王妃の秘密
到着して案内される屋敷はとても広い敷地で凄い。建物とかも立派で……砦を兼用している僕の屋敷とは全く違う。砦兼用の時点でやっぱり屋敷じゃないよな?
案内するのは王弟夫人のメイド長。落ち着いて考えると意味が分からん。
世の中には居るのかもしれないけど、たぶん特殊なスキル持ちな人にしかなれない職業だ。
「あ~っ! おね~ちゃんです~っ!」
「ん?」
大音量を発して駆けて来るのはいつも通り無駄に元気なチビ姫だ。否、チビ王妃か。王妃の前に次期が付くけど。
全力で駆けて来るチビ姫にノイエが若干引き気味だ。でも僕と手を握っているから逃げ出せない。
そう本当にガッチリと握っている。恋人繋ぎと言われる指と指との間に指を入れるあれだ。ノイエからして来た時は本当に無理してるんだな~って思った。僕も思わずキスしそうになったけど。
「っで!」
「キャミリー様。本日は糞忙しいから静かにしてて下さい。誰か……これを捨てておいて」
「はい」
控えていたメイドが目を回し気絶しているチビ姫を抱えて行く。
あ~。何か物凄く綺麗にメイド長の手刀がチビ姫の脳天に振り下ろされたのを見た気がする。
大丈夫か? あれでも次期王妃様だぞ? あっでも……一応姪にあたるのか。なら平気なのかな?
そう言われれば国王様にも結構な態度で接しているらしいし、馬鹿王子は何度か始末しようとしてたし、何より僕なんて顔面踏まれたしね。叔母さんだから許される暴挙だと思いたい。
と、その表情を普段のメイド長に戻して彼女が案内してくれる。
「こちらになります」
「……今のスィークさんの立ち位置を教えてください」
「わたくしはいつでも立派なメイドです」
「……分かりました」
睨まれ脅されたので納得するしかない。何かズルい。
ノイエと一緒に案内されたのは広い中庭だ。
庭木も覆い茂り、どこからか子供たちの笑い声も聞こえる。
ノイエの視線とアホ毛が向いてる先にたぶん子供たちが居るんだろうな。
「王妃様はこの奥……姿隠しの中に居ます」
「姿隠し?」
聞き慣れない単語につい聞き返す。
コクッと頷いたスィークさんは、僕では無くてノイエを見た。
「王妃様は2度の襲撃で酷い怪我を負い……そして2度目の襲撃の時に呪いを受けたご様子でして」
「呪い?」
そんな物があるんだ。魔法とかが普通にあるんだから在っても変じゃないけれど……ただどうしてジッとノイエを見ているんだろう?
「はい。その呪いのせいで王妃様は人の前に姿を出せなくなってしまったのです。ですからどうか……お2人も驚かれないように願います」
「分かりました。出来る限り頑張ります」
「……はい」
返事をし、その返事を見てスィークさんが奥へと案内してくれる。
ん? 気のせいかノイエが僕の手をギュッとして来た。ノイエが緊張? 無いわ~。それは無いわ。
ただ不思議なことにノイエのアホ毛が忙しなく動いている。
「ノイエどうかした?」
「……」
チラッとこっちに視線を向けるけど、彼女は何も言わず少し歩を速める。
僅かだけど僕より先に進んで、それはまるで盾にでもなるようなそんな動きだ。
襲撃? こんな場所で?
歩く僕らの前に木の枝から吊るされた白い布が見えて来た。あれが姿隠しか。
「これより先は2人で。どうぞ」
「あっはい」
立ち止まり控えるスィークさんは本当にメイドのようだ。普段メイドだけど。
少し緊張で喉の渇きを覚えつつ、少し先行するノイエに引っ張られる形で僕らは布の前に立った。
「初めまして。アルグスタ。ノイエ」
「初めまして王妃様」
「……初めまして」
2人揃ってゆっくりと頭を下げると、布の向こうから柔らかな笑い声が聞こえて来た。
「ごめんなさいね。2人は仲が良いと聞いていたけど……手を繋いでくるなんて思ってもいなかったから、つい嬉しくなってしまったの」
「ああ。無作法でしたね」
「良いのよ。だって私たちは家族なのですもの。遠慮なんていらないわ」
確かにその通りだ。普段の僕の国王様に対する態度とか色々とアウトな気がするしね。
それにしても王妃様って……何て言うか若作りしているのか、喋り方が若々しい。二十代くらいの女性と話しているような感じになる。
「今日は忙しいのに私の我が儘を聞いてくれてありがとう。折角2人に来て貰ったのだから、色々とお話がしたいの……良いかしら?」
「はい。僕らもそのつもりで来ました」
それにここにある『カミューに関する書類』にも用があるしね。
「ならお手数だけどその布を捲って中に来て貰えるかしら? 私……事故で足を悪くしてあまり歩けないの」
「あっはい。なら失礼して」
ゆっくりと布に手を掛けて……と思ったら、ノイエがバッと乱暴に捲った。
ちょっとノイエさん。時と場所を選ばない……えっ?
布の先に居る人の姿を見て僕の背中にゾクッとした物が走った。
てっきり事故で酷い姿を想像していたのだが、目に映るのは全く違う……想像していない姿だ。
椅子に腰かけて居る女性……たぶん王妃様だろう。
でもこの姿は、これが呪いなのか? って、ヤバいっ!
正気に戻った瞬間、僕は全力でノイエの手を引いた。
王妃様の手前まで歩み寄っていた彼女の手が、王妃様の頬に触れる寸前だった。
「ダメ! ノイエッ!」
「……はい」
素直に従う彼女に王妃様が驚いた様子だったが、少しすると落ち着いたのかこちらに向かい笑いかけて来た。
「この姿を見たら……彼女は反応してしまうわよね」
「……」
何も言えない。どう言い返したらいいか分からない。
クスクスと笑う王妃様は、その姿は……顔の半分を蛇のような鱗が覆っている。
そう。まるでドラゴンを人の形にしたような感じだった。
(c) 甲斐八雲
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