流石に笑えんな~

 注・今回は描写きつめです



「ルッテ! 隊長は!」

「無理です! 探してる暇がありませんっ!」


 飛び交う蛇型のドラゴンを前に、待機所内のノイエ小隊の面々は防戦一方だった。


 まさか隊長であるノイエが不意に消えるなど想定していなかったのだ。

 結果として反応が遅れ、砦内に2匹のドラゴンに入られてしまった。


「ミシュ先輩が囮になってあれを引き付けて下さい!」

「それでどうするの?」

「先輩ごと吹き飛ばします!」

「その喧嘩買ってやる~! このっ! このっ! このっ!」


 左右のパンチでルッテの胸を殴り飛ばし、ミシュは自身を食らおうと横合いから突撃して来たドラゴンを間一髪で回避する。跳躍の祝福を持つ彼女だから出来る回避だ。


「流石に笑えんな~」


 櫓の上に移動したミシュは、ドラゴンに向かい尻を叩いて挑発する。

 その挑発を理解したのかは知らないが、カチカチと歯を打ち鳴らして2匹のドラコンがミシュに向かい殺到した。


「せんぱ~い。そのまま少し頑張ってて下さい。爆裂の矢を番えるんで」

「本気で私まで狙って無いか?」

「気のせいです」


 これでもかと穏やかな笑みを浮かべ、ルッテは弓を引き絞る。

 ヒリヒリする胸の恨みも込めて……色々と厄介な"3匹"に向け矢を放った。


「やっぱりね!」


 瞬間で回避し、爆裂の矢を受けたドラゴンの頭部がズタズタになって地面へと落ちる。


「ちっ」

「その舌打ちは何かな~?」


 地表に戻って来たミシュは、ポキポキと拳を鳴らして最近調子乗りまくりな後輩を睨んだ。


「もうミシュ先輩の不幸ネタにも飽きたんです! 次のお見合いで彼は絶対に告白してくれます! 間違い無いんです! それなのに毎日毎日……何かもう……ミシュ先輩とか……居なくなれば良いのにって……」


 祝福を発動している訳でもないのに、その瞳から光を失くしたルッテはまた矢を番えた。


「消え失せて下さい。売れ残りっ!」

「ちょっ!」


 また瞬間で回避し、放たれた矢はミシュに襲いかかろうとしていたドラゴンの頭部を破壊した。


「どうして避けるんですかっ! もう毎日毎日不安になる言葉なんて聞きたく無いんです! お蔭で最近ご飯も美味しく食べられないし!」

「待て~! 終わったから! ドラゴンの退治は終わったから!」

「私を不幸にしようとする存在の退治は終わってません!」

「うがぁ~! やり過ぎたから~! 謝るから~!」

「死ねば良いのにっ!」


 役職持ちの騎士たちが本気で射撃している中、残った兵たちはドラゴンの遺体を砦の外に運び出し……勝手に防衛の準備を進めるのであった。




「これは少し困りましたね」


 カタナを振るい剣気を飛ばすモミジは、一度足を止めて何度か深呼吸をした。

 前回の怪我で何日か休んだ結果……まだ完全に体調が戻りきっていないのだ。

 体が鈍ってい居ると言うのが最大の原因だが、その鈍りが剣気を乱し威力を落としている。


「とは言え……ノイエ様の姿も見えませんし」


 ドラゴンを解体している作業員の避難も終えたので、モミジは両手でカタナを握り空を見る。

 臭いに釣られたドラコンたちが、上空を旋回して襲いかかろうとしているのだ。


「あの人が居なくても大丈夫だと言うことを見せつける良い機会ですね」


 クスリと笑ってモミジはカタナを振るった。

 放たれた剣気がドラゴンの首を飛ばし、頭部を失ったドラゴンが地表に降って来る。


「本気で参ります」


 ズズンッと墜落したドラゴンの音を聞きながら、モミジは駆け出した。




「あはは……どうノイエ? いたい? いたいよね? わたしだっていたかった」

「やめ……許して……ゆー」

「ゆるす? ふざけないで。わたしはあなたにころされたのよ」


 右肩に突き刺した剣先が、ノイエの肩の骨を削る。

 その感触を味わうように剣を振るうユーリカに対し、ノイエはただ泣き叫び必死に逃れようとする。

 攻撃からではなく……彼女の言葉からだ。


『殺した』と告げる彼女の言葉をノイエは否定できない。何故か覚えている。

 真っ赤に染まった両手と、握り締めた剣と、胸から血を流し地面に横たわる彼女を。

 はっきりと、目を閉じればありありとその時のことが脳裏に思い浮かぶのだ。


「あなたはわたしのむねをさした」

「ひぅ……」


 剣を逆手に持って振り上げたユーリカが、ノイエの胸に剣先を押し付ける。

 ノイエの鎧は特注品のプラチナ製だ。普通の剣では傷1つ入らない。

 それを知りユーリカはノイエの鎧に手を掛けると、留め具を外して剥ぎ取った。


「ここよ。あなたがさしたの」

「止めて……」


 ノイエを蹴飛ばし仰向けに差せると、ユーリカは彼女の胸を踏みつけ改めて剣を振り上げる。

 ゆっくりと、本当にゆっくりと……剣先を相手の胸に突き立てて押し込んで行く。


「ひぐぅっ! あぐっ!」

「あはは……さすがノイエだ。これでもしなないんだ」


 笑いポロポロと自身の顔から皮膚を落とし続けるユーリカ。

 彼女の顔の半分は、ドラゴンの様なうろこ状の皮膚になっていた。


「でもしってる。あなたは、ころしつづければしぬって」


 告げてユーリカはザクザクザクとノイエの胸を剣先で突き続ける。

 その度に苦悶の声を上げ、ノイエは泣き叫び続ける。


「ころしてあげる。こんどはわたしが……あなたを」


 引き攣るように笑い、ユーリカはノイエを突き続ける。




~あとがき~


 ノイエ離脱の情報が届いていないので実は王都外周も大混乱の状態。

 ですがミシュたちってある意味平和だわ~w




(c) 甲斐八雲

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