地震とか珍しいな?

「るるる~」


 機嫌が良さそうにノイエがフワフワしている。


 黄色に変わった今日のノイエはシュシュだ。宝玉は使わずにノイエの体を使っている。

 理由は簡単だ。『1日も~縛られる~のは~嫌なん~だぞ~』だそうだ。


 フワフワと漂い流れる彼女を見ていたら動きが止まった。

 と、ノイエに戻って彼女がこっちに歩いて来る。


 本当に飽きるのが早い。そしてノイエへの配慮が足らない。

 過去を知ってから色々と躾をして来たから、少しは成長するかと思ったがシュシュはシュシュだ。


「アルグ様」

「ん?」


 ベッドの上で座る僕にノイエが抱き付いて来て甘える。

 本当に可愛い。何この可愛い生き物は?


「あっ」

「あ?」


 声を上げてノイエの色が変わる。

 栗色だ。ノイエの長い髪が綺麗な栗色に染まった。


「アルグ、スタ、様」

「ん~。ファシー」


 顎の下を擦ってあげると目を細めて……本当にファシーは猫みたいだな。


「ところでファシー」

「は、い」

「宝玉で出て来ても良いんだからね?」

「……」


 だがファシーの表情が若干笑顔に!

 慌てて抱きしめて頭と背中を撫でてやる。


「ダ、メ」

「どうして?」

「……小さい、から」


 少し離れファシーがそっと両手で自身の胸を下から持ち上げる。

 現在はノイエの体だからちゃんと持ち上げられるほどの胸が存在してますね。


「胸も、お尻も、全部……小さい」

「それは悪い事じゃないよ?」

「ほん、とう?」


 世の中には小さい方が良いじゃないかと言う思想はあるのです。

 現在の僕はノイエの美しい曲線により完全なクビレ派ですが、決して胸が嫌いな訳でもない。大きくても小さくても必ず需要はあるのです!


 仮にこれを言葉にしたら僕は間違いなく変態だろう。


「ファシーは可愛いし、僕の為に一生懸命だしね。本来のファシーもいっぱい可愛がってあげたいです」

「……」


 頬を赤くしてファシーが抱き付いて来る。

 やはりノイエに似ていて可愛らしいのです。


「でも、ダメ」

「どうして?」

「……」


 抱き締めていた腕を離してファシーがちょこんと座る。

 僕の方を見つめて……移動を開始した。


 えっとファシーさん? 優しい感じでやってますけど、それってある意味普段のノイエと同じことですよね?


 優しい配慮が伺われけど彼女は僕に馬乗りになった。


「こう、できない」

「ああ。体格差ね」


 本来のファシーは下手をしたら幼く見えるポーラよりも幼く見える。

 成長が途中で止まった感じなんだよね。


「まあ気にしなくても良いと思うよ? 馬乗りだけが全てじゃないし」


 と言うかどうして皆さん僕に馬乗りしたがるのでしょう? 自然とマウントを取ることがルールなのですか? ノイエとその家族たちは乗りたがりばかりなのですか? 否定は出来ないけど。


「だからファシーも本来の体で出て来ても良いのです。可愛いし」

「……は、い」


 ちょっと泣きそうな感じでファシーが頷く。

 感情が逆転しているファシーの場合は今笑ってくれているのだ。


 それは良い。それは良いのだが、


「ところでファシーさん? 何故に退いてくれないのですか?」

「がん、ばる」

「何をって……どこでそんな技をっ!」

「まか、せて」


 任せてしまったら僕の沽券が! うな~! 誰がファシーにこんなテクニックを~!




「アルグスタ様? 今日はどうしたんですか?」

「……燃え尽きて真っ白なだけです」


 どんどんファシーがエッチな子になって居るのです。大変危険です。このままでは僕の癒しが無くなります。


 椅子に座りどんよりする僕をスルーして、クレアは金網の前へと戻る。


 何て薄情な。そんなに肉が喰いたいか?


 薄い雨雲が広がっている本日は、ギリギリ雨も降らなさそうなので約束通り大焼肉大会を開催することにした。

 牛と豚の肉を各2頭分ずつ用意した。あと鶏肉や魚、野菜など適当に焼けそうな物もだ。


 今回の無茶に参加した人たちは出席自由なので結構な人が集まっている。

 王城に隣接する鍛練場を借り切って良かった。


「はい。にいさま」

「ん」


 本日のポーラは可愛い娘さんです。

 メイド服では無くドレスを着せて正式にノイエの妹として参加させた。


 彼女のお披露目会も兼ねているのだが、完璧に仕込まれたポーラからメイド気質が抜けない。

 ちょこちょこと走り回って給仕をしている。


「お水が欲しいです~」

「はい」


 チビ姫の声に反応している辺りもう立派なメイドなのだろう。

 うんうんと頷いている叔母様の様子に若干イラッとしたが。


 そんな初代メイド長もご参加だ。

 義理の息子であるイールアムさんが彼女を座らせた車椅子(予備)を押して回っている。

 あれは試作で作ったのに僕が使ってから叔母様の手に渡ったらしい。


 ちなみに前国王専用機は現在誠意創作中だ。

 何でも赤か白かのカラーリングで揉めているらしい。

 個人的には好きにしろと言いたい。


「アルグスタ様」

「良く食べるね?」

「はい。まだ怪我も治ってないので」


 皿を持ってやって来たルッテがモクモクと肉を食べている。


 まだその胸には包帯が巻かれていて、鎧では無くシャツを着ている状況なので首元から覗く谷間が凄いことになって居る。

 が、本人は無自覚だ。


「隊長の頭の上のって何ですか?」

「初めて見るの?」

「ですね」


 金網の前に陣取り凄い勢いで肉を食らっているのはノイエだ。

 最近食べる量が増えた気がするが、頭の上の宝玉が追加されて消費魔力量が増えたのかもしれない。


「あれを念じながら握り潰すと異世界のドラゴンが出て来る品物です。やってみる?」

「……もうしばらくはドラゴンとか名前の付く物は見たくないです」


 その発言は対ドラゴン遊撃隊所属としては問題発言な気がするが。


 顔色を悪くしてルッテが逃げて行った。端の方で仲良く食事しているモミジ&アーネス組と合流している。こっそりメッツェ君も居るから……まあ良いだろう。祝儀は弾む予定だし。


 と言うかノリノリでアホ毛で宝玉を上下に弾いて肉を食らうノイエが凄いな。

 あのアホ毛とか言う魔剣は意志を持っているんじゃないのか?


 食事に集中していたノイエが顔を上げてこっちを見た。って?


 ゴゴゴゴゴゴ……


 地面が揺れた。けれど僕はノイエの腕の中だ。

 お姫様抱っこをされて完全に護られている。


「地震とか珍しいな?」


 震源地がノイエ以外だと実は初めてかな?


 参加者全員が一応に慌てたけど、次が来ないので静かになった。

 宴も継続となり……僕らはその日のうちに地震の存在を忘れてしまった。




~あとがき~


 自分の気持ちを表に出せないファシーは唯一アルグスタの前では素直です。

 大好きな人ですし、彼のお嫁さんですから。

 でもアルグスタはノイエの旦那さんなので…実は色々と葛藤が。


 その辺のことはいずれ本編で




(c) 甲斐八雲

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