結果としてこれは救いなのか?

《逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい……》


 ベッドの上で頭を抱えて某アニメの主人公とは逆のことを考える。


 もう無理だ。今回ばかりは色々と無理なんだよ~!

 どう回避しろと? どうすれば良いの? ねえ?


「アルグ様?」

「ノイエ~」


 サスサスとノイエが背中を撫でてくれる。


 自分の我が儘で僕が大ピンチだと言う自覚がちょっとはあるのか、さっきまで太ももを貸してくれた。全力で甘えて頬を擦り付けていたら、そのままノイエが横になり『する?』とか言い出したので遠慮した。甘え過ぎるとノイエのスイッチが入るらしい。困ったちゃんである。


 ただノイエの太ももの感触を堪能しつつ現実逃避していた僕にも問題はある。

 あの滑らかな肌に頬を押し付けるのは極上の幸せである。だから仕方ないんだけど。


 現実逃避を終えたらやって来るのは現実的な難問だ。

 即発狂状態で頭を抱えることとなった。


 何なのグローディアって? そんなに僕とノイエの仲が良いのが許せないの? こんなに難題ばかり持って来て……従姉じゃ無かったらシュシュに頼んで永遠に封印して貰うよ?

 そんな魔法があるのかは知らないけどさ。


「アルグ様?」

「……仕方ない。最終手段だ」

「はい?」


 顔を上げガシッとノイエの両肩を掴む。

 何故か目を閉じたお嫁さんは何を期待しているのだろうか? と言うかゆっくりと後ろに倒れ込もうとしないで。何でそんなにやる気なの? ねぇ?


 だが背に腹は代えられない。

 最近のホリーって……請求が際限無しで若干嫌なんだけどな。何かが枯渇しそうで。




「うん。分かった。戻ってグローディアを木っ端微塵にすれば良いのね?」

「……違うから」


 艶々とした全裸のノイエが軽く背伸びをして腕も伸ばす。

 でも青い。今の彼女はホリーの青色をしている。


「冗談よ。もう」


 クスリと笑って倒れ込んで来て甘える。

 その仕草は物凄く可愛いんだけど……その手は何処で何をしている? もう無理だからね? 若ければ性欲が底無しとか同人誌の中の世界だからね?


「ん~。話を聞いた限り、グローディアとアイルローゼは2人であの日の罪を背負う気で居たみたいね」

「だよね?」

「ええ。でもアルグちゃんが新しい敵を作り出して罪を押し付けてしまった。

 アイルローゼは驚いてたけど、グローディアは……まあ便乗してみせるのが王女のしたたかな感じかな」


 したたかなのは良い。僕を巻き込まなければ。


「ならあの日の犯人が暴かれる心配は?」

「メイド長が捕らえたと言う貴族次第かな~。後で探りを入れて確認した方が良いけど……まあ多分大丈夫だと思う」


 叔母様が捕まえた貴族3人は、きっとミルンヒッツァ家のグロームさん程度に話を聞かされた人たちなのだろう。

 王家に対する攻撃材料にするはずが、本人が登場してパニックになって思わず糾弾した感じだ。

 あれほど攻撃的な姿勢を見せられれば防衛本能が働いたのかもしれないけど。


「シュニット国王はグローディアを取り込もうとしていたから全てを知っても断罪はしないはず。この部分は有りのままを説明して相手の協力を取り付けた方が良いと思うの」

「はい」

「アイルローゼの秘匿は王家主導だという姿勢で良いはずよ。事実王家主導だからアルグちゃんは何か質問されたら『陛下にお聞きください』で大丈夫。あとはあっちで言い訳してくれる。ただしこれ以上ノイエの中に誰か居ることを知られないようにね?」

「気をつけます」


 現在ノイエの中に別の誰かが居るのを知っているのは、2人の兄とフレアさんだけだ。

 ポーラは……あの子も"あれ"を実質入れているようなものだしな。何よりあの子が裏切るなんてことはない。ウチの可愛い妹ですしね。


「で、アルグちゃん的には『グローディアとの関わりをどう誤魔化すか?』の対処方法を知りたいんだよね?」

「そうですお姉ちゃん」

「うふふ」


 全力で甘えるとホリーが蕩けた表情を見せる。

 ノイエなんだけど。その顔はノイエなんだけどね。


「でもお姉ちゃん。ご褒美欲しいな」

「……さっきあんなに絞り尽したのに?」

「あんなの前菜でしょう?」


 恐ろしい。恐ろし過ぎる言葉に静かに腰が抜けそうになった。


 甘えていた青いノイエが体を起こして僕の上に乗る。

 ある意味での定位置だ。マウントポジションだ。


「後3回は頑張って欲しいかな~。それ以上でも嬉しいけど?」

「無理! 3回なんてとても無理っ!」

「……そっか~。お姉ちゃん悲しいな」


 悲しそうな顔をしてから、ペロッとノイエが自分の上唇を舐める。


「3回目以降からお姉ちゃんの口が軽くなって、解決方法がこの口から溢れ出るんだけどな~」

「卑怯なっ!」

「あら? そんな悲しいことを言うんだ?」


 前屈みになったノイエの背後で、ワラワラと青い髪が生き物のように蠢く。


「お姉ちゃん……愛しいアルグちゃんが勝手にお嫁さんを増やすのをグッと我慢しているんだけどな?」


 真顔で冗談に聞こえないトーンの声でホリーが告げて来る。

 スルスルと伸びて来た白い手が僕の首をギュッと掴んだ。両手で、今直ぐに締めるかのごとくに。


「お姉ちゃんアルグちゃんのことが好きすぎて……最近中の人たちから『病的』とか酷い言葉を言われてるのよ。ただアルグちゃんが好きなだけなのにね~。本当に酷いと思うでしょう?」


 落ち着こう僕。


 ホリーは元々家族を、自分の本当の姉と弟を愛し過ぎたが余りに殺人鬼になった人物だ。

 つまり普通の人よりもその心の闇は……深く濃くそして病んでいる。


 ならば僕の対応は1つ!


「お姉ちゃんの深い愛情は理解してるから大丈夫だよ?」


 全力で肯定しろ!

 否定は命の危険が伴う。だからホリーの言葉は神の声だと思え!


「本当に? 怖いとか重いとか思ってない?」

「思わないよ! だってお姉ちゃんの愛情は人一番大きいんだから! 普通の人よりも大きい分だけ、周りの人は重く見えるのかもね?」

「……重いの?」


 グルンとノイエの目が僕を見る。

 何このホラー? 知らない間にベッドの上が猟奇の世界なんですけど!


「お姉ちゃんの胸と同じで相応しい人が持つから目立つんだよ! 僕はあの胸好きだよ? お姉ちゃんの大きな胸を重そうとか思わないよ? でも周りにはお姉ちゃんの胸を『重そう』とか言うでしょ? あれは持ってない人の僻みだから! それと同じでお姉ちゃんの愛情は大きいのであって言葉で表そうとすると『重そう』とか使わないと表現できないんだよ! 僕から見たら全然軽いのにね!」


 必死過ぎて何を言ってるのかもう良く分からない。

 でも逝っちゃってたノイエの目が普通の……ホリーの物に戻った。


「もうっ! アルグちゃんったらお姉ちゃんをその気にするのが上手なんだからっ!」

「あはは~」

「分かったわアルグちゃん。今日はお姉ちゃんがこの大きな愛を見せてあげる」


 前のめりで唇を塞がれ……深い深いキスをする。

 酸欠間際で解放された。


 ペロリとまた上唇を舐めるホリーの目が、ハートマークに見えるのは僕の錯覚だろうか?


「アルグちゃんはそのままで良いわ! お姉ちゃんがこの体全部を使って勝手に楽しんで、ご褒美に解決法を教えてあげるから!」


 ……あれ? 結果としてこれは救いなのか?


「のごぉ~!」


 凄い勢いでホリーに襲われた。絞られた。乳牛相手でももう少し慈悲があると思う。




~あとがき~


 最近ホリーとの描写を避けている理由がこれ。R18気味になるからw

 何より一歩間違えると猟奇的なR18に突入するからwww


 愛し方が下手というか何と言うか…対手に対して思うがままに自身の想いをぶつけてしまうのがホリーの良い所であり悪い所ですね。


 ですが一応対処法は…教わったのだろうか?




(C) 2021 甲斐八雲

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