面白くない話

「アルグ様?」

「ん」

「……お客様が、嫌?」

「嫌かもね」


 あの共和国の相談役でしょ? 絶対に性格悪そうな気がする。


 ベッドの上でゴロゴロしていると、ノイエが傍に座って膝枕してくれる。

 優しくサワサワと頭を撫でられると気持ちが安らぐ。


「殴って来る?」

「ごめん。やって欲しいって本心はあるけど、それをやったら僕が物凄く厄介な事態になってとんでもなく叱られそうだから止めて」

「……?」

「やらないで」

「はい」


 コクッと頷いて彼女が僕の頭を撫でてくれる。

 サワサワと撫でてくれるのがとても気持ちが良い。


 ようやく通常サイズに戻った彼女の太ももに頭を預けてその綺麗な顔を見上げると……二つの山が確りと邪魔をする訳です。ここ最近見れなかった本来のノイエのおぱいだ。

 美しい。スケスケキャミソール越しでもその美しさに目が眩みそうだ。


「アルグ様?」

「はい」

「する?」

「……はい」


 結果としてノイエが戻ってから毎晩している訳です。




 ヒシっと抱き付いたままのノイエが可愛い。髪が栗毛だけだ。


 ノイエが実は多重人格の一種を患っていると思えばそれ程苦にならない。

 はい嘘です。ノイエの中に居るのは、間違いなく全て犯罪者な訳で……怖く無いと言ったら嘘になる。

 でも今抱き付いているのは髪の色からしてファシーかな?


 照明の下で彼女が出て来たら髪の色が変わったからマジで驚いた。

 最近ファシーはよく出て来ては叩き起こされて甘えられる。一度眠いから寝てる振りをしたら、あの笑い声が響いて来たから飛び起きたよ。


 凄く懐かれてしまったというか……幼い子供が両親の布団に入りたがるような素振りを見せるから、純粋に甘えたいのかもしれない。

 そう思うと邪険には出来ないのです。


 でももう熟睡してるみたいだし……寝ても良いよね?


 彼女と一緒にベッドの上でゴロッとしてさあ寝ようとしたら、パチッとノイエの目が開いた。


「離して」

「……はい」


 冷たい声音に押し切られて手を離す。

 ムクッと起きた金髪の彼女が、冷めた視線で僕を見下す。


「何よ?」

「いえ……一応従姉と言う話なんで、そこまで冷たい視線も無かろうと」

「そうだったわね。で、誰に聞いたの?」

「貴女の名前が"グローディア"の時点で気づきますよ」

「そうね」


 ベッドの上にペタッと座った彼女が、僕の胸の上に手を置いた。


「あの~」

「貴方の言った通りになったわね」

「はい?」

「この体よ」


 空いている方の手を自分の胸に当てて、彼女が冷めた視線をまた向けて来る。


「あの子が私たちの思い出をあんなに大切にしているとは知らなかったわ」

「ですか」

「……知っていたの?」

「伊達にノイエの旦那様ぅおっ! 痛い痛いってっ!」


 グリグリと胸を押して来た。大人げない。


「……まあ良いわ。私たちがこうして姿を出していられるのもあと少しよ」

「はい?」

「ノイエの封印が戻り始めているから、こんな簡単に出て来れないわ」

「それはよかっイタタ」

「何か言った?」

「本音を少々」


 ポンと叩かれて、彼女はふわりと立ち上がりベッドを降りた。


 普段のノイエと何も変わらないはずなのに、スケスケなキャミソール姿のはずなのに……どこか気品のような気配すら感じさせる。


「お城に封印倉庫と呼ばれる場所があるでしょう?」

「あるね」

「そこにある『カンダルニの箱』を探しなさい」

「はい?」

「貴方が欲しい物がそこに隠されているわ」

「……」


 何故か天井を見つめていた彼女は、ゆっくりと歩いてソファーに座った。


「お姉さんからのプレゼントよ」

「ビックリ箱で無いことを願います」

「……」

「あれ?」


 体を起して様子を見ると、彼女は寝ている様だった。

 もう。ノイエの体を好き勝手使って……使い捨てて行くなよな。


 起きてソファーまで行ってノイエの体に手を回す。

 どうして女の人の体ってこんなに柔らかくて良い香りがするのかな?


 抱え上げてベッドまで運ぶと、何故かギュッと彼女が抱き付いて来た。

 また誰か出たか?


「アルグ様?」


 ノイエでした。

 キョロキョロと辺りを見渡した彼女が僕の顔を覗き込んで来た。


「なに?」

「えっと……」


 ノイエの仲間たちのことは言えないから、ここはどうにか上手い言い訳をっ!


「ソファーで」

「ソファー?」

「しようかと」

「……」


 頬を紅くした彼女が少し怒った感じを見せる。

 寝てる時はしないって言われてたんだけど、ね。


「ごめん。ノイエが余りにも可愛かったから」

「……はい」


 自分の足で立った彼女が僕の顔を覗き込んでキスして来た。

 その気はなかったんだけど……それからソファーで彼女を愛で続けた。




「お久しぶりですね。シュニット王子」

「久しいな。マリスアン」

「まさか若き宰相様が自ら出向いて来るとは思いもしませんでした」


 妙齢の美女の微笑みに、彼はその表情を微塵も動かさない。

 共に出迎えに出た大臣たちの中には、その容姿に興奮を隠している者も居る。


 共和国の相談役。魔女と名高い彼女の美貌は近隣の諸国に鳴り響いている。


(ハーフレンに頼まなくて正解だったな)


 豊かな胸は弟の好みであろう。ただ少し足らないか?

 顔色一つ変えずにそう判断を下した彼は、それから世間話をしつつ出迎えの為に用意した馬車に彼女と共に乗った。


「それでマリスアン殿。此度のご用は?」

「はい。実は……北の方で国が一つ滅んだそうです」

「……ほう」


 シュニットは素直に唸った。


 それはまだ届いていない報告であった。

 自国が南方の小国であることを考えれば仕方のないことではあるが。


「しかし本当かどうかまだ確認が取れていないのですが、どうやらその国を滅ぼしたのはドラゴンと人であったとのことです」

「ドラゴンと?」

「はい」


 クスッと笑った魔女が若き宰相を見つめた。


「ドラゴンを使役しているのか、ドラゴンと共闘しているのか……どちらにしても面白くない話でしょう?」




(c) 甲斐八雲

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