重いだけだよ?

 あとから来た数人も拘束して床に転がしたミャンだったが、流石に次の相手は悪すぎた。

 長い黒髪を軽く掻き上げ歩いて来るのは、生粋の化け物なのだ。


「何でこっちに来るかな?」

「ん? 済まないね。これの気紛れだ」


 ちょんちょんと宙に浮く短剣を指さし、化け物……エウリンカは辺りを見渡す。

 見事なまでに拘束魔法で身動きを封じられた丁度良い『材料』が転がっているのだ。


 両手を首の後ろへと差し込み、エウリンカは長い髪を払う。

 すると彼女の両手の指の間には、4本ずつ……計8本の投げナイフ大の短剣が挟まっていた。


「済まないね」


 告げて腕を振るう。プスプスと拘束されている者たちに短剣が刺さり続け……剣が無くなればまた補充までし、床に伏している者たち全員に短剣を突き刺した。


「さてミャン」

「何よ」

「面倒臭いのは嫌いだ。退いてくれると助かる」

「断ると言ったら……どうやって作ったのよ?」


 虚空から掴んで取り出した巨大な魔剣を目にしたミャンは、あっさりと両手を上げて降参した。

 本当に魔剣に関しては、相手の魔法は化け物なのだ。


「済まないね」


 振りかぶった魔剣を消してエウリンカは頭を掻く。


「本当ならちょっと外に出るだけのはずだったんだが……どうも様子がおかしい。何と言うかノイエの封印が外れてそうな気がするんだ」

「……ノイエの封印ってあの?」

「ああ。自分が作ったノイエの魔剣だ」


 その言葉にミャンは何とも言えない視線を相手に向けた。

『貴女の魔剣の定義って、なに?』と聞きたくなってしまったのだ。

 普通何処の世界に髪の毛を魔剣にする人物が居るだろうか? 残念なことに目の前に居る人物がやってのけたのだが。


「ずっと調整もしていなかったし、何よりあれは寄せ集めの材料で作った急ごしらえだった。不具合が出てもおかしく無いのだが……誰かあれを壊そうとでもしたのだろうか?」

「知らないわよ。私はずっとここに居るし」

「そうだったな。なら行って自分の目で確認しよう」


 スタスタと歩いて行く化け物を見つめていたミャンは、不意に地面で伸びている仲間たちに刺さる短剣のことを思い出した。


「あれって何よ? さっきの短剣」

「ああ。ただの魔力集めの魔剣だ」


 立ち止まり振り返ったエウリンカは、サラッとそんなことを言う。


「ノイエの外に出るのにどれほどの魔力が必要か知らないからね。集められるだけ集めている」

「あっそう」

「何なら君も寄付するかね?」

「遠慮しておく。一応ここを護るって役目があるから」

「そうか」


 止めていた歩みを再開してエウリンカはスタスタと進む。しばらく歩いて不意に足を止めた。


「何故……彼女はあんな場所を護っているのだろうか?」


 今さら聞きに戻るのは面倒臭いので、エウリンカは前へと進むことにした。




「お前たちだけか?」

「良かった~。カミーラが~来たよ~」


 援軍が絶望的だっただけにカミーラの登場で気が緩んだシュシュがフワフワしだす。

 と、セシリーンの封印が緩み、彼女が声を上げそうになったので慌てて再封印する。


「ホリー。状況は?」

「最悪。出れない」

「出れない?」

「ええ。ここから出れないのよ」


 ペシペシと自身が椅子にしている台を叩いてホリーは立ち上がった。

 代わりに座ったカミーラも魔力を高めるが外に出れない。


「最悪だな。その上でユーリカか」

「そうよ。あれはノイエの殺し方を知っている」

「実演中か」


 壊れたように笑い剣を動かすユーリカの様子を見て全てを理解する。

 ただ分からないのは、彼女の顔の一部に鱗が見えることだ。


「あの顔は?」

「たぶん竜人化の実験じゃないの?」

「何だそりゃ?」


 ため息を吐き、プルンと大きな胸を揺らしたホリーが言葉を続ける。


「アルグちゃんが集めて来た資料とかを読んでの推理だから絶対の保証はないけど、たぶん人とドラゴンを融合させる実験を何処かでやってたんだと思う」

「旦那の言ってたもう1つの施設か?」

「そうでしょうね。たぶんだけど……私たちが居た施設で落第者となった者が、そっちに運ばれてあんな風にされたんだと思う。落第者なら使い捨てても良いとか思ったんでしょうね」

「なるほどな。だからユーリカもか」


 納得しカミーラは視線を入口へと向けた。

 リグに肩を借りて左の通路からやって来たのはアイルローゼだ。


 だがその姿は見る影もない。普段の彼女を知る者だったらまず気づかない。

 そもそも焼死体と呼んでも良いような状況で動き回っている彼女の精神力を褒めたい。


「話せるのか?」

「平気よ」

「左の通路は?」

「緊急事態だから物理的に塞いで来たわ」

「私と同じか」


 冷静なホリーが『ちょっと~』と不満げな表情を見せたが全員がスルーした。


 声は少し擦れているが、ちゃんとアイルローゼは返事を寄こす。ただ痛々しい火傷だらけの体を覆っているのはリグの服なのか……正直面積が足らない。

 焼けてしまったのであろうアイルローゼの服は、しばらくすれば復活するがそれまでは服無しなのだ。


 つまり現在アイルローゼは自身の服を失い、代わりにリグの服を着ている。

 何となくアイルローゼと当人を除いた視線がその一点に向けられる。


「リグは~本当に~大きいぞ~」

「重いだけだよ?」


 全裸となっているリグの言葉に、封印されているセシリーンまでもが殺意を覚えるのだった。




~あとがき~


 規格外の化け物エウリンカが中枢に向かってます。

 中枢では仲間たちが集まりつつありますが、アイルローゼは焼死体状態ですw




(c) 甲斐八雲

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る