アルグ様にもする
「ん~」
「どうしたんですか?」
「何か上から無理な注文が」
「はい?」
頭上の鳥の巣チックな髪型から、色々と試行錯誤して結局ポニーテールになったクレアに紙を振る。
たぶんこれが女心と言うものなのだろう。
出したうなじを『大人っぽい』と言われたのが嬉しかったんだろうけど、毎日見せられると飽きると思うよ。
受け取った紙を見ているクレアを見た感想がそれだった。
「王族の全員参加は分かりますが……ノイエ様の不参加って?」
「ドラゴン退治を止められないでしょ?」
「確かにそうですね」
手にしていた紙をこっちに戻し彼女も頷く。
結果僕の参加したい率は激減だよ。
「でも既婚者はこの手の場合女性同伴ですよね?」
「だから頭を痛めてます」
「ですね。アルグスタ様は側室も妾さんも居ませんし」
あ~面倒臭い。本気でどうしますかね?
「クレア~」
「はい?」
「一緒に行って暇な時間を過ごしてみない?」
「遠慮します。それに一応私も名代として出席を命じられてますし」
あっさりと拒絶して彼女は逃げ出した。
現在王都におけるクロストパージュ家の名代は、"色気のない女"ことクレアだしな。
フレアさんは姉たちの反対で外されているらしい。姉妹仲良くって思います。
ちなみに僕の様に同伴者が出席できない特別の場合は代理が許されている。
即位式は国を挙げての一大イベント……的に聞こえるが、今回のはあくまで内外に対するアピールの場だ。実際の即位式は、新年に執り行われる。
「は~」
ため息が止まらない。実に面倒臭い。
こうなったら次に部屋に入って来る人で良いや。
待つこと暫し、ドアがノックされた。
「失礼します。アルグスタ様。書類の確認を」
「ルッテか。まあ良いや」
「はい?」
何も分からず部屋に入って来た巨乳な彼女が動きを止める。
「君……今度僕と一緒に拷問を受けに行くから頑張って」
「突然の言葉がまったく頭に入って来ないんですけど!」
「気にするな。一緒に不幸になろうよ~」
「嫌です!」
胸は大きいのに器が小さいぞ?
うちのお嫁さんなら迷わず即受け入れだと言うのに。
「大隊長命令ね」
仕方ないから魔法の言葉を使う。
『あぐぐ』と開きかけた口を震わしてルッテが、ブワッと涙を溢す。
諦めろ。誰かが犠牲になるしかないんだ。
「はぁ~」
「……?」
いつも通りと言うか、ここ最近では久しぶりにノイエを後ろから抱きしめる。
例のプレイは止めて貰った。流石にあんな強パンチを毎晩食らい続けると死んでしまう。
でも『忘れる』と不満を言う彼女に代わりとなる約束をさせられた。今度からあの手のプレイは、僕がして欲しいシチュエーションを提案し実行するってことになった。
つまりあんなこととかそんなこととか……頑張ってコスプレ衣装を作るべきか真剣に悩む。
「アルグ様?」
「ん~」
彼女の首筋に唇を寄せて軽く吸い付く。サラサラの髪から良い匂いがしてくる。
この世界にもシャンプー的な物は一応あるけど、液体石鹸の親戚のような物だったりする。
ここまで良い香りがするのは……何かしらの物をあの石鹸に入れているのか、彼女の体臭が良い香りなのか。
肩越しにこっちを見るノイエは本当に可愛い。
その顔は無表情だけど、最近はほんのりと変化が生じている。僅かだけど彼女の感情で表情が動くようになって来た。
表情筋自体は無事に動くことは実証済みだから、後は感情の方を少しずつどうにかして行けば自然と表情も豊かになるはずだ。
「良し。ノイエをたくさん補充したし、嫌な仕事とも向き合おう」
「……はい」
僕の言葉の意味を分かっていない彼女だけど、返事をくれることが嬉しかったりもする。
「ノイエ。ごめんね」
「はい?」
「一緒に即位式とか出れなくて」
「……大丈夫」
グッと拳を握ってやる気を見せる彼女は、ドラゴン退治が出来るから不満無さげだ。
一応ノイエの替わりにルッテを連れて行くことは決定事項として、フレアさんから伝えて貰っている。
ほら……僕から伝えて変に受け取られるとルッテが大変な目に遭うかもしれないしね。
結果としてノイエは普通だったそうだ。
書類に書き入れるサインミスとか報告ミスとかやって無いらしい。
それを聞いて寂しく思うのは、僕の心が狭いからだろうか?
でもノイエと一緒に行けない分、こうしていっぱいスキンシップをしておく。
ほれほれノイエさん。そんなにスリスリと背中を擦り付けて来るのは何を期待しているんですか?
即位式と結婚式が終われば、後は大きな行事は無いはずだ。
いつも通り仕事をしながら……折を見て連休を取りたいな。
プレートを埋める手術の時は、僕以上にノイエがどんな行動を起こすか分からないから念入りに備えないと。
プレート……プレート?
そっと抱きしめているノイエの体を色々と撫で回す。
確認しようと思っててすっかり忘れてた。
「んっ……アルグ様?」
「ごめん。痛い?」
「平気」
少し強めに押してはノイエの腕や足の骨を確認する。
祝福の特性上、ノイエの傷口は完全治癒してしまうから跡が残らない。
つまり触って確認するしかないんだけど……手足の骨に異常は無い。
アイルローゼ先生が言うには、最もポピュラーな埋没場所は手足の骨。次いで肋骨らしい。
意表をついて頭蓋骨に張り付ける猛者や骨盤に張り付けたり巻き付けたりする強者も居るらしい。ただしその辺りは一歩間違えると命の危険が生じる。
「んっ……んんっ」
「無いか」
「はい?」
頬を上気させた彼女が振り返って来る。
して欲しそうにも見えるけど……今は我慢して確認が先だ。
「ノイエ」
「はい」
「ベッドに寝て」
「はい」
嬉しそうに横になる彼女に申し訳ないけど、全身を隈なく……表も裏も触って確認する。
うん。奥さんに全身マッサージをしていると思えばおかしくないはずだ。
で、出た結論として……ノイエの骨に異常は無い。何も違和感が無い。
「ん~?」
座って悩む僕に、完全に準備が整っているノイエが抱き付いて来る。
「わっ……ちょっと待って」
「大丈夫」
グッと拳を作って自信満々のノイエが馬乗りになる。
どう見ても大丈夫じゃ無いから。間違いなく搾られるから。
「アルグ様にもする」
「はい?」
「こう?」
慣れない手つきで触り出した彼女の手が気持ち良い。
あ~。ちょっと良いかも。うん。ちょっとじゃ無くて良いかも。
「ノイエ。次は背中もお願い」
「はい」
たっぷりと彼女のマッサージを受けお礼にマッサージをする。
結局今夜も彼女に搾り尽された。
(c) 甲斐八雲
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