殺して生き返らせてまた殺す!

「それで画期的な技術とは何だ?」


 ケインズのオッサンが勝手に座ってミネルバさんに飲み物を求めている。

 パパンが苦笑しているけど、あのオッサンは昔からあんな感じだからな。それを理解してかグローディアも苦笑していた。


「簡単に言うと使い捨ての術式です」

「そんな物は昔からあってな」

「ええ。ですが安価で大量生産できる術式だとしたら……どうしますか?」


 にっこり微笑んで告げるグローディアの言葉に場の空気が凍り付いた。


 あの叔母様やミネルバさんですら動きを止める衝撃発言だ。

 唯一動いているのはお菓子に手を伸ばしているノイエぐらいだろう。流石だよ僕のお嫁さん。


「それは事実なのか? グローディアよ」

「事実です」


 一瞬立ち上がりかけたパパンが力無く車椅子に戻る。

 無理をするなと言いたいが、それほど衝撃的なんだろうな。


 で、比較的僕が落ち着いているのは、シュシュが事前に『アイルローゼが~お尻を~振って~興奮~して~いるんだ~ぞ~』と興味を引くような言い回しで説明してくれたからだ。


 ビックリしたけどその発想は使い捨てのカートリッジだよね? ネタ元はあのへっぽこ賢者か?


「今回多くのプレートを必要とする魔法式が出来上がり、あの魔女ですら期日までにプレートを刻めないと結論が出ました。

 ので、どうにか出来ないかと思案したところ……まあ発想の転換ですね。連続使用する根幹となる部品はプラチナで、残りは安易な素材で使い捨てを前提に作ればいいと結論付けました」

「それで大量生産とは?」


 現王の問いにグローディアが答える。


「この国にも『印刷機』がございますね? それと鍛冶技術の融合です。金型を作り、その中に加工しやすい金属を入れて上から押す。すると術を刻んだプレートの完成です」


 パンとグローディアが自分の薄い胸の前で手を打った。


「強度的には一度しか使えませんが、プレートより遥かに安い値段で作れます」

「……それでどんなカラクリがある?」

「気づきましたか」


 現王の言葉にクスクスと笑うグローディアは人が悪い。


 僕もそれなら大量生産だと心底思ったよ。問題点をシュシュが口にするまではね。


「金型の加工にございます。今回は鋼を使用しましたが、それでも50回も使用すると摩耗して式に歪みが生じます。その度に修正が必要なのです。

 術式を理解し、鋼に刻むことのできる腕を持った人物が」


 お兄様が眉間に皺を寄せた。


「……つまりこの国では?」

「はい。アイルローゼただ1人でしょうね。けれど彼女は何でも武器作りの手伝いはしないとか? そう本人の口から聞きましたが……シュニット王?」


 チラリとお兄様が僕を見てため息を吐いた。


「その通りだ。彼女は武器作りはしないと言っている」

「ですからこの技術を私はこの場で告げたのです」


 ノイエを除く全員が言葉の意味を理解した。


 使い捨ての技術は兵器に応用できない。何故なら唯一技術者であるアイルローゼが武器を作らないと宣言しているからだ。


「だが仮にそんなことを言えない状況に陥ったらどうする?」


 腕を組んでグローディアを睨んでいた馬鹿兄貴が口を開いた。

 ウチの近衛団長さんは戦闘狂の気があるから……まあ当然な質問だろうな。


「この国への侵攻ですか? なら今回の転移魔法が完成した時点でありえません」

「なに?」

「少なくともアイルローゼが生存している限りは……不可能でしょうね」


 うわ~。その言い方は僕としては好きになれない。


「彼女の腐海を防げる軍など居るのでしょうか? 良くて時間稼ぎは出来るでしょうが……こちらには魔力増強のプレートをその気になれば大量に生産できるのです」

「……」


 馬鹿兄貴もそれに気づいて顔をしかめる。


「敵が居なくなるまで彼女が魔法を使えばいいんですよ」


 イラっとしたからそっとノイエの耳元に口を寄せる。


「はい」

「うごっ」


 行動したノイエの手により、腹立たしい馬鹿姉が沈黙した。


 脇を押さえて震えるグローディアに全員の視線が向けられ……プルプルと震えた彼女が人でも殺しそうな視線を僕に向けてくる。


「アルグスタ? そろそろ本気で始末するわよ?」

「煩いボケっ! お前こそ本格的に墓石の下に戻すぞ?」

「「あん?」」


 立ち上がり掴みかかろうとする僕らをノイエが両手を広げて制止してくる。


「喧嘩はダメ」

「「……」」


 視線で『ノイエに感謝しろ』と相手に告げて僕は椅子に座り直した。


「ちなみに今そこの阿呆が言ったことは実行不可能ですから」

「あん?」


 馬鹿な姉が睨んでくるが、無視だ無視。


「アイルローゼはもう人殺しの為に魔法を使わせない方が良いんです」

「それは何故だ? アルグスタ?」

「はい」


 視線をお兄様に向けて僕は口を開く。


「彼女の魔法は強大で凶悪です。そんな魔法を連発しようものなら周りの国々が恐れ……きっとユニバンスを潰そうとするでしょう。けれどここで一つ忘れてはいけないことがあります」


 そう。とても簡単なことだ。


「そこの馬鹿も言いましたが、アイルローゼは未来永劫生きられるわけじゃないんです」


 ノイエの中に居る彼女たちの寿命はノイエと同じなんだ。

 一蓮托生とも言えるけれど、つまりそれは制限付きの無敵でしかない。


「今の僕らが安易な方法を使い敵無しになっても、子供や孫の代でその利息を支払うこととなります。下手をすればこの国は各国から攻められ蹂躙されかねない。僕はそんな未来を子供たちに残す酷い大人にはなりたくないので」

「「……」」


 全員が静かに聞き入り、大半が苦笑した。

 若干1名犬歯を剥いて怒っているのが居るけれど、あれは後でどっちが正しいか拳を交えた話し合いが必要だ。


「ので、新しい技術を含めて……未来の子供たちが笑って暮らせるようにするための話し合いをしましょうよ。そもそも今日は転移魔法の報告って話だったんですからね」

「そうであったな」


 深く頷いてお兄様が一同を見渡す。


「どうもまだ我々は『負けない方法』を探し求めてしまっているようだ。過去の呪縛というのは本当に厄介であるな」

「僕なんて従姉とか言う厄介な呪縛に付きまとわれてますけどね」

「……」


 はて? どうしてお兄様はそんな悲しい目を?


「そろそろノイエに別れの言葉を告げなさい。アルグスタ」

「……」


 聞こえて来た地を這うような声に全員が視線をそらした。


 だがあえて言おう。上等だと。


「お前こそ墓石に戻る覚悟を決めろやっ!」

「殺す! 殺して生き返らせてまた殺す!」

「上等だ! お前のそのまっ平らな胸を墓石の代わりにしてやるよ!」


 ノイエの制止を振り切り、僕とグローディアは掴み合いの喧嘩へと発展した。



 あとで滅茶苦茶叱られました。


 僕は悪くない。悪くないもん。




~あとがき~


 グローディアはコテコテのユニバンス王家の思想を持ってますね。

 けどアルグスタはその真逆の思想の持主とも言えます。


 水と油な関係なので…喧嘩が絶えませんw




(C) 2021 甲斐八雲

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る