神や仏は居るはずなの
『良い? モミジ。この世界にも必ず神や仏は居るはずなの。だから私たちはこうやってお祈りをするのよ』
そう言って優しく頭を撫でてくれたのは、姉であることをモミジは良く覚えている。
話の発端は庭の隅にある小さな不思議な存在が気になったことだ。
朱色の柱とその奥にある犬小屋よりも小さな箱。
その存在が良く理解出来ず撫で回していたら、姉に注意されて説明を受けた。
この地に渡って来たご先祖様は、自分たちが住んでいた地のことを忘れないようにと村を似せて作った。
結果として庭に残るそれも、その当時に作られた物を手直しし続けている。
小さいながらも『神様』が住まう神聖な場所らしい。
以来モミジは必ずその場所に手を合わせるようになった。
「あ~。全くあの口煩いのは……小姑か」
「……」
目の前に居る存在は幼い時の自分と同じで、神も仏も恐れない人らしい。
それを知ってモミジの中で彼に対する信頼が高まった。
ちょっと……否、かなり格好良いと思えたのだ。
「さてとモミジさん」
「はいっ!」
「……どうしたの?」
「何でもありません。アルグスタ様っ!」
「そう」
異様にテンションの高いモミジさんが正直怖い。
さっきまで延々と叫んでいたのに……酸欠で変なスイッチでも入ったのかな?
「とりあえず幼体は僕が片付けるから食べ物を運んでくれる?」
「はい。分かりました」
スキップ気味で食料を取りに行った彼女が帰って来る。
正直あのテンションはヤバい。酸欠じゃ無くて、恐怖とあの声とで頭の配線が切れたのかもしれない。
あんな状態にして帰国したら……あの妹ラブなお姉ちゃんが殴り込んで来そうだ。
「モミジさん」
「何ですかアルグスタ様」
「ほら……色々あって混乱してるなら、今はまだ休んでて良いよ」
「はい? 休むのですか?」
何故か辺りをチラチラと見渡して……どうして鎧に手を掛ける!
「ちょっと落ち着け話し合おう!」
「でもお休みになるのですよね?」
「何を考えての休みか問いたい!」
「そんな……男女のお休みなんて……することは1つじゃないですか?」
チラチラと熱い眼差しが、ネトッとしているんですがっ!
混乱し過ぎてそっちのスイッチが入ったの? 大丈夫?
落ち着け僕。彼女はサツキ家の一族だ……あっ真の変態揃いだったね。ダメか~っ!
「そのお休みはお嫁さんとするから良いです」
「そんな……わたしはその……愛して貰えなくても良いですよ?」
だから鎧を脱ごうとしないで!
「って、どう言う意味よ!」
「はい。アルグスタ様が発散できるなら……好きにして頂いても」
胸の前で手を組んで祈るようにこっちを見て来る。
「むしろ好きにしてください。わたしどんなご要望でもお答えします」
「いやいや待て待て。落ち着こうか?」
グイグイ迫る相手の迫力に押されて……ヤバい。背後には壁が無いっ! 落ちる落ちるっ!
「貴方様が望むなら、どこでもいつでもどんな場所でも……わたしを好きにして構いませんから」
「うっわ~い。物凄いあれ~な発言なんですけどっ!」
アカン。完全に追い詰められた。
「貴方が望むなら今すぐこの場で皆に見られながらでも」
「そんな趣味はございませんっ!」
「ああっ! もうわたし……我慢出来ませんっ!」
襲いかかって来る相手に右腕の魔法を使って石畳と熱い抱擁を交わして貰う。
ついでに彼女が持って来た食料を回収してっと。
「アルグスタ様っ! どうか御慈悲をっ! いいえ……ご寵愛をっ!」
はぁ~。人間って極限状態になると変なスイッチが入るんだな。
まあ普段のモミジさんを思えば、落ち付けば大丈夫なはずだ。
そう信じてしばらくこのままで居て貰おう。
「ああ。貴方にこうして見下されているのもたまらなく興奮しますっ! どうか……どうか!」
やっぱりダメかもしれない。
怖くなったからロープで縛って動けなくしておく。
縛る度に変な声を上げるから口も閉じて……ドラゴンの本隊が来るまでに正気に戻ると良いな。
幼体駆除は直ぐに終わった。
まあ豆まき感覚で済むし、それにこの力は他に"害"をなさない。
石の壁に小石が当たっても、地面に小石が当たっても……特に問題は無い。
ドラゴンにどんな感情があるのかは知らないけど、降って来た小石に触れたら抉れるとか貫通するとか……余りのグロ描写に映画だったらR15じゃ無くてR18指定だな。
「あの~。アルグスタ様?」
「なに? まだ腰が振り足りないの?」
石畳を転がり腰を振っていたモミジさんが顔を真っ赤にして左右に振る。
「申し訳ございません。ようやく落ち着きまして……その……外して貰えませんか?」
「油断を誘って襲いかかる気?」
「そんなことはしません! むしろ襲ってほし……じゃ無くて本当にしませんからっ!」
両目に涙を貯めて必死に許しを乞うてくる。
こうなるとこっちが悪者になる不思議な構図だよね。
「本当に襲わない?」
「はいっ!」
「でもな~」
「本当ですっ! 誓いますっ! ですから……その……」
顔を真っ赤にさせたままでモジモジしている相手の様子がどうも疑わしいのです。
「……お手洗いに……」
言って額を石畳にぶつけだしたので何も言わずに縄を解く。
「あっ」
「今の声は?」
「……大丈夫です。まだ」
危険水域なのかいっ!
急いで解放したら彼女はすっごい早歩きで消えて行った。
つか本当にお手洗いだよね? ね?
(c) 甲斐八雲
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