ちょっと責任者、出てこいや!
「そんな訳で本日から4日連続で厄介なドラゴンが王都を襲います。質問や苦情は受け付けませんが来るのだから諦めて戦ってください」
王都の東側に陣取った僕らは夜明けと共に行動を開始していた。
とは言っても基本主力はルッテの弓だ。彼女が放つ矢に僕の祝福を纏わせてそれで狙撃する。
叔母様とイーリナは遊軍として何かあった時に対処する。早速イーリナは枕を抱いて寝始めているけどね。
「働け」
「体力の温存だ」
「ならば出たら働くな?」
「相手次第だ。そもそも相手も知らないのに戦うことなど出来ない」
ニートの割には正論を言いやがる。
「まあ良いや。ルッテ~」
「うふふ。これが終わったらお見合いだ。そうしたら告白されて……うふふ」
主力が全力でフラグを立てている。まさか初日に戦死するのがルッテなのか……南無南無。
「アルグスタ」
「はい」
「敵は本当に東に?」
「そう言う話です」
自分はあの賢者さんの指示に従うしかないのです。
彼女が『初日は東だから。理由? 青龍って東の守護でしょ?』とか変なことを言っていた。
その理論で行くと後の3日は何と戦うのだ? 少なくとも青龍以外に竜は居ない気がするのだが。
「まあ出て来なかったらそれはそれで良いんじゃないんですかね」
「……」
納得しない様子で叔母様も椅子に腰かけた。
ちなみに本日のメイド神ことスィーク叔母様は新作のメイド服だ。前と何か違うのか分からないが新作だというので『叔母様は何を着ても綺麗ですね』とよいしょしておいた。処世術だ。
本日の東部への街道は国軍を配置して通行止めにしている。
迂回をお願いしますという奴だ。
雑魚なドラゴンは西側でモミジさんを主力にしたノイエ小隊の面々が主体となって対応する。ぶっちゃけその他大勢だが、それでも個々の能力は高いそうなので頑張って欲しい。
ぼんやりと東の空を見つめていたら、動くおっぱい……じゃなくてルッテが首を傾げだした。
徹底してフラグを立てるおっぱいだな。全く。
「どうしたルッテ? 胸が膨れたか?」
「最近はそうでも……じゃなくて!」
まだ成長してるんかいっ!
「アルグスタ様~。あそこに丘とかありましたっけ?」
「僕に地理を聞くなよ全く……馬鹿なのか?」
「その言葉をそっくり返したいんですけど!」
プリプリ怒るなよ。ここには超万能メイド長様が……だからそのエプロンの裏側ってどうなってるの? どうしてそこから地図とか出て来るの?
「……あそこに丘などありませんね」
「はい?」
「この地図には丘など無いのです」
告げて叔母様は地図をエプロン裏に押し込むと、優雅に紅茶を飲み干して椅子から立ち上がった。
「えっと……つまり?」
ゆっくりと視線を動かすと丘が震えるように動きだした。
ああ。丘だと思ったら丘じゃ無いや。あれだね……えっとあれだよ。
立ち上がったそれは四足歩行の首の長い恐竜だった。
竜脚だっけ? 首が長いのに竜脚類とか意味不明な恐竜だと思う。
「アルグスタ様?」
「うん。普通に大きいね」
何の捻りも無い。純粋に大きくて首も長い。そして尻尾も長い。確かあれって首と尻尾が長いから倒れないとかN〇Kの番組で見た気がする。田舎在住の人間は基本テレビはN〇Kだ。
ゆっくりと頭を動かして……こっちを見た。
「アアア、アルグスタ様?」
「想定外の大きさだな!」
前回南部で見たのはツインヘッドの大怪獣だったけど、今回はオーソドックスな恐竜かよ! つか思い出した! あれだ! 実は空想だったとか言われているウルトラサウロスだ! あ~スッキリ!
慌ててルッテの矢筒にと飛びついて祝福を流す。投げて渡すと彼女はそれを番えて放った。
「避けた~!」
頭目掛けて飛んだ矢を巨体の割には首を動かしてひょいと避けたよ!
「お替わりです!」
「我が儘ちゃんだな!」
もう1本祝福を与えてルッテに放る。
「胴体を狙いなさい」
「はいっ」
叔母様の指示にルッテが胴体に向かって矢を放つ。
が……プスッと刺さっただけだった。
「アルグスタ様?」
グルンとフクロウを思わせる首の動きでルッテがこっちを向く。
中々に目が座っていらっしゃるね。
「祝福は使ったって」
「ならどうして?」
「どうしてって……」
僕の祝福は滅竜だ。ドラゴンであれば絶対にダメージが……あ。
「つまりあれはドラゴンじゃ無いのか~!」
詐欺やん! ドラゴンって言ったやん! ちょっと責任者、出てこいや!
「つまりあれは?」
スッと僕の横に移動して来た叔母様が静かな視線を向けて来る。
この状況で慌てないとか凄いなっ!
「でっかいトカゲです」
「……そうですか」
深々と頷いて叔母様はふと視線を王都に向けた。
「今日でユニバンス王国も終わりですね」
諦めていたのかよ~! だから悟りを得たような目をしてたのね!
何故か全力で泣き叫びたくなったけど、騒いでも仕方ない。
「頑張れルッテ。とりあえず力の限り矢を撃って!」
「ってそれ全部爆裂の矢ですよ!」
「出し惜しみ無しだ!」
必要経費でどうにでもしちゃる。問題は小型ドラゴンなら当たり所で一撃な矢でも……皮膚が軽く弾けて出血する程度だね。うん。積んだ。
「無理~! 誰かアイルローゼとか呼んで来て終末魔法を使って貰って~!」
先生の魔法なら一発解決なのに! あの賢者……何て無理ゲーをっ!
ルッテが射撃し続けるけれどダメージは少なそうだ。
それでも飛んで来る矢が嫌なのか大恐竜がゆっくりと体を反転して……ヤバいっ!
「尻尾が来るぞ~!」
慌てて地面に身を伏せると、遥か上を丸太以上の何かが通過した。
「ヤバい。絶対にこれ無理だ」
「アルグスタッ」
顔を上げたら叔母様に頭を押された。
地面にキスしたらさっきよりも地面寄りで往復して来た尻尾が通過する。
恐る恐る視線を向けたら……尻尾の先を地面に着けてまたこっちに来るんですけどっ!
~あとがき~
信じるな。賢者の言葉は基本ウソw
始まりました試練です。ですが初回から滅竜封じです。
刻印さんは歴史に名を残す魔女ですから、そんな温い敵は出しませんよ?
(c) 甲斐八雲
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