ノイエの胸も最高です

「……」


 頭を抱えて動きを止めている相手を見つめ、部下である騎士たちは視線を逸らせずにいた。


 ユニバンス王国大将軍であるシュゼーレは、自治領の視察を終えて王都に戻ってくるなり山のような仕事を押し付けられたのだ。

 犯人は分かっている。少しは罪悪感を覚えたのか、軽く仕事をした形跡がある。

 ただあまりにも膨大な量で腰が引けたのか……本当に軽くだ。


「国軍を2,000か」

「はい」


 呟いた大将軍の言葉は何度目か、答えた副官は思い出せない。

 定期的にこの言葉を呟いているような気がするからだ。


「誰を司令官に据えるべきか?」

「……」


 大将軍の問いに副官は口を閉じる。


 今回は自治領への援軍である。敵はあの帝国軍師が率いる精鋭部隊だという。

 その事実を知り司令官を辞退する者が多くなる中、最もの問題はあの国一番の問題夫婦が出征する。

 大半の将軍が司令官の任を断ってくる。気持ちが分かるだけで強く命じられない。


「王族が出向くことは……議題に上らなかったのかね?」

「最初陛下がそれを理由にしていましたが……あまりの展開に誰も指摘できず」

「そうか」


 その場にシュゼーレは居なかったが、書記が書き残した物に目を向ければ……逆に居なくて良かったとすら思う。


「陛下にお会いして相談しよう」

「「……」」


 気のせいか最近めっきり老いが進んで見える大将軍に対し、部下たち全員が『お気を確かに!』と心の中で念じた。

 彼が勇退でもしようものなら……現状の大将軍の地位を引き継ぐのは拷問にしか思えないからだ。



 こんなにも頭を抱える大将軍が居る最中、そんな事態を作った張本人も時は違えど自分の屋敷で頭を抱えていた。




「ん~」

「何々アルグちゃん? お姉ちゃんを見て興奮してるの?」


 宝玉を使って出てきたホリーが下から支えるように組んだ腕で胸を持ち上げる

 やはり大きい。何でもノイエの中では3番目らしい。リグが絶対王者として君臨しているのは知ってるけど2番は誰だ?


 グイグイと胸を強調してくるホリーに対し、彼女ほど巨乳ではないノイエが自分の胸を見つめている。

 決してノイエの胸も小さくない。隠れ巨乳系のノイエは立派なものを持っている。


「ホリーお姉ちゃん」

「何々? ベッドの上で股を開けばいいの?」

「落ち着いてください」


 ホリーが暴走するとノイエもこれ幸いと追随するからね?


「お姉ちゃんの服ってさ……皆と同じだよね?」

「これ?」


 組んでいた腕を解いてホリーがスカートを摘まんで見せる。


「これは死刑囚が最後に着る服よ」

「……」


 何も言えないんですけど?


 少し寂しげにホリーが笑う。


「これを着て処刑台に昇るの。で首に縄をくくって目隠しをして、底が抜けたらビーンってね。それで死ぬはずだったんだけど……目が覚めたら例の施設に送られる馬車の中に居たわ」

「そうなんだ」


 ただ気になったから質問したのにとんでもなく重い内容だったよ。


 ホリーの場合は他の人たちと違ってあの日の前から人を殺していたけれど、それはあくまで家族を守るためだ。そんな人がずっと死刑囚の服を着ているのは良くない。

 僕の中の何かがそれを許さない。


「面白くないね」

「ん?」

「面白くない」


 というか話の終わりを契機にノイエとホリーがベッドの上に登ってこようとしている。

 このまま2人に襲われたら僕の腰が本格的に壊れる。


「ホリーお姉ちゃんに新しい服をプレゼントしなければ駄目だと気付きました」

「服?」

「そうです」


 僕の全力の頷きにホリーが進みを止めた。

 ノイエよ。お姉ちゃんが止まったのだから君も止まりなさい。


「そう言えばリグの服も変化してたわね」

「あ~。僕が細工したヤツかな?」


 でもリグの話では中に戻ると元に戻るって話だったような? 僕の聞き間違えか?


「確か……ある日を境にシュシュがメイド服で、レニーラが下着みたいな感じで、グローティアがドレス姿に変わったわね」

「あ~。宝玉で出てきて着替えた人たちだね」


 ホリーが思い出したようにそんなことを呟く。


 その姿を全部僕は見ています。

 シュシュにはメイド服を着せ、レニーラにはダンサー風の衣装を着せた。グローディアのドレスはお城に置かれている貸し出し用という名の売り物ドレスだろう。

 あのドレスの代金って僕宛に来るのかな?


「なら私が着替えればこの服を終えられるということかしら?」

「かもね」


 経験からすればその可能性がとても高い。


「つまりホリーに別の服を……」


 言ってて気づいた。無理だ。

 ホリーの胸のサイズをどうこう出来るノイエの服はたぶんない。

 だがその事実を相手に告げればこのまま2人に襲われる。


 これが背水の陣なのか? 僕は戦い続けるしかないのか?


「ちょっと実験をしよう」

「実験?」

「ホリーに別の服を着せてどうなるか確認します」

「……そうね。面白そうね」


 何故か乗り気なホリーにノイエが軽く首を傾げる。

 その様子は『アルグスタ様を襲わないの?』とそんな風に見えるのは僕の目が腐っているのだろうか?


 急ぎ壁の伝声管の元に向かい蓋を開ける。


「ごめん。ポーラがまだ起きているようならちょっと来てもらって」


『畏まりました』


 管の向こうからメイドさんの返事が来る。

 寝ずにずっと待機しているメイドさんたちって凄いわ~。それが仕事だといってもね。


 しばらく待つと寝間着姿のポーラがやってきた。


「よびましたか?」

「ごめんね。寝てた?」

「へいきです。ほんをよんでました」


 真面目か! ウチの妹は本当に真面目だな。


「にいさま。ごようはなんですか?」

「そうそう。実はポーラにホリーの服を見繕って来て欲しいんだけど?」

「……」


 ベッドの上に座っているホリーに目を向けたポーラは、ある1点を凝視する。

 分かっています。ホリーの胸が最大の難敵であると。


 ただ何故かポーラは自分の胸に視線を向けてから僕に目を向け直した。


「にいさま」

「なに?」

「むねはおおきいほうがいいんですか?」

「……」


 その質問は何を指しての言葉でしょうか?

 ホリーの服だよね? 服に関して言葉だよね?


 けれどその質問は答えを間違えると僕が死にます。

 だってホリーがグルンとその目を回して……逝っちゃってる視線を向けてきてますから。


「ポーラ」

「はい」

「人にはその人にふさわしい胸の大きさがあるんです。だからポーラの胸が今のままでもお兄ちゃんはなんとも思いません」

「このままでも?」

「そうです。胸とはその人にふさわしい大きさに自然と成長するものなのです。だからポーラにはポーラの大きさがあって、ホリーお姉ちゃんにはお姉ちゃんの大きさがあるんです。ホリーの胸は似合っているから最強なのです!」

「……もうアルグちゃんったら~」


 デレたホリーの表情が柔らかくなった。


 危ない。あぷなっ!


 飛び込んできたノイエの頭突きが僕のお腹に突き刺さった。


「私は?」

「ノイエの胸も最高です」

「……」


 フリフリとノイエのアホ毛が揺れだす。

 お嫁さんのご機嫌取りを忘れていたよ。


 というか……このハーレム生活は僕に対して厳しすぎやしませんか? ねえ?




~あとがき~


 頭を抱え大将軍は…本当に被害者だよな。


 で、屋敷ではホリーが出てきてアルグスタがピンチです。

 起死回生の一手として服のことに気づいた彼は…ホリーに新しい服を準備します




(C) 2021 甲斐八雲

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