良くない魔法なの?
ユニバンス王国・王城内
「新しい報告は?」
「はい」
場所は現王の執務室。
別の案件で席を外した国王が戻るまでにハーフレンは部下を走らせ情報収集に努めた。
集まった情報は多く、何より最大の問題が鎮座している。
「まず……北門からの報告です」
「あれか?」
「はい」
疲れた様子でひじ掛けに身を預け体を傾け、国王に王弟は苦笑してみせた。
突如として耳に届いた少女の声。それを聞くに声の主はあのファシーだと言う。
「実際は?」
「口頭での報告ですが、北門の外でファシーと名乗る魔法使いが暴れ回ったのは事実のようです。おかげで寄せていた大群の全てがその姿を消したと言います」
「つまりファシーが全て斬り殺したと言うことか?」
「そのようです」
苦笑しながらハーフレンはそれを認めた。
事実を知ったシュニットは呆れつつ嘆息する。
「それでファシーをあの場所に向かわせたのは?」
「本人の言葉が正しければアルグスタ“様”でしょうな」
皮肉交じりの近衛団長の言葉に国王はまた息を吐く。
「アルグスタが平気で噓を吐くのをどうにかせねばならんな」
「中々に難しいでしょうな。あれは反省し更生した振りをして同じことを繰り返すでしょうから」
「……だろうな」
疲れ果てた様子で国王は視線を窓の外へと向ける。
「これが終わったら……スィークを挟んで徹底的に追求しようと思うのだが?」
「残念なことに陛下。あれはスィーク殿との仲は自分たち以上に良好かと」
「であるな。どうしたものか……」
頭を振って、シュニットは問題を後回しにすることとした。
「王都内の騒ぎは?」
「はい。対ドラゴン遊撃隊の活躍で大多数の駆逐が終了しているようです。現在は捜索しながら虱潰しに駆除しています」
「そうか。それ以外では?」
「はい。ハルムント家のメイドが医者の身辺警護を継続し、現在は怪我人の手当てを急いでおります」
「そうか」
鷹揚に頷く国王に王弟は内心でため息を吐いた。
「それで陛下」
「何だ?」
気配を察したのかシュニットが疲れた目を向けて来る。
「下町に住むキルイーツ氏の元に凄腕の医者が合流していると報告が」
「……それは僥倖ではないか。怪我人が多いのであれば」
「それが外見的特徴から『吸血』のリグと呼ばれる者なのです」
「……」
言葉を遮られた無礼は、『そんな優しいことではない』という弟の配慮だと知った。
「その者は確か?」
「はい。先日の話し合いで出たアルグスタの協力者です」
「……そうか」
疲れ果てた様子でシュニットは息を吐く。
「アルグスタは今回の騒ぎに対し、ファシーとリグの両名を呼び寄せた……そう考えれば良いのだな?」
「ええ。“2人”を“同時”にですね」
具体的な数を口にしハーフレンも応じる。
一度口を閉じたシュニットは思案する。このことの意味を。
「あれは最低でも2人までは呼び出せると考えるべきか?」
「はい。少なくとも2人までは呼べるのでしょう」
その証拠に2人の存在は確認されている。
「……それでノイエは?」
「はい。不肖の弟と一緒にスラムの廃墟で亡者たちと敵対しているとか」
「そうか」
少なくともあの弟は国に対する反意は持ち合わせていない。
率先して危ない場所に出向き……そこでシュニットは思考を止めた。
不肖の弟はそこまで真面目ではない。彼が動く時は何かしらの理由がある。
最も多い理由は、妻に関する何かしらの事柄だ。
「近衛団長よ」
「はい。陛下」
恭しく首を垂れる相手にシュニットは疲労が滲んで消えない目を向けた。
「今回の騒ぎ……もしや発端はアルグスタなのではないか?」
「……否定は出来ません」
少なくとも関りはあるだろうとハーフレンも睨んでいた。
それほどにあの弟は好き勝手をするからだ。
「もう良い。それで他は?」
一度話を替えようとシュニットは手をヒラヒラと振る。
「ネーグランズ家の方は処理が終わり現在魔法使いたちの手によって焼却中とのことです」
「それもあったな。そっちの方が国として重要なはずなのに……」
『あの弟は本当に……』と言う言葉を飲み込みシュニットは頭の中を切り替えた。
「空席となる大臣たちの後継などは?」
「はい。根回しは終わっていますのでつつがなく就任することが出来ます」
「そうか。問題は地方に領地を持つ貴族か」
当主である者が王都で死んだとなれば、次の当主を立ててそれの許可を迫って来ることなど明白だ。
「証拠は?」
「そちらもつつがなく」
「優秀だな。お前の部下は」
「ええ」
返事をしながらハーフレンはつい頭を掻いた。
「何か苦労でも?」
「苦労は多いですよ。人員の半数は南部に取られ、使える部下は帝国との後始末で走り回っている状況です」
「それは確かに辛いな」
させている身としてはそれ以上何も言えない。
シュニットは部下の……弟の無礼に対し目を瞑ることで今回は終えることとした。
「ですので育成部よりネルネを戻しました」
「……ハーミット卿のご息女か?」
「はい」
知っている名前にシュニットは顔を手で覆う。この国の人材不足は深刻なものだと理解した。
「大丈夫なのか?」
「一応。彼女もあれから少しは成長したので」
「少しなのか?」
「少しですね」
あっさりと認める弟に国王は泣きだしそうになった。
「彼女が何をしたのか知っておろう?」
「はい。貞操観念がだいぶ緩いとしか」
「それが問題だ。あれは……まあ良い」
過去にしでかした問題を今更引っ張り出しても仕方のないことだ。
何よりあの問題は前国王がどうにか処理した。おかげで国際的な問題となっていない。
苦悩する兄にハーフレンは軽く肩を竦めた。
「最悪アルグスタに預けてしまうことも視野に入ってます。あれはあのファシーですら手懐けるスィークとは別の意味での支配者ですので」
「……その手があったな。なら最悪そうしよう」
兄弟間でその話が纏まった。
何よりこれ以降、『人格に問題のある逸材は全てドラグナイト卿に預けろ』と言われるようになったらしい。
「それ以外では」
ゴゴゴゴゴ……
不意の地震にシュニットとハーフレンは身構える。
振動は弱く短かったが、普段とは違う揺れにハーフレンは迷わず窓へと向かった。
「何だ……あれは?」
目撃したのは王都の北側。スラムの廃墟がある場所から天へと伸びる光の柱だった。
「何あれ?」
「だぞ~?」
外の様子を見ていたレニーラとシュシュは、その様子に目を丸くする。
金色に輝く光の柱が天へと伸びている。
「煽りすぎたんだ!」
現象を理解しているのであろうティナーは髪を噛み毟り吠える。
「良くない魔法なの?」
「良くないなんて物じゃない!」
歌姫の問いかけにティナーは呻く。
「ハルクはノイエたちに纏わりついている霊体に力を与え復讐させようとしているんだ!」
それがあの一族最強と呼ばれる男が用いる異世界魔法の正体なのだ。
~あとがき~
別件で離席していたシュニットが戻り、報告を受ける。
ぶっちゃけよう…こんな部下など作者でも欲しくないとw
良く胃痛に悩まされない物だと思いながらも国王は問題児のやらかしに頭を痛めます。
で、その馬鹿が煽り続けた結果…良くない魔法が
(C) 2021 甲斐八雲
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