この一族は~!

 ユニバンス王国・王城内アルグスタ執務室



『おにーちゃんはお馬鹿です~!』『その喧嘩買った!』という流れからチビ姫に圧勝した。

 完膚なきまでの勝利だ。完勝だ。勝利宣言を高らかにしたいほどだ。


 敗者たるチビ姫は四つん這いになり、そんな彼女を椅子にする。

 決してイジメの類ではない。躾である。座る僕も心が痛いのだよ。


「ポーラ?」

「……せんぱいっ」


 ちょっと加重をと思ったのだが、何故かポーラはミネルバさんに抱き着いて離れない。

 そろそろ周りのメイドさんたちの表情が修羅って来ているから止めて欲しい物だな。


「この屈辱は……決して忘れないです~!」

「あん? この椅子はよく喋る椅子だな? また躾けるぞ?」

「ひぃ~ですぅ~」


 悲鳴を上げてチビ姫が口を閉じた。

 僕に喧嘩を売ること自体間違いなのである。


「今の僕は支配者だ。誰にも負けないのだよ!」

「……それは大層面白い話ね? アルグスタ?」

「はい?」


 呼ばれて顔を巡らせると、部屋の入口に鬼が居た。『フンッ! フンッ!』と左右の指をバキバキと鳴らし、顔だけは美人に見える最悪な従姉が居た。


 なるほどなるほど。この世に存在しない神はどうやら僕に連勝しろと言っている様子だ。

 その願い叶えてやろうじゃないか!


「表に出ろ! この糞義姉!」

「いい度胸ね! 貴方の命日を今日にしてあげるわ!」

「上等だ! このまな板が!」


 何故かクレアらしき声と、チビ姫らしい声が『うぐっ!』と呻いていた。気のせいだ。彼女らはもう自分たちが育たないと理解しているはずだ。

 馬鹿と一緒に外に出て……まずは目の前の馬鹿を殴ることから始めよう!




 ユニバンス王国・王城内中庭



「アルグ様」

「だって!」

「お姉ちゃん」

「だって!」

「もう」

「「……」」


 悪いのは相手だと言いたげにまた爪先で蹴り合いを始める。

 ブンッとアホ毛を大きく揺らしてノイエはそんな2人の間に立つ。


「喧嘩はダメ」

「「だって!」」

「言い訳は悪い子の証拠」

「「悪いのは!」」


 お互いに指を向け合う2人に、ノイエはまた大きくアホ毛を揺らした。


「……喧嘩するなら2人とも嫌い」

「「……」」


 喧嘩はダメだ。家族の喧嘩は特にダメだ。

 そう思いノイエはその言葉を口にしていた。


 ただ『嫌い』という言葉を額面通りに受け取れない人間も居る。

 ノイエの前で正座をしている2人だ。

 まるで世界の終りのような表情を浮かべ……何故か互いに顔を見合わせた。


「お前のせいでノイエに嫌われた~!」

「貴方のせいでノイエに嫌われたでしょ!」


 そしてまた掴み合い叩き合う。

 ノイエはそんな2人を捕まえて引き剥がす。


 もう本当に面倒臭い。このまま池にでも投げ込んで頭を冷やした方が良いのかもしれない。

 カミューは良く喧嘩をしていた人を井戸の中に叩き込んでいた。どうしてそんなことをするのか聞くと『井戸の水は冷えてて、よく頭が冷えるのよ』と教えてくれた。


 そうか。池じゃない。井戸だ。


「ちょっとノイエさん? 僕らを引きずり何処へ?」

「井戸」

「ノイエ待ちなさい。落とすならそっちだけにして!」

「家族仲良く」

「「止めて~!」」


 必死に命乞いする2人を引きずり井戸へとたどり着いたノイエであったが、そこにゾロゾロと鎧姿の人たちが現れた。


「あ~。ノイエ。その馬鹿2人はこっちで預かるから、とりあえずドラゴン退治に戻ってくれるか?」

「井戸に投げ込んでくれる?」

「「ひぃ~!」」


 顔面蒼白で震え上がっている馬鹿な従姉と腹違いの弟に……王弟ハーフレンは苦笑した。


「分かった。井戸よりももっと頭の冷えることをしておくからそれで許せ」

「……分かった」


 ポイポイと2人を投げ捨てノイエはスッとその場から姿を消した。


 命の危険が去り、互いに抱き合いガタガタと震えている馬鹿2人は……怒ったノイエがどれほど容赦ないのかを噛み締めたみたいだ。

 そう思うこととし、ハーフレンは今後ノイエを絶対に怒らせないと胸に誓った。


「で、馬鹿2人? 命を救ってやったんだ。ちょっと面を貸せ」


 カクカクと頷いて寄こす2人に……ハーフレンはノイエとの約束をどう叶えるか思考した。




 ユニバンス王国・王城内大会議室



「で、グローディア?」

「ちょっと待ちなさいハーフレン。私を誰だと思っているの?」

「今はノイエからお仕置きを頼まれ、それを実行しなきゃいけない対象の従姉だな」

「いや~! もういや~!」


 無駄な抵抗をしたグローディアの足の上に氷の塊が置かれた。

 作るのはポーラだ。先ほどから氷の塊を作っては僕らの足の上に置いて来る。


「ずいぶん余裕だなアルグスタ?」

「何を仰るお兄さん。僕は素直なアルグスタです」

「王族としての誇りは無いの! この糞王子!」

「誇りなど糞と一緒に便所で流したわ! ボケ!」


 偉ぶらない男……それが僕、アルグスタですから! だからポーラさん? そんな大きな氷の塊は隣の馬鹿な従姉の足の上にでも置けばいいんだよ? もう強制正座と氷のおかげで僕の足はおかしなことに。


「何故に氷を置く~!」

「同罪だ。連帯責任ってヤツか?」

「嘘つけ!」

「ざま見るが良い! 1人生き残ろうとして……ちょっと待ちなさいよ。どうして私の方が氷が大きいのよ!」

「年長者だろう? 敬意を払ってだな」

「嘘つき!」


 こうして僕らは陛下が来るまで、正座の形で足を縛られた上に太ももに氷の塊を置かれると言う拷問を食らい続けた。

 全部グローディアが悪いんだ。僕は悪くない。悪くないんだ。




「仲良くしろとは言わんが……顔を見合わせると喧嘩をするのは止めて欲しいのだがな?」

「馬鹿な従姉が悪い」

「阿呆な従弟が悪い」

「「あん?」」


 縛られて強制的に正座と言う姿勢で固められている2人を見て……シュニットは軽く眉間に指をあてて色々な何かと戦った。戦う必要があるのか分からないが、とりあえず戦った。


 現在座らさせられている2人は、この国で敵に回すべきではない人物の上位にあげられる存在のはずだ。

 これを恐れるこの国の貴族たちが悪いのか、それともこんな状況に追いやられるこの2人が悪いのか。


「……まあ良い。お前たちの仲の悪さは現状私たちがとやかく言うことではないな」


 開き直りシュニットは話を進めることにした。

 従姉であるグローディアが登城して来た機会を逃すのは得策ではない。


「まずグローディア」

「何かしら? この私に命令する気なの? ……ちょっと待ってその氷は無理!」


 返事の態度が宜しくなかったのか、近衛団長が新しく作られた氷を持ち上げると従姉は静かになった。


「お前は王家の者としてその役目を、」

「無いわ。今の私はただのグローディアよ。それ以上でもそれ以下でもない」


 シュニットの問いかけの途中で、グローディアは時間が勿体ないとばかりに返事をした。

 最初から分かっていた返答に、シュニットは控えているメイドに書類とペンを運ばせる。内容を確認したグローディアはそれにスラスラとペンを走らせ署名した。


「これで私は王家とも王族とも無関係ね?」

「そうなるな」


 王家として手放すには惜しい存在ではあるが、グローディアが起こした罪を考えれば仕方ない。


「それでただのグローディアよ。今後は何と名乗る?」

「……決まっているわ。召喚の魔法使いとでも」

「それで良いのか?」

「そっちの話がしたくて、私にこのお城への招待状を寄こしていたのでしょう?」

「確かにな」


 苦笑しシュニットは待機している近衛団長に視線を向けた。


「鎮魂祭が終わってから、アルグスタとノイエの2人を帝国へ向かわせる。前皇帝の葬儀への参列をするためにだ」

「簡易的な魔道具の話でしょ? あまり気乗り……ちょっと待ちなさいよハーフレン! それは無理! 本当に無理だから!」


 特大サイズの氷の塊を準備した近衛団長の様子に、グローディアはシュニットへと視線を向けた。


「笑ってないで止めなさいよ!」

「ふむ。止めても良いが……」


 ニヤリと笑い王は口を開いた。


「召喚の魔女の遺産……結構な数をアルグスタの所からお前が持ち出したと聞いている。その件について詳しい報告を聞きたいのだが?」

「この一族は~!」


 グローディアは大いに憤慨した。




~あとがき~


 お仕事そっちのけでノイエが2人の喧嘩の仲裁に。

 どうして家族なのに仲良く出来ないのか…頭を冷やせとばかりに井戸に向かってw


 グローディアは召喚の魔法使いと名乗ることにしました。だって召喚の魔女が残した資料を大量に抱え込み勉強しているので!

 で、召喚の魔女の遺産は…刻印さんが持ち逃げしてるんですけどねw




(C) 2021 甲斐八雲

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