止めることが出来ればだけどね
帰宅すると甘えん坊のお嫁さんの泣き顔の出迎えを受けるわけです。
ウリウリとノイエの頭を撫でて軽く額にキスをする。
「ほら。無事に帰って来たよ」
「……はい」
「なら約束通り今夜は膝枕だ~」
無理やりテンションを挙げて入浴や食事を済ませて寝室へゴー。
ベッドでノイエの膝枕をたっぷりと堪能する。前から後ろから頭でノイエのスベスベな太ももを味わい尽して満足です。
と、今日はとても静かなポーラが荷物を抱えてやって来た。と言うか宝玉である。
「にいさまこれは?」
「あ~。ベッドのその辺にお盆ごと置いておいて」
「はい」
指示通りにお盆に乗った宝玉を置くと、ペコッと頭を下げてポーラが部屋を出て行く。
僕がノイエに甘えているからって気を利かせるとは……なんて出来た妹なのでしょう?
「ノイエ」
「はい」
ノイエの手を捕まえて僕の体を撫でて貰う。
体とか撫でて貰うとホッとするとか……僕ってば甘えん坊なんだろうな。
しばらくそんな甘い時間を過ごしていると、突然ノイエが立ち上がった。
「あべしっ」
「本当にそんな悲鳴を上げる人が居るのね」
クスクスと笑う栗色髪の賢者は、マットレスの上を歩いて宝玉へと向かう。
「これが宝玉ね?」
「割るなよ」
「割らないわよ」
布を退かして抱き寄せたそれを、彼女は撫でたり明かりに透かしたりする。
「それの解析とか出来ないの?」
「出来るわよ」
「……」
わ~い。あっさりと出来る宣言が出たよ。
「ただ少し厄介なのよね~」
「厄介とは?」
すると彼女は自分の閉じた左目を指さす。
「この中の魔女なら……たぶん1年もあれば解析できるでしょうね」
「お前なら?」
「条件次第で中学生男子の自家発電ぐらいの速度で?」
「中坊舐めるなよコラッ!」
ノイエの顔で自家発電とか言うな! 何かが穢れる!
「その条件を適用しないと?」
「たぶん解析不可能ね」
そうなると……実は先生って凄いのか?
と、宝玉をお盆の上に戻し彼女はベッドを降りて床に立つ。
「余り見られたくないのよね。ビジュアル的に」
「何が?」
閉じたままの左目を指さす。
「魔眼の力よ」
ニヤッと笑い彼女は何かを呟く。
すると閉じられた左目からドロッと溶け出るように液体が溢れ出した。
大変に気持ち悪いです。ウネウネと瞼の隙間から何かがっ!
白い乳白色のドロドロとした……溶岩のようなスライムのようなそんな粘着質な液体がどんどん溢れて宝玉を包み込む。完全に透明な玉を覆った白いスライムが……今度は逆再生を思わせる動きで左目へと戻って行く。
綺麗に全てを飲み込んだノイエの左目は元通りだ。閉じられてるから確認できないけど。
「って宝玉はっ!」
「回収したわ。今は私の手元よ」
「えっ? つまり中に?」
えっと……それは陛下からの預かり物で、先生への解析依頼を受けた物だ。
でも先生は現在身動きが取れない状況で、何よりあの先生でも1年かかるらしいから解析して貰えるならこっちの方が良いのか?
「あっ」
「あって何? 何をした? ねえ?」
「ううん。大丈夫。ちょっとあれしてこれしたらそれした感じでああなって……思いの外元気よくあれが飛び出した感じ?」
「良く分からんが卑猥判定っ!」
「ありがとうございますっ!」
召喚したハリセンで一発叩いておいた。
「で、実際は?」
「ええ」
どこからともなく椅子を持って来て彼女はそれ座る。
つか知的な女性って……どうしてこうも足を組んでみせるのかな? ノイエの寝間着は薄々だから下着とか丸見えなんですけどね?
「これは魔力の塊ね」
「はい?」
「だから魔力を圧縮しただけの物よ」
僕も移動してベッドの縁に腰を下ろす。
「割ると言うか『意志』ね。強い意志の力に反応して割れることで圧縮されている魔力を使って異世界から……違うわね。たぶんこの世界に呼び出されている異世界のドラゴンの残滓って言えば良いのかな? 残りカス的な物を具現化するシステムね」
うんうんと頷いている賢者さんが自己完結した。
もう少し掻い摘んで説明して欲しいんだけどね。僕としては。
「はい先生」
「なに?」
「だからもう少し簡単な説明を求める」
「……」
彼女は顎に指をあててしばし沈黙する。
「つまり『出でよシェン〇ン』と思いながら握ればドラゴンが出るのよ」
「まんまだな!」
掻い摘み過ぎた結果、今まで見てきた通りの答えになった。
「まあ仕掛けなんてどうでも良いのよ。ただしこれを割っても遡ってドラゴンの居場所を見つけるのは無理そうね」
ため息を吐いて彼女は横向きになるひじ掛けに両肘を突いた。
「鹵獲されて私が逆探知する可能性を計算した仕掛けね。たぶん作ったのは始祖の魔女」
「……歴史上の人物っすか」
「そう。そして一番厄介な相手よ」
怒った様子で彼女は何かブツブツと呟き出した。
『死ねば良いのに。死ねば良いのに……』と聞こえてくるのは僕の疲労から来る幻聴かな?
「解析は終わったわ。問題はこれは呼びながら割れば誰でもドラゴンを呼べる」
「何そのテロ兵器?」
「だけど……うん。これでこの宝玉はもう使えないわ」
ノイエの中で何か起きたのかそう言うことらしい。
全く見えなくて僕的には独り言チックな会話に付き合っている感じだけど。
「これはしばらく私が預かるわ。問題無いでしょう?」
「えっと……報告を出来たら紙に書いて貰えると助かるのですけど?」
「面倒臭いから自分でやれば?」
「誰かのお陰であと2日、ドラゴンと言う名の別の何かと戦うんですけどね!」
「ありがとうございますっ!」
追い打ちのハリセンチョップがさく裂してしまった。
「まあ日中暇だから走り書きで良いならやっておくわよ」
「1行で終わってたら許さんぞ?」
「……ピュ~」
口笛を吹いて誤魔化したよ。
もう嫌だ。何この変な生き物……疲れたよ。
「で、明日は?」
「明日は西から白虎ね」
目を閉じた顔を向け、彼女は楽し気に微笑む。
「白虎はドラゴンと呼ぶには小さいけれど、でもその力を圧縮してスピード重視に改造したから」
クスリと笑い彼女は両手を広げた。
「足を止めればそっちの勝ちよ? 止めることが出来ればだけどね」
~あとがき~
遂に宝玉が刻印の魔女の手に!
で、魔女が見せたのは魔眼の機能である『魔法食い』です。
追憶のカミューがこっそり使っていて描写を割愛したものでもあります。
だって閉じた瞼からドロドロと白いスライムが…色々とダメでしょう?
ちなみにノイエはこれを使えません。だって使い方を教わってないから!
そして3日目はスピード重視の白虎。スィークは戦えるのか?
(c) 甲斐八雲
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