おうひさまはさくらんしています

 ユニバンス王国・王城内アルグスタ執務室



「おに~ちゃんは、裏切者です~!」


 部屋に入ろうとしたら、飛び掛かって来た何かを素早く魔法で叩き落とす。


 僕もこうして少しずつ成長しているのだよ。周りが凄すぎて雑魚でしかないけど。

 と言うか周りの環境が悪すぎるんだよ! 今日プレーを開始したばかりのキャラに対し、仲間が全員レベルMaxのチート持ちとかどんなイジメかと?


「で、何だって? この自称王妃様よ?」

「ぬごご……王妃です~。私は王妃です~!」

「らしいな。だが王妃であろうが問答無用で飛び掛かってくればこうなるのだ」

「納得いかないです~!」


 床に張り付いてジタバタと暴れる王妃様は、今日も元気なチビ姫と言う生き物らしい。

 基本的に可愛らしいドレス姿が多いが……ピラっとスカートを捲ると本日も紐のような青でした。攻めすぎていて下着としての機能はあるのか謎である。


「何か躊躇いもなくスカートを捲られたです~!」

「どうもこの下着に見覚えがあると思ったらポーラと同じ物か?」

「です~。このを着れば意中の人を誘惑できるからとっ」


 チビ姫の頭を何かが踏みつけた。

 踏んでいるのは慌てて物陰から飛び出してきた我が家の妹様だな。メイド姿だけど妹様だ。


「おうひさまはさくらんしています」


 今の姿を見たら錯乱しているのはチビ姫じゃない気がしますが。


「チビ姫の場合は錯乱と言うか、これが平常運行だと思うけどね」

「さくらんです。ですからあのようなしたぎを」

「ポーラも穿いてるでしょ?」


 手を伸ばしてスカートを捲れば、薄い黄色の……ごく普通の下着でした。


「だめですにいさま!」

「戻った?」

「……わたしはまえからこうです」

「えっと……」

「こうです」

「そうだったね」


 グッと前のめりで迫るポーラの足元から『ぐぇ~』とチビ姫の断末魔的な声が上がったので、僕は妹の主張を認めることとした。

 我が家の妹様は紐のような下着は穿かないそうです。過去に見たのは全てバグなのだろう。


 頭を踏まれてぐったりとしているチビ姫はソファーの上に投げ捨て、僕は自分の机に向かい……納得がいかない。なぜこんなにも書類の山が?


「そこの反抗期の小娘」

「誰が反抗期ですか!」

「そのない胸に手を当てて考えろ」

「あるから! ほんのりあるから!」


 絶叫してから顔を真っ赤にして机の下に消えていく。

 本日もクレアで遊んだし仕事をするかな。


「で、何でこんなに仕事が山積み?」


 通訳をポーラに頼むと、机の下の原住民とコンタクトを取ってくれた。


「にいさまがふっきしたから、とまっていたしょるいが」

「イジメか」

「すてますか?」

「それをすると後々面倒なのでもっと画期的な方法と行こう」


 僕は自分のサインを判子にした物をポーラに渡すと、手当たり次第に中身を流し読みして処理していく。ポンポンと判子を押すポーラの姿は可愛らしい。


 頑張ったら半日で机の上の山が消えた。

 代わりに執務室に来たイネル君が青い顔をして書類の山を運ぶこととなり、何往復もすることになったが。


「で、そこでだらしなく両足広げて気絶しているチビ姫よ」

「っは! 山のようなケーキが消えたです~!」


 どんな夢だ?


 ひと段落ついてチビ姫の相手をすることにした。

 自称王妃様は国民に見せられない姿で寝ていたが、どうにか復活して動き出す。


「思い出したです~。この裏切者です~」


 またソファーから飛び起き突進してこようとするので、右手を掲げたらチビ姫は急ブレーキを踏んで停止した。

 だが甘い! 僕は一度決めたらやる男だ。


「むぎゅ~です~」


 また重力魔法を食らってチビ姫が床に張り付いた。


「で、誰の何が裏切りだと?」

「おに~ちゃんの行動です~」

「はい?」


 何を言っているのこの子は? 残念な子だとは知っているけれど。


「私に内緒で舞姫に会ったです~! 裏切りです~。私も見てみたいです~!」


 ジタバタと暴れるチビ姫の言葉がようやく理解できた。

 ただ煩いから彼女の頭にも重力魔法を使う。どうやら王妃様はお城の床が大好きらしい。あんなに熱烈なキスをするだなんて……ドMだな。


「今回呼んだのは交渉です」

「むむがむ~」

「おいおい。人が真面目な話をしているのに君はどうしてそんな場所で床を相手に熱烈なキスを?」

「むがぁ~!」


 チビ姫のジタバタが3割増しになった。

 いい加減話が進まないから体の方の重力を解く。ぶっちゃけ2ヶ所も維持とか僕の魔力では辛い。


「むご~!」


 立ち上がろうとして頭が床から離れない。

 折角解いてやったと言うのにあのチビ姫の態度は何だ? あとで保護者にクレームだな。


「にいさま。そろそろ」


 周りの視線と言うか基本優しさでできているポーラが、チビ姫の余りの残念な姿に助け舟を出してきた。

 だが甘い! チビ姫にはこれぐらいして体力を奪わんと元気に走り回る。


「にいさま?」


 心配そうな潤んだ瞳で懇願されると弱い。

 仕方なく魔法を解いたら、勢い余ったチビ姫が背後にひっくり返ってしたたかに後頭部を打った。


「ぬごぉ~!」


 余程痛かったと見える。『です~』が外れた。

 慌ててポーラがチビ姫に駆け寄り、抱きかかえて傷の有無を確認する。


「もう。にいさま」

「頼まれたから解いたまでですが?」

「……おうひさまもおちついて」


 自分の責任回避に走るとは流石ポーラ。末恐ろしい子だな。

 痛がる様子でポーラに抱き着くチビ姫だったが、しばらくするとガバッとポーラから顔を離した。


「まさか……そんな……」


 余程衝撃的なことがあったのか『です~』を忘れている。


「そんな~!」

「……いやぁ~!」


 ガバッとチビ姫がポーラのスカートを掴んで一気に捲り上げた。


 突然すぎることに反応の遅れた妹様は、スカートの向こうに居る。

 悲鳴は聞こえるがメイド服の裏生地越しでしか聞こえない。と言うか豪快に捲ったな?


「何ですか~! これは~!」


 だから『です~』を忘れているぞ?


 慌ててようやく王妃の暴挙から逃れたポーラが自分の服を正す。耳まで真っ赤だ。

 そりゃそうだ。こんな場所で上下の下着を晒すことになるだなんて……上下? 上?

 ようやく気付いた。あのポーラがブラをしていたのだ。いつのまに?


 崩れ落ちて床を殴るチビ姫の心情を察することはできる。

 知らない間にポーラがまた1つ大人の階段を上っていたのだ。


「と言うかチビ姫の下着は下だけなのか?」


 僕の言葉に床を殴るチビ姫の動きが止まった。

 何故か部屋の隅で置物と化しているメイドさんたちが全員して首を横に振っている。『それは決して口にしてはいけません』と言いたげな表情でだ。


「おに~ちゃん」

「はい」

「……家族でも言って良いことと悪いことがあります!」


 だから『です~』はどうした?

 憤慨して立ち上がったチビ姫がこっちにビシッと指先を向ける。


「胸が小さいと必要ないんです! ……です~」


 言い切ってからまた床に崩れ落ちて泣き出した。

 どうやら貧乳界にも貧乳界にしか通じないルールがあるらしい。


 と、視線を巡らせたら……クレアが自分の胸を押さえて涙していた。

 どうやらあっちもブラを必要としない人種だったらしい。




「これは何です~?」

「今回の鎮魂祭に絶対に必要な物。なので準備せよ」

「……大がかりです~」


 僕が急いで書き上げた資料を手にしたチビ姫が首を捻る。

 その横でポーラが苦悶の表情を浮かべていた。

 右手には資料。左手にはポーラの胸。これが今の王妃様の姿勢だ。


 裏切者には制裁をと言うことで、チビ姫とクレアがポーラの胸を揉んでいる。

 たぶん揉んだところでご利益とかは無いと思う。それに気づいてそろそろクレアには落ち着いて欲しい。真顔で無言でポーラの胸を揉む姿が大変怖い。


「舞台に関する請求は僕に回しても良いよ」

「良いんです~?」

「構わん」


 あの悪魔がプロデュースするから……予算に縛られると絶対に怒り出す。

 だったら最初からウチが負担して無尽蔵にした方が良い。レニーラが全力で踊る分にはノイエに文句なんてないだろうしさ。


「その代わりそっちに回さない予算は全て炊き出しとかの方にね」

「分かったです~」


 サラサラと紙に何やら書いてチビ姫がそれをメイドさんに手渡す。


 ただ空いている手はポーラの胸を揉んでいる。ご利益は無いと思うぞ?

 と言うかこの2人の前にリグを連れて来たい。背丈は同じぐらいなのに胸のサイズだけは超弩級の彼女を見たら……無駄な育成を諦めてくれるだろうか?




~あとがき~


 舞姫の舞いはそれはそれは凄い物だったので語り継がれています。

 それを搾られるけれど見られる主人公って…そろそろもげれば良いのに。


 で、アルグスタが会ったと聞いて王妃様は大激怒です。見たいのです。見てみたいのです。


 気づけば話が脱線しまくって…ポーラがブラを身に着けるようになりましたw




(C) 2021 甲斐八雲

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