お褒めに預かり光栄です
ここ最近では珍しく……ハーフレンは兄の屋敷へと招かれた。
2人きりで話がしたいのであろうと理解し、弟として彼は兄の屋敷へと赴いたのだ。
母親である王妃は体調を崩しているらしく会うことが出来なかったが、昨日まで元気だったと言う話からして……また何かやって自滅したのであろう。
そんな母親の行動に呆れつつも、ハーフレンは兄と向かい合い真面目に話をする。
「ルッテのお陰で南部の報告がどれ程ずさんかが分かった」
「正確なのは?」
「僅かだ。上級貴族だとミルンヒッツァ家ぐらいか。後は屋敷の増改築などしたい放題で報告も無い」
「ならそれを楯に南部の貴族たちを脅してやれば良い」
弟の言葉に兄であるシュニットは微かに笑う。
ユニバンス王国には領地を持つ貴族が屋敷を増改築する際に『贅沢税』を収めることになっている。屋敷を大きく出来るほどの収入があるのだから税を収めろと言う法だ。
ただ現地調査などはその街に居る役人の仕事となるが、貴族たちはその役人に金を渡して抱きかかえる。納税をするよりもわずかな金額で済むからだ。役人も報告書1枚を王都に送らないだけで多額の金銭を得るために買収しやすい。お蔭でこの贅沢税はほとんど空洞化している租税案の1つなのだ。
宰相としてそれを良く理解しているシュニットは今回大鉈を振るうと決めた。
それも南部の結束が緩む方法でだ。
「今回は別の手で行く」
「別の手?」
「ああ。宰相が『南部の貴族たちの屋敷が不正に増改築されているのでは?』と疑い捜査するかもしれないと噂を流す。それで真面目に報告し修正して納税するのであれば許すが、しないのであれば個別に会って追求する」
「すると南部の貴族たちは『アイツが裏切って自分を売ったのでは?』と疑心暗鬼になって不仲になるって寸法か?」
「そう言うことだ」
こと政治に関しては兄は容赦がない。
真面目過ぎる部分もあるが、何よりも国を愛しているからこその剛腕だ。
「兄貴の護衛に何人か手配しておく」
「スィークが居るから平気だが?」
「あの婆は基本この屋敷に引き籠っているんだろう?」
「表にも出る。何処に行っているのかは知らないが」
呆れた様子の兄にハーフレンも苦笑する。
メイド長を自称するユニバンス最強の警護人は基本自由人だ。あれが一度動き出すと血の雨が降るから始末に負えない。
「何よりこの屋敷に居る限りは安全であろう? メイドたちも決して裏切らないしな」
「まあな。その点は本当にお袋がどんな教育をしているのか聞きたくなるが」
「……スィークの教育の賜物だな」
「……何故だかガキ共を同情したくなったぞ」
あの囚人に鞭打つ監獄の獄長のように厳しいメイド長に育てられるとは……そう言うことなのだろう。
「それはそうと兄貴? 共和国のあの面白い姫様はどうだ?」
「ああ。馴染んでいるよ」
「そうか」
性格に難があると言うかかなりおかしな彼女は、共和国から来たメイドや女官を全て国元であるセルスウィン共和国に帰したと言う。
たった1人でユニバンス王国に嫁ぐこととなり、身の回りの世話も宰相の屋敷に居るメイドたちを使っているのだ。
何も後ろめたいことをする気が無いのか、本格的に頭があれなのか……と、国の大臣たちの頭を悩ませている。
「それで実際どうなんだ?」
「至って普通だ。普段は中庭で子供たちと遊び、場合によっては王妃様の部屋にまで遊びに行っている」
その言葉にハーフレンの目が細まった。
「お袋に会わせたのか?」
「勝手にお会いになったのだ。私とて毎日この屋敷に居ないからな」
「それは……まあ確かにな」
だが王妃の秘密を外に溢すのは拙い。
他国に知られるのよりも国内の貴族に知られる方が問題なのだ。
「あの姫様が外部と連絡を取っている様子は?」
「無い」
「本当か?」
「ああ」
苦笑し、シュニットは密偵の長である弟に正直に告げる。
「キャミリーはこの屋敷に来てから一度も手紙を書いていない。駐在の大使からの面会依頼も『体調が悪い』と言って断るほどにだ」
「……本当か?」
「ああ。と言うより彼女は共和国と縁を切りたいようにも見える」
兄の言葉はハーフレンを悩ませる。『そんなことはあり得るのか?』と。
誰がどう見ても彼女はユニバンス王国を乗っ取る為に共和国が送り込んだ存在だ。そんな存在が母国との連絡を絶って縁を切ろうとするなど……普通に考えてあり得ない。
だったら少し年が上でも別の姫を送れば良いのだ。だが共和国は彼女を送り込んで来た。
「一度あの姫のことを調べる必要があるのかもしれないな」
顔を手で覆いハーフレンはため息を吐いた。
本当に調べごとの類が多くて困る。そうでなくてもルーセフルトのアルグスタの行動が怪しくなっているのにだ。
「忘れていた」
「どうした?」
「現在詳しく調査中だが、アルグスタの様子がおかしい」
忘れていたと言うより、報告して来た部下が怪しんで追加調査を申請して来ている。
前回の脅しをどうにか誤魔化したはずなのに……今度はアルグスタが露骨に屋敷を出て行動しているのだ。
同年代の貴族の子弟や年頃の令嬢が集まる夜会になどに、ちょくちょく参加している。
警護の数は多く万全な様子での参加ではあるが……それでも今まで隠して来たあれを外に出す意味が分からない。
そのことを告げられたシュニットですら流石に頭を悩ませる。
「もう一度王都に再召喚すると脅すか?」
「悪くは無いが……前回同様に『体調が良くなって来たので体力作りの為の活動だ』などと言い訳をして来るであろうな」
「十分に考えられるが」
それでもここに来ての活発な動きが分からない。
「アルグスタに関してはそのまま泳がせておく方が良いだろう。何か失敗をしてくれればこちらも助かる」
「確かにな」
認めてハーフレンは扉の方に目を向けた。
ゆっくりと開いたそこから、件の姫様が顔を覗かせたのだ。
「誰です~?」
「初めまして。第二王子のハーフレンです」
「初めましてです~」
立ち上がりハーフレンが一礼すると、小さな姫様キャミリーが頭から抱き付いて来る。
慌ててドレスを掴んで衝突を回避する。だが姫様はその状況を楽しむように笑い出した。
「凄いです~。おーきなおにーちゃんは力持ちです~」
「お褒めに預かり光栄です」
ブラブラとぶら下がる10歳の義理の姉に……ハーフレンは何とも言えない目を向けた。
~あとがき~
王妃様の自爆がお約束になりつつあるとか…たぶんメイド長と何かしたんでしょうねw
真面目な話をしている最中にチビ姫の襲来です。その意味とは?
(c) 甲斐八雲
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