イケメンてズルい

『生きている間に儂は孫を抱けるのかのう?』


 と、弱々しいお爺ちゃんっぽい口調で寝言を言い出し前国王の言葉が合図となって、急遽国王様の執務室で(本当の意味での)家族会議が執り行われることとなった。

 メイド長が護衛から何からを部屋から遠ざける。隠し通路や隠し部屋の方まで人払いを徹底してだ。


 まあ……ただの明るい家族計画な話なのだけど、内容はとてもあれ~な訳です。


「ハーフレンの息子に後を継がせることは現時点で最優先とする」


 そう前国王様が最後の仕事とばかりにそう言って来た。

 確かにそれは前々から決まっていたことで、上の兄2人も納得していることだ。


「ってお兄様はもうあれ~な薬を?」


 こっちの世界に来た時に聞いた話を思い出した。

 特別な薬を飲んで子種を無くしてしまうとか……恐る恐る質問をすると、新国王である兄が軽く笑った。

 ですよね。冗談ですよね? もう……馬鹿兄貴は後でメイド長に叱って貰おう。


「飲み続けているぞ」

「……はぁ?」


 サラリと何ともない感じでそんなことを言って来た。

 軽い口調で言って良いような物には思えないけれど、お兄様は平然と言葉を続ける。


「薬と言ってもその成分は軽い毒だからな……少しずつ長く飲んで殺している。もう十分に死んでいると思うが、念には念を入れて今も飲んでいる」

「……」


 うわ~。無理っス。自分には絶対に出来ませんし、そんな覚悟はございません。毒をずっと飲み続けるとか本当に無理でございます。

 あ~自分ノイエとイチャラブ出来る立場で良かったです。


「そこまでする必要など無いと儂も言ったのだがな」

「何かの間違いで自分が子を成せば新しい争いの種となるでしょう。だったら子を成せないぐらいで争いが無くなるのなら何を迷いましょうか?」

「……お前は真面目過ぎるのだよ。シュニットよ」


 種馬国王からすれば確かに真面目過ぎる気がする。

 だが片や真面目過ぎるが、もう片方が不真面目過ぎるから極端に見えるのかもしれない。


「まあもうやってるんなら仕方ないですね。で、この馬鹿兄貴が世継ぎを作れば良いと言うことで……」


 と、僕はその事実に気づいた。

 ゆっくりと顔を相手に向けると、どこぞの馬鹿は全力で窓の方を見ていた。


「どこぞの阿呆は妾が5人居て、ついでに最近結婚までしましたな~」

「……らしいな」


 苦々しい声が返って来る。だが追撃の手は緩めない。


「で、僕は今の今までどこぞの阿呆に『子供が居る』と言う話を聞いたことが無いんですけど~。まさかお兄様に毒を飲ませておきながら、跡継ぎを作るべき馬鹿が種無しとか言いませんよね?」


 こっちを無視しているので、メイド長に視線を向けて軽く頭を下げる。

 スススと移動した彼女は、馬鹿兄貴の視線の先に立つ。

 メイド長のとても冷ややかで相手を徹底的に見下した視線を受けて馬鹿兄貴が、やれやれと頭を掻いた。


「これでも気を使ってるんだよ。妾が長男を生んだとかするとまたそれで揉めるだろう?」

「なら今のお嫁さんと毎晩頑張ってるの?」


 問題無い相手を得た今なら頑張って子作りを……おい兄よ? なぜまた顔を背ける?


 だが回り込んだままのメイド長が馬鹿兄貴に対して、見下した様子で鼻で笑う。あれはやられるとイラッと来そうだけど、相手が相手だから僕なら『ありがとうございます』って頭を下げて甘受しよう。

 ……最近ドSな人たちに囲まれているせいか危ない思考に目覚めて無いよね?


 メイド長の視線に耐えられなくなったのか、馬鹿兄貴がまた頭を掻き出した。


「ああ見えてリチーナは異性と係わらずに育ってきたせいか奥手と言うか世間知らずなんだよ」

「つまり未だ手を出せずに居ると?」


 相手の返事は無い。どうやら事実のようだ。


「フッ……この腰抜けが」


 たぶん満面のドヤ顔をしたのだろう。メイド長が僕に向かってサムズアップして来た。

 貴女と言う人は本当に馬鹿兄貴が嫌いなのですね。


「誰かが前に言ってませんでしたか~? 『女なんて一緒に寝てれば自然とやれる』とか……おや~?」


 ここぞとばかりに畳みかける。大丈夫。こっちにはメイド長と言う優しくて頼りになる存在が居るのだ。今の僕は虎の威を借りまくる狐になろう。


「……一緒に寝て無いんだよ」


 苦々しい口調で馬鹿がそんなチキンなことを言って来るとです。


「うちなんて毎晩一緒ですよ~」

「……そうだな。私も最近は一緒に寝ているな」


 と、こっちの様子を何となく眺めていたお兄様の言葉に僕の中でブレーキを踏み抜いた。


 今彼は何と申しましたか? あのチビ姫と毎晩一緒に……?


 頭の中に思い浮かんだ映像を全力で拭い去る。この世界だとセーフだけど僕が本来居た世界では一発アウトの案件だ。

 最近は本当に厳しいんだからね!


「キャミリーも我が儘でな……仕事で疲れているから断るんだが引き下がってくれん。終いには側室の子等まで来てしまう」


 何そのロリハーレム状態! ダメです。絶対に想像しません。

 でもイケメンなお兄様がロリっ子を従える姿は……危険だから考えるなっ!


「そうだスィーク。子供らに読み聞かせる本をもう少し寝室に増やしておいてくれ」

「はいシュニット様。後で古今東西の面白話を集めて置いておきましょう」


 ……知ってたよ。分かってたよ。お兄様は種馬国王や馬鹿兄貴と違うって。

 でもネタを知ったら一気に子育てするお父さん的な印象に変わるのだからやっぱイケメンてズルい。




(c) 甲斐八雲

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