色々と面倒な!

「具体的にどんなことをされる訳?」

「……ここで言うんですか?」


 チラチラと仕事をしている未成年2人に視線を向ける。

 分別のある立派な大人だ。女性を見る目は……フレアさんは見た目は良いから騙されたのかもしれない。


「あそこに居るのはただの石です。気にせずに」

「はあ……」

「それに婚約者同士ですし、ここでの会話を生かせる日も来るでしょう」

「生かして欲しく無いんです。特に妹さんには……」


 だがここでは絶対的な地位を持つ僕に逆らえる訳もなく、アーネス君がポツリポツリと話し出した。




 出会いはノイエ様がこのお城に来てから行われるようになった合同実験でした。

 あの頃のノイエ様はフレアたちの指示を受けるだけで、だからこちらも彼女に全てをお願いする形で……それで色々と会話をしていて仲良くなったんです。


 えっ? ……確かに凄く綺麗だったので会話出来ることが楽しかったです。

 口説いたのかと言われると……仲良く出来たら良いなと思ったのは嘘じゃないです。


 自分たちが試作していた対ドラゴン用の武装……術式の炸裂矢が正式採用されることとなって、それから窓口がフレアになったこともあって仲良くなっていったんです。


 告白ですか? それは一応自分からで……返事を貰うまでに3日かかりましたが。


 それで彼女の実家に出向いてお付き合いを申し出たら、何故か話がトントンと進んで婚約することに。

 嫌と言う訳では無かったのですが、まだ学院で勉強もしたかったので結婚は考えて無かったんです。


 彼女のあっちの様子ですか? あっちって……それを言うんですか? 絶対にフレアには言わないで下さいね?


 許嫁になってから行為と言うかそう言う関係をもつのは普通だと思うんです。2人とも大人ですしね。

 ですが色々と噂になっていますが、フレアはとても真面目な女性なんです。


 言い訳とか身の安全を確保する為に言っているとかじゃないですからね?


 フレアとは色々なことを……されていますが、彼女には決して手を出してないんです!

 そう言うことはちゃんと結婚してからってことで、自分はまだ一度も彼女とはその……してないんです。



 えっ?


 アーネス君の言葉に執務室の中の空気が凍った。

 あの女性騎士たちの間では色々と悪い噂もあるフレアさんとアーネス君がやってない……だと?


 ガタッと壁の隠し扉が開いてチビ姫が姿を現すと、急いで戻って行った。

 何をしているこのおませちゃんが!


「つまり2人は……やって無いと?」

「はい」

「でも搾られているよね?」

「……フレアによって一方的に、です」


 遠い目が本当に遠い何かを見ている。

 つまりアーネス君は、一方的に凌辱され続け搾られるだけ搾られて、自分は何もしていないと言うことか?

 生温かな視線を向けて……僕は心の奥底からその言葉を発した。


「頑張れ」

「……はい」


 深く頷く彼の様子に涙がこぼれそうになったよ。




「……そんなことがあったんだ」

「はい」


 夜はいつも通りノイエとの語らいで終わるのが我が家のスタイルだ。

 ただ今夜のノイエは少し機嫌が良い。忘れないように今夜は彼女と軽く踊ってみたのだが、それが良かったらしい。

 ベッドに座るノイエを後ろから抱きしめてこれでもかと頭を撫でる。


「人の噂って鵜呑みにしゃダメだね。噂だけだとあの2人ってものすっごく人に言えないようなことをしているんだとばかり思ってたよ」


 ある意味他人には言えないよな。許嫁の彼からあれを搾り続けているだけとか。

 ただ話を聞いていたクレアがチラチラとイネル君に視線を向けていたのが怖いです。確かに爛れた大人の関係は禁じているが、搾ることに関しては……若い男性は自家発電とかしてそうだしな。


「アルグ様」

「ん~?」

「……他人に言えないことって?」


 素直な質問が重たいです。


「ノイエは気にしなくて良いです」

「でも」

「僕らはそれ以上に仲良く愛し合っているから要らないのです」

「……はい」


 肩越しにこっちを見たノイエが頬を紅くして僕のことを押し倒して来る。

 落ち着いて考えると、毎晩のようにノイエに押し倒されているってことは他人には言えないことだよな。




 ……何か苦しい。

 ゆっくりと目を開くと、馬乗りになったノイエが僕の首を絞めていた。


 ホワ~イッ!


 彼女の手を掴んで必死に引き剥がすと、何故か悔しそうな表情をした赤い目がこっちを見ていた。

 赤いね……髪も目も、だ。


「ごほっ……先生?」

「死になさい馬鹿者が」


 握った彼女の拳が僕の胸を打つ。だがポコッと力無く殴った感じだ。


「精神干渉がここまで強いだなんて……グローディアが諦めて引っ込む訳ね。害意を向けた攻撃に干渉する様子だけど」

「あの~先生?」


 馬乗りの彼女が僕の額にデコピンをして来た。


「レニーラに話したわね?」

「はい?」

「ノイエの魔力を使って、誰でもノイエの体を動かせるようになる方法を考えるって話よ」

「あ~。言ったかも」


 前に先生から聞いた話だと、ノイエの中の人たちって自前の魔力でノイエの体を動かしているらしい。勿論魔力の弱い人も居るからそう言う人は簡単に出て来て動いたり出来ない。

 前回レニーラが出て来て陸揚げされたマグロのようにビクビクしていたのはそれが理由だ。


 で、それを解決する術を先生が作ろうと言ってたのを話しましたね。


「言ったのね?」


 鋭い目で睨まれ素直に両手を上げて全面的に降伏をするしかない。

 確かに言いました。で、その後レニーラがいきなり沈黙して焦ったんだよね。


 心底呆れた様子で先生がため息を吐く。


「それをあのお調子者が中で話して回ったのよ。お蔭で決が取られて……圧倒的多数でその術を作る羽目になった」

「……申し訳ございません」

「許さないわ」


 とても冷ややかな視線がマジで怖い!

 先生を怒らせるとか僕の死期が訪れたのと同義語ですよね?


 だが伸びて来た彼女の手が僕の首を掴むけれど緩い感じで締められるだけだ。


「……無理そうね」

「はい?」

「ノイエに感謝なさい。あの子のお陰で貴方を殺せないんだから」


 替わりに今度は鼻先をデコピンされた。デコでは無いからハナピンだ。


「しばらく私は奥に引っ込んで術作りをするから……魔法の勉強は1人でなさい。良いわね?」

「はい」

「……」


 と、いきなり力を失ったノイエが倒れ込んで来た手を伸ばして支える。

 パチッと目を開いたノイエが僕を見る。


「アルグ様?」


 小首を傾げる彼女は、不審がっている。ヤバい。色々と面倒な!


「ノイエ」

「はい」

「したい。今直ぐ」

「……はい」


 寝込みを襲っていると勘違いされる前にそっちに持ち込む。

 お蔭で翌朝……腰を叩き続ける僕とツヤツヤなノイエの対照的な状態となった。




(c) 甲斐八雲

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