体を小さくしたくなる衝動を我慢し、アイルローゼはやる気を失った脱力しきった体に鞭打ち、変化を続ける自称魔女を見る。
自分も人間を辞めてあんな風になれればこの苦しさから解放されるのか?
《……何で私がこんなことでここまで苦しまないといけないのよ!》
落ち着いて考えるとこんな理不尽はあり得ない。
ただ怖かっただけだ。
自分の体に自信が無くて、女性として相手を満足させられないと思ったから踏ん切りがつかなかっただけだ。
それなのに無理矢理外に出せれた。
本来の自分の体でだ。もし彼としたら……一気に頬を赤くしてアイルローゼは我慢できずに座り込んだ。
《無理よ~! 私が妊娠とか絶対に無理よ~!》
考えられない。自分か母親になるなんて想像もできない。
《無理無理無理無理無理……絶対に無理!》
まずは観察と調査が必要だ。
出来たら妊娠しているという歌姫が無事に出産するまで観察し、情報を吟味してから望みたい。
事前情報も無しでその日を迎えるなんて絶対に無理だ。
「「「「「何を座り込んでいる。今更命乞いをしても、」」」」」」
「煩いわよ! この気色の悪い雑魚がっ!」
人の領域からかけ離れた高速詠唱からアイルローゼは腐海を放つ。
激情に駆られての咄嗟の詠唱でも魔女である彼女は使用する魔力を搾る。
故に真っ直ぐ伸びた腐敗の波は、魔女を自称する奇怪な化け物の上半身を腐らせ融かした。
「先生が限界だっ!」
敵を前にしゃがみ込んでしまうだなんて……もしかして小さい方では無くて大きい方なのか?
ごめん。僕にはその趣味は無いけど、でも先生にトイレを届けることなら出来る。
「落ち着け旦那さんっ!」
「でも先生がっ!」
放せシュシュよ。
男子たる者、戦場でトイレを抱えて走らねばならない時もあるのだ!
「「えっ?」」
奇麗にシュシュと声がハモった。
必死にしがみ付いて僕を制しようとするシュシュと共にそれを見た。
先生の高速詠唱からの大惨事を、だ。
「……旦那ちゃん」
「……うん」
2人揃って僕が抱えていたトイレにエロエロをした。
~あとがき~
意思の疎通と言うかアイコンタクトが失敗し過ぎるとこんなことが起こります。
普通の物語だと起こりませんが、この作品の主人公は生粋の馬鹿ですからw
無事にトイレは別の物として使用され…頑張れよ。マリスアン。マジで
(C) 2021 甲斐八雲
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