紫の三角形?
空はとっても高いのに、とっても青いのに……僕の心はどんよりした分厚い雲から豪雨中です。
もう全て終わった気がする。
今居るのはお城の高くて開けた場所。
戦争の時とかに国王様が兵士たちに向かい演説する場所らしいけど、僕からしてみればただの広いバルコニー。
そんな所でゴロンと横になって空を見つめている。
もう……何もしたくない。このまま僕は石にでもなりたい。
日に日にノイエとの距離は開くばかりで、最近は一緒のベッドで寝ない。彼女はソファーで膝を抱えてずっとこっちを見ている。昨日は僕がソファーを占拠したら、ベッドに座った彼女がジッと見て来る訳で……変化はさほど生じていない。
たぶんこれを絶望と言うのだろう。
あ~鳥になりたい。飛べなくても良い。ひょ~んと飛べたら楽になるかな?
チラッとバルコニーの外を見るけど、高いけどそこまで高くない。頭から落ちないと楽には逝けないっぽい。
あ~ダメだ。思考がネガティブすぎる。
頭の下に手を回して枕にし、空を見上げる。
何をどう考えてもノイエに本当のことは話せない。彼女自身が人質だ。
グローディアが何を考えて自分たちの存在を秘密にしているのか知らないけど、何かしらの意味があるからここまで強硬な手段を使うんだろう。
つまり僕に選べる選択肢は全くない。
「本当に嫌になるね」
段々と頭の上の方から暗くなって来て、
「紫の三角形? むぐぅっ!」
「失礼いたしましたアルグスタ様。何やら不穏な黒い虫が居たように思え、つい足が自然と」
「分かったから退けてっ! 何故にグリグリがっ!」
「不穏な黒い虫は徹底的に踏み潰しておかないと不安なので」
「痛いってマジで!」
容赦の無いグリグリ攻撃が僕の顔面をっ!
「ちらりと見えた色は何でしたか?」
「何も見えてませんっ! 今日の空はとっても綺麗な青ですっ!」
「そうに御座いますね」
ようやく退けられた足の裏から全力で逃れ、顔面を擦りながら凶行に及ぶ相手を見る。
王妃付きのメイド長様だ。
自分の顔面を色々と確認しつつ突然現れた相手を警戒する。
この人……何となく厄介な感じがする。ノイエの中の人たちみたいな雰囲気だ。
「何かご用ですか?」
「ええ。キャミリー様が先ほどから全力で逃亡しておりまして、仲の良いアルグスタ様の所に居るのではと思いまして」
「チビ姫? 今日はまだ会ってないよ」
「左様にございますか」
ふわりと一礼して……彼女はその場に留まる。
なんだろう? この蛇に睨まれているような感じは?
「あと何かありますか?」
「いえございません」
「……探しに行かないの?」
「キャミリー様は探すより罠を張って待っていた方が良く釣れますので。ここで待って捕らえます」
この人、次期王妃を害獣扱いしているけど大丈夫?
スパルタと言うか、キレたフレアさんを地で行ってるような人だけど。
「まっ良いけどね」
息を吐いてバルコニーの石柱に背中を預ける。
怖い気配を発し続けるメイド長がチラリとこっちを見た。
「何か困りごとですか?」
「はい。怖いメイドさんがずっと居てっ! ごめんなさい。嘘です」
近づいて来る恐怖に全力で頭を下げた。
この人メイドと言う名の調教師か何かじゃ無いの? メイド長って地位は周りの人を調教するのが仕事なの?
「それで何をそんなに思い詰めていらっしゃるのでしょうか? こう見えてはわたくしはメイド長を務めるほどの知識と経験がございます。お話して頂ければ知恵の一つも出るかもしれません」
「馬鹿な兄貴をどうにかしたいなって」
「そうですか。ならご命令ください。『サクッと殺して来い』と」
「出て来る知恵が暴力的やしませんかねっ!」
物凄く軽い口調でとんでもないことを言い出したよこのメイドさん。
だけどメイド長は薄い笑みをその顔に張り付けた。
「ハーフレン王子は子供の頃からわたくしに楯突く悪い部分がございました。ええ……王妃様が止めなければ、何度あの餓鬼を始末出来たことか」
「もしも~し?」
「……軽い冗談にございます」
絶対冗談じゃ無いよね? 何度かやろうとしたよね?
もう嫌だ。何か僕の周りにはまともな人が居なさ過ぎる。
と、またふわりとメイド長が一礼して来た。何でしょう?
「声を発し、ご気分が少しは和らぎましたか?」
「……」
何ですと?
「人は考え過ぎると内に嫌な物を貯め込んでしまいます。そのような時は大きな声を出すことで胸のつかえが軽くなるのです」
釈然としないけど相手の言葉は間違っていない。
騒いだお蔭で胸の中のモヤモヤはだいぶ薄れた。
まるでこっちの気持ちを理解しているような様子でメイド長がまた一礼する。
「どうでしょう? お悩みを打ち明けて頂ければと思います」
「あ~。男女のことでも?」
「はい。王妃様から国王陛下の愚痴を延々と聞かされ続けたわたくしならば、逆に良い意見が出来るかと」
「うわ~。良く分かんないけど何故か納得したよ」
あの種馬王様のお嫁さんって存在だけでも王妃様の心労は測りきれ無さそう。
「なら教えて欲しいんだ」
「何で御座いましょうか?」
薄い笑みをその顔に張り付けるメイド長に僕は口を開いた。
「どうしたらお嫁さんの不安を拭って嘘を吐き続けることが出来るのかな?」
(c) 甲斐八雲
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