必ずやお役目を果たします

 謁見の間を出て行った者たちの存在など最初から無かったかのように国王が話を進めた。

 手配を終え、謁見の間を出る前に王はその視線を別方向へと向かわせる。


「シュニットよ」

「はい」

「お前はシュゼーレの元に行き、軍の動員の手助けをせよ」

「はい」


 一礼をして立ち去る長子から国王は次子へと視線を動かすと歩み寄る。

 臣下として参加しているハーフレンは、国王に対し首を垂れる。


「ハーフレンよ」

「はっ」

「薬の一件は良くやった」

「はっ」

「その功績に報いる形で今回の件が片付き次第、お主を近衛の副団長に任命する。良いな」

「はっ」


 自分よりも大きく成長している息子の肩を軽く叩く。


「今後は戯れることなく確りと働くのだ」

「……注意します」

「…………リアが不安がっているぞ?」

「分かりました」


 母親の名を出されると辛い。

 今後は"少し"気を付けると心に決め、立ち去る父親の背をハーフレンは見送った。


「コンスーロ」

「はい」

「ミシュは?」

「現在貴方様の執務室に」

「なら向かう。付いて来い」

「はい」




 執務室では無く政務室へとやって来た国王は、その場に居る者に目を向ける。


「火急のお呼びに参上しました」

「済まんなケインズ」

「いいえ。自分は現在王都に居ないことになっていますから」


 謁見の間には参加せず、政務室へと来ていたクロストパージュの当主が国王を出迎えた。

 厳しい面持ちのウイルモットは親友の前を通り、椅子に腰を下ろすと天井を見る。

 迷いはあったが……使うしかない。


「話は聞いておるか?」

「断片的に。ユニウで反乱とか?」

「その通りだ」


 机に肘を突いてウイルモットは顔の前で手を組んだ。


「ここ最近何かあればセルグエとゾングが申し合せた様子で言い争いをし、何かを誤魔化していた。その理由は裏で共和国の力を借りて反乱の準備を進めていたのだろうな」

「確かに……陛下は色々とやりすぎましたから」

「否定はせんよ。そうしなければこの国は腐り落ちてしまう」


 だからこそ恨みを買ってでも腐った者たちを処分し続けたのだ。


「今回の一件で軍の方は粗方片付く。問題は地方の大貴族たちだ」


 王都に代わりの者を代理として置くことが許されるほどの力を持つ貴族たち。そんな大貴族たちを流石の国王も簡単には処分することは出来ない。


「どちらにも参加せずに様子見をして貴族たちは……事前に計画を知っている者と思って良いでしょうな」

「お前はどうなのだ? ケインズ?」

「うちは大貴族たちから嫌われていますからね。何より娘の1人は王子の正室候補だ。仮に話を持って来たら、誘う方の正気を疑います」

「で、あるな」


 互いに苦笑して……ウイルモットは息を吐いた。


「動かないのは……ルーセフルトが筆頭か?」

「はい。あそこには第三王子と言う駒が居ますから。それとフルストラー辺りも怪しいかと」

「あそこが反乱軍に加わっても恐ろしくは無いな。持っているのは塩だけだ」

「ですね」


 それでも南方の二大貴族が手を結ぶとなると、王都は北東と南に敵を置くこととなる。

 戦略的に見ても戦術的に見ても面白くはない。


「ケインズ・フォン・クロストパージュよ」

「はっ」


 自分が何故秘密裏に呼び出されたのかを理解している彼は、国王に向かい臣下の礼をとる。

 ゆっくりと呼吸したウイルモットは、本当の意味で覚悟を決めた。


「……ユニウ要塞に対して貴家が所有する秘匿魔法の使用を命じる。出来るな?」

「はい。あの要塞は建造する過程で『敵の手に落ちた場合』を想定してありますから。使用条件に必要な"要"は要塞の真下に埋められてます」

「そうか。ならば再度命じる」


 ゆっくりと上半身を起こし背筋を伸ばした国王は、信ずる友を見た。


「ユニウ要塞を完全に消せ」

「全てにございますか?」

「許す。人も建物も……その全てをだ」


 一度動き出せば覆せない命令。

 国王の本気を見つめ、彼は深く深く頭を垂れた。


「このケインズ……必ずやお役目を果たします」




「あむ……頂いてるよ?」

「好きに食え」

「おうさ」


 着替えは済ませてあるらしい馬鹿が、肉の塊を頬張るのを見つめやる気を削がれながらも……ハーフレンは自分の執務室へとやって来ていた。

 机の上に座っている馬鹿を無視して椅子に腰かけて窓の外を見る。

 窓ガラス越しに馬鹿と副官の顔が見えた。


「ユニウの様子は?」

「ん~。やる気満々だったよ?」


 肉を飲み込みミシュは言葉を続ける。


「王都とかから居なくなった元兵たちも結構な数が合流してたね。まあ今まで戦場で人を殺していれば褒められていた訳だからさ~それが突然『今日から殺すな。真面目に働け』とか言われても切り替えられないのは分かるんだけどね」

「それでも順応し故郷に帰って真面目に働いている者たちもたくさん居る」

「だよね~」


 安易に楽がしたいだけだと分かっている。

 人を殺すか殺されるかだけで、その覚悟が出来ていれば戦場は至極住みやすいのだ。


「で、私は誰をやって来れば良いの?」

「今回は動かなくて良い」

「ふえ?」


 てっきりユニウにトンボ返しになると思って、食べ物を詰め込んでいたミシュからしたらビックリの言葉だった。


「走る気満々で食べてたんですけど~! この行き場のない情熱は何処に!」

「知るか馬鹿。文句があるならメイド長の所へ行け」

「発散する前に爆散するわ!」


 だったら今日は帰って寝ようと切り替えたミシュは、いそいそと食事を片付け始める。

 ただ黙って話を聞いていたコンスーロは、自分が知らない場所でそれが話されることを嫌った。


「ミシュよ」

「ほい?」

「ユニウ要塞にゴブリアスが居たのであったな?」

「……」


 チラリと視線を向けて来た少女は、真面目な副官の様子にため息を吐いた。

 たぶん色々と面倒臭いことになりそうだから、少し休んでからユニウに向かって食い殺す予定だったのだ。


「居たのか?」


 窓越しに問うてくる主の言葉に……ミシュは諦めてコクコクと頷くのだった。




~あとがき~


 忘れていた頃に出て来るケインズさんです。

 で、クロストパージュ家の秘匿魔法がお目見えすることに。

 当たり前ですけど…要塞の類は奪われることを想定して作る物です。

 再度の奪還の為に隠し通路とか、完全に破壊できる装置とか。

 それを使用し、ユニウごと反乱軍の消去を国王は考えたのです。

 悪戯に兵を減らすならそっちの方が良いんでしょうけどね。


 巨人がユニウに居ると知ったハーフレンがどうするか?

 脳筋に言葉は要らないのですw




(c) 甲斐八雲

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