Main Story 14

三角な木馬

「アルグスタ様?」

「ん? 何か不満でも?」


 手渡された紙を見てクレアが顔色を悪くして……今にも吐きそうな表情になって来た。


 悪阻か? 上司夫妻よりも先にコウノトリを呼ぶだなんて僕が許さんぞ?


「何なんですかこれはっ! 冗談にもほどがありますっ!」


 クレアが癇癪を起して暴れ出した。

 やはりキレたか。気持ちは理解出来る。


「まあね。でもごめん。それって確定らしいんだ」

「確定って……3日後から毎日1体ずつ大型に匹敵するドラゴンが4体も王都の近郊に湧くって、誰がこんな話を信じますかっ!」


 完全にキレたクレアがビシッと手にしていた紙を床に叩きつけた。


 もう近頃の若い子は直ぐにキレちゃうんだから。僕を見習って欲しいわ。思わずあの転移賢者をハリセンで殴り飛ばしたぐらいだよ?

 フルスイングしてから相手がノイエだと気付いて後で彼女に土下座したけどね。


「信じなくても3日後の朝から湧くから諦めて」


 確定なのだから仕方ない。


 キレまくって踊るクレアを放置して頭を仕事モードに戻す。

 国軍と近衛の部隊配置は通常通りで大丈夫のはずだ。と言うか動かしようがない。

 問題はどうやってあの賢者が準備したドラゴンを倒している間、他のドラゴンを相手するかだ。


 モミジさんに僕の祝福を渡して……ノイエほどの超機動が無いから無理だ。

 なら素材置き場にいつも通りの方法で誘き寄せてそこで退治するしかない。


「クレア~?」


 静かすぎるのが怖くなって視線を彷徨わせたら、部屋の隅でクレアがいじけていた。

 本当にメンタルの弱い子だ。


「ドーンです~」


 壁を押してやって来たチビ姫が、辺りを見渡して床に落ちている紙を拾う。

 こらこら。それは一応機密文章だから勝手に見ないの。まあチビ姫だから良いか。


「アルグスタおに~ちゃん。これは何です~?」

「……とある賢者が予言した確定事項だって」

「確定しているなら予言じゃないです~」


 そうなの? まあ良い。


 トコトコと歩いて来た彼女は、僕の机の上に紙を置いて辺りをキョロキョロする。


「ノイエおね~ちゃんが居ないです~」

「今日はポーラと自宅でお休み」

「残念です~。甘えたかったです~」


 頬に指をあてて辺りを見渡し、チビ姫は開いたままの壁の中に戻っていた。


 ノイエに甘えに来ただけか。本当に自由人で羨ましいな。


「まずはこっちの戦力の確認だな」


 と、言っても……対ドラゴンで動かせる駒はルッテとモミジさんの2人だけだ。

 ミシュが居ないのが痛い。後はスィーク叔母様ぐらいか。


 手を叩いて反応を待つが……来ないか。フレアさんがお屋敷勤務になったからこっちに来ているはずなんだけどな。まだ登城して居ないのか。

 こればかりは仕方ない。


 椅子から立ち上がり、とりあえず本日からの僕は外勤だ。

 ドラゴン退治をしながら考えるしかない。




「ふふふ……あふふ……ようやく休みが貰えると思ったのに……この恨みは何処に持って行けば良いんですか? ねえ?」


 全身からどす黒いオーラを発するルッテが恨みを矢じりに込めて矢を放っている。

 どれもドラゴンの眉間を撃ち抜いて……正直怖い。


「アルグスタ様。約束が違うと思うんです。昨日あんなに頑張ったのに……貴方がわたしのお尻をその……」


 隣に居るモミジさんがモジモジしながらチラチラとこっちを見つつお尻を振っている。


 知るか。僕は間違っても『僕が折檻する』等の言葉は書いていない。つまりそう勝手に解釈したモミジさんの早とちりだ。

 何より鞭はアーネス君に送った。彼を調教して立派な調教師に育てれば良い。

 調教して調教師にするとか意味が分からん。哲学か?


「こんな問題児2人しか駒が居ない状況って本当に無理ゲーだよな」


 流石に絶望を感じるぞ?


「そこの恨みを胸に溜め込んでいるルッテさんや」

「何ですか?」


 グルンと頭を回して来た彼女の目は完全に逝ってる。

 ジャパニーズホラー映画に通ずる恐怖を感じます。


「誰かドラゴンと戦える人材を知らない?」

「アルグスタ様が全部狩れば良いじゃないですか? へへへ……ふふふ……」


 見合いをこじらせると、ここまで人間はダークサイドに落ちるものなのか。


「そうそう。ルッテ」

「何ですか?」

「メッツェ君が次の見合いで告白したいそうだが……ドレスは大丈夫か?」

「っ!」


 グルンと彼女の顔がこっちを向いた。

 フクロウばりの動きを見せたが、ルッテの脊髄は大丈夫なのか?


「今、なんて、言いました、か?」

「前回はお前が騎士に昇進して忙しくなるだろうからと周りが止めたらしい。

 でも今回止める理由は無いからな……アイツが腰抜けじゃ無ければ告白するんじゃ無いのか? 返事とドレスの準備は?」

「……」


 こっちを向いたままでドラゴンを射殺するルッテが怖いです。

 片目だけ祝福を発動しているっぽいけど、ちゃんと矢を番えて放つとかどこの雑技団?


「アルグスタ様?」

「給金の前借をしたいのであれば誠意を示して貰おうか? 具体的には3日後から4日間だけ僕とこの世の終わりを見て欲しい」

「はい。任せて下さい!」


 パーッと邪気を払って、ルッテが輝かんばかりに笑顔を見せる。


「ならホールンさんのお店に行って好きなドレスを選ぶが良い。目利きに自信がないならコリーさんに頼んで選んで貰って手直しして貰え。費用は給金から分割で天引きするから」

「あは~! だったら今日の帰りにでも……あ~このドラゴン共は本当に邪魔ですね!」


 やる気を殺意に変化させ、ルッテの放つ矢が轟音を立てて飛んで行く。

 余り遠くで射殺するな。回収して来る国軍の人たちが大変だぞ?


「あの~アルグスタ様?」


 モミジさんらしき変態が自分も何か欲し気な感じでこっちを見て来る。

 モンスターを仲間にするゲームなら放置するんだが、この人の場合は放置しても喜ぶから始末に終えんな。


「今までに見たことのない物凄い道具を閃いたんだよね」

「物凄い……ゴクリ」

「三角な木馬って言うんだけど、どう?」


 あれだ。あれをこの世界に解き放つ深き業を許したまえ。


「良く分かりませんがそれは凄いんですか?」

「うん凄いよー。きっと拷問官が見たら大興奮するんじゃないかなー」


 何故かキラキラとその表情を輝かせ、モミジさんが深々と頭を下げて来た。


「もし出来たら是非わたしにそれをっ!」

「分かったよー。頑張ってくれたら考えるねー」

「うふふ。頑張りますっ」


 やる気を見せつつ何故か内股で彼女は駆けて行った。

 鋼鉄の処女の方が良かったかな? もうあの変態は終わってる気がする。




~あとがき~


 本日より本編の再開です!

 ってサブタイトルからして終わってるなw


 4日間連続で大型ドラゴンクラスの実力を持ったドラゴンが王都近郊に湧きます。

 もちろん通常のドラゴンも襲い来る状態ですので対応が必要です。

 ノイエが居ない状況だと結構絶望的ですが…この主人公は本当に折れんな…




(c) 甲斐八雲

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る