強いて言えば美巨乳だ

「アルグスタ様」

「んっ?」

「心臓が口から飛び出しそうなんですけど」

「出て無いから平気だ。要は慣れだよ慣れ」


 即位式の最前列……王家王族の席に回された僕とルッテは、見る方では無くて見られる方である。


 ユニバンス王国の主だった貴族さんたちが集まり、各国の外交大使たちも出席する。

 わざわざ出向いて来る他国の王家の人もいるが、そう言った人たちは即位式や結婚式がメインの目的では無くて、外遊と言う名の息抜きを求めて来たサボり族だ。


 それらしい顔を作って真面目に出席しているけど、夜になれば外交費で贅沢三昧。自国で出来ない豪遊もよその国でなら国民の目を気にせずって奴だ。

 実に羨ましい。僕的にはノイエとどこか避暑地に行ってのんびりしてたい。


 ユニバンス王国の王家席には、馬鹿兄貴と僕が並び座っている。

『自分上級貴族になったから王族の方ですよね?』と無駄な抵抗をしたが、次の新年を迎えるまでは一応王家の人扱いらしい。全ての区切りは新年にありってことです。


 ちなみにこの世界は、新年を迎えると齢が1つ増える数え年制です。

 分かりやすくて良いんだけど……誕生日イベントとか無いのね。


「はわっ……はわっ」

「落ち着きなさいルッテ」

「でも先輩」

「薄く目を開いて寝ない程度に意識を保ってれば良いのよ」

「そんな器用なこと出来ませんよ~」


 場違いな場所に連れて来られたルッテは、終始アワアワしてて見てて楽しい。

 ちゃんとドレスを着せ、髪を整えて化粧まですると貴族の令嬢に見えるからビックリだ。

 こちらを見ている貴族の男性諸君もヒソヒソと話し合い興味津々の様子。


『あの胸は凄いな』『実に素晴らしい』『ぜひ挟みたい』『自分はあれで叩かれたい』などなど……大丈夫か? この国の貴族たちの性癖は?


「にしても、『美乳派』とか言ってる割には、ルッテを連れて来て胸を強調させるとは支離滅裂だな?」


 隣に座る馬鹿王子がニシシと笑って来る。


 イラッとするけど、ルッテの胸は大きいが形は悪く無い。強いて言えば美巨乳だ。

 そんな反論で相手が納得する訳ないので、ここは正直に答える。


「仕方ないじゃん。クレアだと幼いし、何より周りに幼女趣味とか思われたくないしね。

 本当はフレアさんをと考えていたんだけど、どっかの馬鹿王子が代理にするとか言い出す始末。

 結果ミシュは待機所に残しておかないとダメになった時点でルッテ一択なんだよね」


 そう。余りにもルッテが嫌がるからフレアさんに代理を頼もうと思ったんだけど、どこぞの馬鹿王子が先に頼んでいたらしく断られた訳です。


「つかさ……あんたこそ自分の嫁を連れて来いよ。まだ会って無いんですけど? 実は実在してない幻想の嫁ですか?」


 何だかんだで馬鹿王子のお嫁さんと会っていない。

 こっちの問いに相手が渋い表情を見せる。


「仕方ないだろう。結婚式はこの後だ。その前に披露する訳にも行かん。その関係で妾を代役にするのも世間体から見て却下と来た。仕方なく代役を頼める人間を探した結果だ」

「あら? 私はそんな無碍の扱いでしたのですか? 王子?」


 底冷えするような声に、僕は視線を舞台へと向ける。


 中央には新国王が玉座に座り、その隣にはチビ姫が黙って座っている。

 あの子の性格からして全く動かず、寝ずに座っているなど奇跡に等しい。実は精密な人形だろうか?


 会場の右端では、現国王様が延々と歴代の王の名前を読み上げている最中だ。

 全ての王に感謝して新しい王を迎えるとか何とかで、念仏の様な声を聞かされ続ける。


 はっきり言って駄弁って無いと寝る。


「……自分が捨てた女を困った時だけ使うその精神が良くないのでは?」


 視線を戻すとまだネチネチとした声が。

 聞かされている方は今にも両手で耳を塞ぎたい様子だ。


 腐っても王子様に対して暴言を吐き続けるフレアさんの様子を見て、ルッテの顔色が蒼くなっていた。


 暇だ。


 ついで視線を巡らせると、貴賓席の中に見知った顔が居る。

 クレアとイネル君も上級貴族で王都滞在組なのでもちろんこの場に参加している。実家の名代として新しい服に身を包んでいる2人は、緊張した面持ちで中々に初々しい。


 ちなみに上級は王都に居る者を代理出席させている感じかな。中級や下級は出られれば出るって言った様子だ。

 そう考えるとミシュも出席させた方が良かったのかもしれないけど、これ以上現場を見れる人間を外すと不測の事態の時に拙いしな。


「ルッテ」

「はい」

「待機所とかノイエはどんな感じ?」

「……」


 チラッとこちらを見た彼女が顔を俯かせる。

 周りに気づかれないようにして祝福を使うのだ。


「待機所は平和ですね。ミシュ先輩が味付けを担当しようとして周りの人たちに止められてます。抵抗して……何故か鎧を脱ぎだそうとして止められました。あっ縄が運ばれてきます。手慣れた様子で簀巻きにされて運ばれて行きます」


 リアルタイムの実況で、何が起こっているか容易に想像出来た。


「本当の意味で平和だな」


 何やってるんだかな……つか現場監督を簀巻きにするな。気持ちは分かるけど。


「隊長が居ました。ドラゴン相手に縦横無尽です。止まりません。凄い勢いで……どうして隊長はあの空飛ぶ蛇みたいなのを引き裂くんですかね?」


 知らないよ。でも確かにノイエは、あの蛇型の口を上下に無理やり開いて引き裂くな。

 何か意味でもあるんだろうか? 今度聞いてみよう。


「お腹が減るんでここまでです」

「どうも」


 祝福を切って顔を上げた彼女の顔には汗が浮かんでいる。

 こちらが無理をして頼んだ都合、懐からハンカチを取り出して軽く汗を拭き取る。


「ああやって自然と女性に優しく出来るからアルグスタ様の女性人気は高いんです」

「だから俺の良さはベッドの上で発揮されるといつも言ってるだろうが」


 幼馴染だと言う2人の不毛な言い争いは続いていた。


 何気に一番騒がしい王家席をジッと見つめる視線に気づいて顔を向けると、好々爺を絵に描いたような男性がこっちを見て微笑んでいた。


 はて? それなりに良い身なりだな。でも知らない顔だ。誰だろう?




(c) 甲斐八雲

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