教えて! フレア先生 帝国編

 途中色々あったけど無事後半の授業が始まった。

 ここ最近の傾向からキャミリーも『フレア先生に逆らうと怖い』と言うことを学んだ様子で何よりだ。


「次は帝国です」


 教室に使っている部屋の最前部に掛けられた、フレアさんお手製の世界地図を彼女が指さす。


「大陸の中央、この辺りが帝国……ブロイドワン帝国の領土です。その大きさは大陸一と言われています。これを見て気づく子は居るかな?」


 先生がかなりアバウトな質問を寄こして来た。

 これだと誰も答えずに僕に質問が回ってくるパターンかっ! 何この教師からのパワハラはっ!


「先生。は~いです~」

「……どうぞ」

「大陸の残りの大きな国とくっ付いてるです~」

「そうね。正解です」


 大穴のキャミリーが正解を出したらしい。

 さあ働け僕の頭よ。つまりこれが意味することは?


「帝国はこのように四方を大国と呼ばれる国々と接しています。つまりこれ以上の領土拡大は難しいのです。ですがそれでも推し進めようと計画していた所にドラゴン襲来もあり、現在は戦線の維持と小国などの攻略に力を注いでいます」


 確かに地図を見る限り安全地帯が全くない。

 四方を敵に接していると言うことは、逆に四方から攻められると言うことか。

 何かこんなのゲームの画面で見たな。信長包囲網だっけ?


「帝国を支える産業は林業と地下資源の採掘です。特に多くの鉱山を所有する帝国は、この大陸で使用する大半の金銀銅や鉄などを産出しています。

 私たちのユニバンスにも鉱山があって細々と採掘していますが、帝国が掘る量と比べれば微々たる物です。ですが鉄などは自国で使う分くらいなら産出しているので、帝国と喧嘩をしても『鉄が無~い』とか言わずに済みます」


 そうだった。この小国ユニバンスの唯一の強みは、地産地消でやりくり出来る点だ。

 だから共和国や帝国などはこの国が欲しくてたまらないって部分もあるんだけどね。困ったもんだ。


「現在の帝国……皇帝が即位してから、この国はあちらこちらの国を攻めて支配して来ました。帝国領と言っても大半は降伏した国で、帝国が本来所有している領土は中堅国くらいの大きさです。降伏した国の妃や子供などは全てこの帝国の首都に集められているので、どの国も逆らうことが出来ません」


 生徒たちから不満の声が出る。

 両親と離れ離れで暮らすことに対する不満や、国が国によって支配される構図が良く分からないみたいだ。

 この辺は前の世界の歴史を学んでいる僕だからすんなり受け入れられるのかな? あれ?


「はい先生」

「何でしょうか?」

「帝国はある意味人質を取っているんですよね? なら共和国は?」


 共和国も経済で支配し属国多数のはずだ。


「言い忘れましたね。共和国はこのような政策をしていません」


 フレアさんが教室中を見るように顔を巡らせる。


「共和国は人質を取らない代わりに従う国からあるものを奪いました。それは兵士です。

 兵士を共和国が全て預かることとし、派遣する形で従う国に貸し与えるのです。ですから属国は共和国に逆らうことが出来ないのです」


 納得した。それだったら確かに難しいかな。

 派遣されている兵士を口説いて反乱とか考えても、そもそも"派遣"と言う形である以上、兵士たちの家族は別の場所に居る可能性もある。

 ある意味人質と言うか担保を確保している。頭の良い人が考えそうなことだわ。


「話が別に逸れてしまいましたが、帝国はこうして国を支配しています。

 ですが意外と税率は安く、暮らす人たちからは『住みやすい』との言葉も良く聞かれます。それを聞いて雨期の間に移住を試みる人たちもいるくらいです」


 へ~。知らなかった。

 何か帝国って聞くだけで圧政+軍国なイメージがある。


「帝国はこのような移住者に対して3年間の労働を課すことで帝国民として受け入れています」


 また教室がざわざわとして来る。

 人質を取る悪い国だと思ったら、実は良い国っぽいから判断に困っているのだろう。

 確かに良い国かもしれないよ。ただ抜け目は無いけどね。


「はい先生。3年間の労働の内容は?」

「……未開発の土地での開墾作業が主です」

「その間の生活は?」

「最小限の配給はなされるそうです」


 少し怒った様子でフレアさんがこっちを見て来る。

 これから種明かしだったのかな? それだったら悪いことをした。


「今の質問から分かるように、帝国に移った人たちは農作業をすることになります。ですがこれがちょっとした問題で……3年も自分が耕した土地には愛着も沸き、普通なら誰もが手放したくなくなります。つまりそのままそこで暮らし農作業を続ける人が増えるのです」


 結果として帝国は税を納める人が増えるから税率を下げても問題は無い。

 それを聞いてまた他の国から人が来れば未開の地を与えて……の繰り返しだ。


「帝国って意外と頭が良いんだね」

「アルグスタ様? その発言自体が頭悪そうですよ」


 思わず呟いた言葉にフレアさんからのツッコミが帰って来た。


 うむ。上司に対して何たる暴言か。

 少しノイエでもと思ったら、彼女はキャミリーを抱きしめて寝ていた。


 えっと……その胸で窒息してるっぽいお姫様は生きていらっしゃるでしょうか?




(c) 甲斐八雲

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る