教えて! フレア先生 共和国編

「先生、おはようございます」

「「おはようございます」」

「はい。おはようございます」


 日直の号令で生徒たちが皆椅子に座る。

 今日の日直が次期王妃だと知るフレアのドレスの中は冷や汗で満ちていた。


 大らかすぎるアルグスタではダメだと判断し、苦情の先をハーフレンにしたが、『あ? チビ姫そっちに行ってたのか。良いんじゃないの?』と、無責任で仕事を投げる性格だったのを忘れていた自分の判断ミスだと気付き、相手の爪先に踵を叩きつけて溜飲を下げた。もちろん強化魔法で踵の補強もバッチリだ。


「……では、本日はある生徒からの提案で、共和国と帝国について学ぼうと思います。皆も学びたいことや疑問に思ったことなどがありましたら、先生に言ってくださいね」

「「は~い」」


 色々と上司などには不満もあるが、子供たちの素直な声を聞いているのが本当に癒しとなる。

 最近は最前列まで来ていた上司も今日は一番後ろの席だ。妻たる人物を同伴して来ている時点で特大級の不満もあるが、命を狙われているかもしれないことを鑑みて何も言わないでおく。


「では今日は少し長く授業をするので皆さん頑張ってくださいね」

「「は~い」」


 そう。この癒しの時間も遂に終わる。

 雨期が終わりを迎え、明日から職場が城の執務室から郊外の待機所へ変更となる。


 一応明日は、一期工事を終えた待機所の掃除や確認などで時間を費やすことになるだろうが、それでもまた最前線と呼ばれている場所に出向くのだから気を引き締めないといけない。


「まずは共和国のお話です」


 でも今日くらい野外の仕事など忘れ、平穏無事に子供たちに癒されようとフレアは決めていた。




 ユニバンス王国から見て……北東の方角に位置する大国セルスウィン共和国。

 この大陸に存在する5大国の1つに数えられ、その立地から東のセルスウィンとも呼ばれる。


 主な産業は農場と漁業。そして商業だ。


 中堅国であったこの国が大きく発展したのは、その類まれな商運であり、経済を支配することで隣国との争いも少なく領土を広げて行った。

 支配体制は国民からなる投票制であり、現国家元首は28年前に国民から選ばれて以降その地位を守って来た。




「一応投票で決めるとなっていますが、任期は6年で前々回から対抗しようと出馬する者も居ないので実質無投票状態です。ですが高齢であるために次の国家元首選への出馬はしないであろうと言われていて、現在彼の息子の2人がその地位を狙い活動しています」


 今日は政治の話をすると事前に通達していたので。低年齢の子は参加していない。

 高年齢……年が明ければ数えで13・14になる子ばかりだ。3名ほど年齢など関係してない人らも居るが。

 上司2人は問題無いが、次期王妃は大いに関係している。


「現在後継者争いをしている人たちを知っている子は居ますか?」


 難しい質問だとフレアも理解していた。

 誰も知らなければアルグスタが答えを言うスタイルが定着しているので、こうした難問も口に出来る。

 だが今日は答えられる人物がこの場所に居るのだ。


「先生。は~いです~」

「……はいどうぞ」

「ウシェルツェン様とハルツェン様です~」

「正解です。良く分かりましたね」

「はい。だって2人は、わたしのモゴモゴモゴ……」


 言葉の途中で次期王妃はノイエの手によって沈黙させられた。

 事前打ち合わせで、どこぞのお姫様が変なことを言いそうになったら強引に黙らせると密約が成立していた。


 唯一の問題は誰がやるかだけだ。


 他の誰がやっても問題となるが、隊長たるノイエの行動を止められる人物なのこの国には一人しかいない。結果としてノイエが止めて、彼女が甘えられると言う構図を作り出すしかないのだ。


(だったら今日の授業に参加させなければ良いのに)


 そう不満を言いたくもなるが、次期王妃……キャミリーは無遅刻無欠席無早退のとても真面目な生徒なのである。この場に来て齢近な子供たちと会話するのが楽しくて仕方が無いのだ。


(普段は、屋敷に飼われる雛鳥といった感じですからね)


 自身も近しい経験のあるフレアだからこそ、その窮屈で抑圧された生活への不満を理解している。


「その2人が現在後を継ごうとして共和国内ではちょっとした権力抗争が起きています」


 授業に戻りながらフレアはその姿を確認する。

 ノイエに甘える少女……共和国の国家元首を父に持つ"姫"は、自分とは違い野に咲く花の様な素直な笑みを浮かべていた。




 前半戦である共和国の講義が終わった。

 ある程度僕が知り得た知識と大差ないことは理解出来た。


 でも何かあの魔女が信用出来ないんだよね。

 最近、消えたカンダルニの箱をどうしようか一生懸命悩んでいたら気づいた訳だ。


『あの箱はどうやってこの世界に来たのか?』


 仕事中のフレアさんに質問して答えを得た。


 "召喚した物である"


 あの魔女のババアめ……今度会ったら絶対に泣かす。


 そもそも僕の質問も良くなかったんだよね。召喚術式って使用を禁止されている訳だし。

『使っていますか?』なんて質問すれば『使って無いです』と答えるのが当たり前なのだ。

 つまりあの魔女は、僕の質問を引っ掛けか何かと勘違いたのかもしれない。

 ただ途中で『あっ何も知らない子だ』と気づいてからかわれたか。


 思い出すだけで腹立たしい。

 腹いせに共和国のお姫様だったキャミリーのモチモチほっぺをムニ~と伸ばして遊んでいたら、フレアさんが鬼の形相で駆けて来た。




(c) 甲斐八雲

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