避妊道具ってあるの?

 メイド長に詰め寄られている前国王無視しておく。後でと言ったのに早速始まってしまった。


「ノイエが退治したドラゴン全てを新部隊の財産とする。それらを暫定的に加工担当と名付けようか……それらに預けて解体、製造、商品化までさせる。そして商人へと売りその代金がアルグスタの元へ来る。

 その金でまず加工担当に対し経費を支払う。ドラゴンの遺体置き場などの警護をする国軍からも人件費や諸経費などの請求が来るからそれらを支払う。つまり諸々の支払いをし、部下への給金の支払いも済ませた残りの残金がノイエの収入となる。税はその残金に課すのでもう少し減るがな」


 前国王がメイド長に追われ部屋の隅で震えている隙に、お兄様が僕らの居るソファー席へと来た。

 紙に色々と書きながら僕らがそれに書き加え案を練る。


「これだと加工担当が途中で代金を誤魔化せないか?」

「だったら加工する単価を設定してしまったら良いんじゃない? 1回幾らって決めるの。そうすれば加工担当の人たちも何匹商品にすれば収入はこれくらいって分かるから、経費とか人件費とか計算しやすくなるしね」

「だったら1日の処理数の上限を決めてしまうのも良いな。それだったら商人に対して定期的に決まった数を売ることが出来る」

「あ~。銭勘定は任せた」


 1人離脱したので、後は新国王との一騎打ちだ。

 出来るだけこっちに有利になるようにしたいけど……ノイエの稼ぎの多さは問題になっているし、少し減るくらいの方が良いのかもしれない。

 何よりノイエはお金の為にドラゴン退治をしている訳じゃない。ライフワークなだけだ。


「だったらもうある程度数を決めてしまうのが良いのかな。ドラゴンの湧き具合も加味しつつ、1日の討伐数をある程度国主体で決めちゃって対処していく。

 ノイエには時間内で伸び伸び決められた数を狩るように言えば良いしね」


 僕の言葉にお兄様が頷く。


「確かにな。そうすれば税収も安定するか」

「だね。後はノイエの休みの調整しやすいし、そっちの方が色々と良い気がする」

「悪く無いな。これを原案にして今一度話し合って調整することとしよう」


 物凄く事細かに話し合った気がするが、原案が出来た。たぶん原案と書いて決定稿と読む奴だけど。

 メイド長にいじめられている父親の様子を眺めていた馬鹿兄貴が、金勘定の終わりに気づいてこっちに顔を向けて来る。

 ただその表情が呆れた感じなのが凄くムカつく。


「お前って本当にノイエの休みにこだわるな? アイツは毎日でもドラゴン退治していたいだろう?」

「言いたいことは分かるけど……みんな重要なことを忘れてない?」

「何がだ?」


 本当に忘れているのか気づいていないのか、ノイエが今一番望んでいるもの……それは、


「ノイエが妊娠したら誰がドラゴン退治するのさ?」


 その言葉に執務室中の全員が固まった。

 まさか……全員してそのことを忘れていたのか? 気づいていても無視していた可能性もある。


「……完全に失念していたな」


 うおっとお兄様。マジですか?


「ノイエなら妊娠しててもやれるだろう?」


 妊婦にドラゴン退治をさせるだと? 良しこの馬鹿兄貴は後でメイド長に折檻して貰うようお願いしよう。


「儂も王妃もそろそろ孫を抱きたいと思っているが……そうか。ノイエの場合それがあったな」


 娘だった場合、前国王に抱かれると穢れそうなんで全力拒否だ。


「……お茶の支度でも」


 唯一メイド長だけが替わり無かった。流石メイド長だ。


《大叔母とか言われたら許せませんね。その時は……》


 不穏な呟きが聞こえたけど気のせいだ。何よりその時はどうなるのかだけ知りたい。聞いたら終わりな気もするから聞きたくないけど。


「しかし実際どうする? 兄貴」

「……ドラゴンの活動が激しい時期には避けて貰うしかないな。逆に今の時期に子を成して貰い、冬季の間に出産……は難しいか」

「ああ。雨期の前の涼しい時期が問題になるな」


 二人の兄が真面目に考えこんだ。と、疲れ切った様子の前国王様も戻って来てソファーに座る。


「でもノイエがドラゴンを狩る前はどうにかしてたんでしょ?」

「……あの頃と今とでは圧倒的なほど数が違うんのだよ。ノイエが来る前は1日に何匹程度だったが、今では何十匹だ。正直ドラゴンの増え方が異常すぎる」


 お兄様の返事に僕は納得した。そしてやはりノイエが簡単に妊娠できない事実を知った。

 分かってます。夫としてノイエがあんなにも子供を欲しているのだから、全力で協力して子供を作りたいなと思いつつ日々頑張っている訳です。


 ですが僕の中に居るもう1人の僕がこう思っているのです。

『もう少しノイエと2人でイチャイチャしていたい』と。


 分かっています。だから僕は今まで一度として避妊なんてしたことはありません。だって彼女が子供を欲していると知っているし……何よりこの世界って避妊とかあるの?

 ゴムって言う存在を今まで一度も見たこと無いな。


「あの~。物凄く今更な質問をしても宜しいでしょうか?」

「どうした馬鹿」

「……この世界に避妊道具ってあるの?」


 恥を忍んで質問したら、前国王と馬鹿兄貴が腹を抱えて笑い出した。

 この2人は後でメイド長に……と思い、お茶の支度を整えて戻って来た彼女に事の次第を告げたらフッと鼻で笑われました。


 結果として真面目なお兄様が教えてくれました。この世界には避妊道具は無いそうです。

 そもそも女性とそう言うことをするのは子供を作る行為な訳だから、それを制する道具を用いるのは本末転倒なのだとか。


 ただただ恥ずかしい思いをするだけでした。



 ノイエの妊娠案件は、彼女が妊娠したら考えると言う先送り方式で話がまとまった。




(c) 甲斐八雲

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