踊るぞノイエ~
「ぬはははは~。外だ~。自由だ~」
ノイエぐらいの身長でノイエよりも大きな胸。スラリとした手足は長く感じ、とにかく顔とスタイルだけなら文句なしで男性が熱中するであろう美女。それがレニーラだ。
言動は本当に残念だけどそれがレニーラだ。大切だから何度でも言いたくなる。
軽くマットレスを蹴って、クルンと新体操とかの器具を使った競技で着地する時の動きを見せて両足から綺麗に床へと降りた。
着ている服が簡素なワンピースのような物だから色々と丸見えです。って下着は下だけかいっ!
「あ~動くわ~」
クルクルと回るレニーラは間違いなくレニーラだ。
何があった? 落ち着いて考えても全く分かりません!
「お姉ちゃんっ!」
「のっは~!」
ノイエがレニーラに飛びかかったけれど、流石は舞姫……あの突進を完全に受け流したのか?
「あはは~。ノイエと同じ身長になるとは~」
「お姉ちゃん……」
「も~。ノイエは泣き虫だな~」
ウリウリと頭を撫でるレニーラも嬉しそうに笑っている。
だが謎は1つとして解決していないな。
「おい。レニ」
「踊るぞノイエ~」
僕の言葉は彼女の声により打ち消された。
抱きしめて居たノイエを開放してポンッと両手で肩を押してノイエとの距離を作る。
と、レニーラが軽くスカートの裾を抓んで一礼した。応じたのかノイエも礼をする。スケスケのキャミソール姿ですけど。
音もなく踊りだしてしまったので僕は仕方なくベッドの端に移動して座った。
楽しそうに踊る2人の邪魔はしたくない。質問なら後でも出来るし……と言うか今でも出来るな。
「ポーラ。お~い。ポーラ」
「っは! にいさま? なにか?」
ずっと呆けていたポーラの配線が戻ったらしく、ワタワタとしながらこっちに来て……目を点にした。
そりゃそうか。気づいたら知らない人とノイエが踊ってるんだ。驚くよな。
「……きれいです」
目をキラキラさせてポーラが踊る2人を見つめる。
って、そっちかいっ!
「まあ確かにね」
流石はレニーラの一番弟子であるノイエだ。
綺麗に踊っているけど……その上を行くのは師匠だな。圧倒的な実力差と言うのかな? 素人の僕が見ても明らかにレニーラの方が上手いと分かる。
「あはは~。ノイエ~? 下手になったんじゃない?」
「違う。これから」
「あれ~? その程度~?」
ただ負けず嫌いのノイエを煽ってずっと踊るのはいかがなものかと思いますが。
2人の踊りを眺めていたら、隣からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「で、あれは何よ? この問題児?」
「ご褒美よ」
視線を向けたら右目に金色の五芒星のマークを浮かべ、魔女に変わったポーラが居た。
「ご褒美って言うか……あれなの?」
「ええ。そうよ」
足を伸ばして気楽に座る魔女は、踊りに合わせるように軽く指を振り始める。
「取り込んだ宝玉を色々と弄り回して……で、中の子たちの協力を得て完成したの」
「具体的に?」
「うん? ノイエの膨大な魔力を5日間……120時間ほどあれに充填すれば約1日ああして外に出れる計算よ。ただし魔法を使えば魔力が消費されて外に出ている時間は短くなる」
ん~。一長一短だな。
「ノイエの体を使った方がバンバン魔法を撃てるよね?」
「そうね。魔法だけで考えればそっちね。でも魔力を使わない人はあっちの方が便利かも」
「ああ。確実に1日は外に出れるから?」
「そうね」
だったらノイエの魔力を流用するのをもっと強化した方が……まあ姿を見れるのは嬉しいけど。
「ノイエの魔力の流用を強化するのは?」
「あれは余りお勧めしないわ」
「何で?」
「私の使用分が減るから困るのよね」
「おいっ!」
険しい視線を向けたら口笛を吹いて顔を逸らしやがった。
「だってあんなに魔力を持て余してるのよ? お陰で今回の試験でも楽しい魔改造がいっぱい出来たし……いやぁ~。長生きはしてみるものね」
「長生きし過ぎてるだろう?」
「失礼ね。レディーに年齢のことを言うだなんて」
腕を組んでプイッと顔をまた背ける。
と言うかポーラでそれをしても可愛いだけなんだけどさ。
「で、あれがご褒美?」
「まあね。問題はあれで出ている人が死ぬと、貴女のお嫁さんの精神が崩壊するかもだけど」
大変恐ろしい言葉が聞こえて来たような?
「どう言う意味?」
「言葉の通りよ。ノイエの家族は彼女の一部なのでしょう? それを消失したらあの子は耐えられると思う? だから一蓮托生よ。そっちの方が緊張感を維持出来て良いでしょう?」
クスクスと笑うポーラが悪女のようだ。
可愛い義妹がどんどん毒されて行くよ。
「大切になさい。貴方なら今のお嫁さんの表情をどう判断するの?」
いつも通りの無表情だけど間違いなく笑顔だ。それも満面の笑みだろうな。
確かにノイエはとても嬉しそうだ……あれほど寂しい想いを我慢して来たら、消えたはずの家族とこうして会えたのだ。嬉しいなんて言葉で表現できないだろう。
そう考えると悪くない。
「あの子は良いけど……中の子たちには一刻の慰めよね。それも無慈悲な」
「何で?」
「少しは自分の頭を使いなさい。お兄様っ」
僕の鼻先に指を当ててポーラがクスリと笑う。
そう言われると少しは考えるが……分からんな。
「それよりお兄様」
「何だよ? と言うかポーラの体でそれを言うな。僕を兄と呼んで良いのは本来のポーラだけだ」
「そう。なら旦那様?」
「却下」
「ご主人様~」
「甘い声を出すなっ!」
シュチャッとハリセンを装備したら魔女が両手を挙げて降参した。
「ここで遊んでいるのは良いけど……時間、大丈夫なの?」
「はい?」
そう言われると起きてからずっと色々と話をしていて……ヤバい。
「のあ~! 遅刻だ~!」
「大丈夫よ。御貴族様なんだからドンと構えてのんびりなさい」
「そうすると今日の仕事が明日に回り、そうしてどんどん増えるんだっ!」
慌てて準備をと考えるけど、レニーラとノイエは踊ったままだ。
何よりレニーラがこの部屋に居ることがバレると色々と厄介だな。
「ノイエ。仕事だよ」
「いやっ」
「はい?」
踊りの掛け声かと思ったら、ノイエはあからさまに不機嫌そうなオーラを発している。
「行かない」
「あの~?」
「お姉ちゃんと居る」
「あはは~。ノイエは甘えん坊さんだな~」
抱き付いて来たノイエをひらりと交わし、レニーラの踊りは続行される。
と言うか……分かりました。そうですよね。
折角会えたお姉ちゃんと離れたくないですよね。雨期が来てドラゴンも居ないしね。
「ならノイエはレニーラと一緒に居ること」
「はい」
「部屋のことは……ポーラにお任せ」
「伝えておいてあげる。ご主人様」
イラッとしたけど今はこの馬鹿賢者に任せるしかない。
急いで部屋を出て廊下に待機しているメイドさんに声をかけて支度を急ぐ。
ああ。今日は超特急で仕事をして帰るしかないな。
そんな日に限って色々と仕事……4日間の出来事の諸々の書類が回って来て、身動きが取れなくなるのです。
(c) 2020 甲斐八雲
~あとがき~
宝玉を使い中の人を召喚する魔道具を作っちゃうのが刻印さんなのです!
そんな訳で中の人たちは一日だけ外に出れるようになったのです…何て恐ろしいw
ずっと我慢して来たノイエに対してちょっとしたご褒美なのですが、ただ刻印さんが言ってる通りこれってとても悲しい魔道具なんですよね
(c) 甲斐八雲
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