柔らかい?

「早速あの2人に仕事を丸投げしてこれか?」

「仕方ないでしょ? 引っ越しも同時進行なんだから」


 何より丸投げではありません。修行です。

 計算の再確認なんて拷問は下っ端の見習いが延々とやり続けるものです。


 最近室内が多かったので外の空気が気持ち良い。


 自分で操る馬に跨りのんびりと目的地へ向かう。

 ようやく我が家の完成です。


 家具やら何やらは事前に搬入済みなので、今日は内覧をして来ようかと。

 で、場所から何からさっぱりなので、我が家の工事担当となっていたおにーちゃんを連れて来た。

 道案内よろ~って訳だ。


「ずいぶん遠いんだね」

「まあな。この辺は一応王都の範囲内だ。昔は王国軍の鍛錬などで使っていたらしいが……今はウルルメルの向こうにある門から、何か厄介な物が出て来た時に対して備える場所ってことになってる」

「何よそれ?」

「1000人とかは無理でも、気合を入れれば50人くらいは送れる訳だ。

 遥か昔に異なる世界から『ネクロマンサー』とか言う術者を呼び出して、門で敵国に送り付けたことがあってな……それ以来一応門に対してどの国も備えているって訳だ」


 どんなテロですかそれ?

 確かにそんな人を召喚して来たら……考えるだけでも厄介すぎる。


「折角こんな場所に屋敷を作るんだから一石二鳥と言うことでな……ほらあれがお前の屋敷だ」

「……」


 はて? 何処に屋敷が?


 僕の目に見えるのは石造りの大きな砦と言うか要塞と言うか……そんな物しか目に入らないのです。

 何処をどう探してもそれ以外見えません。木々を背景に……砦がドーンって感じだ。


「建て直しを求めるっ!」

「馬鹿だな? 外見ばかり気にする男はモテないぞ?」

「胸の大きさばかり気にする男に言われたかない!」

「大きな胸は男の夢だ。まだまだ幼いお前には分かるまい」


 美乳派な僕にはたぶん一生理解出来ませんからっ!


「見た目砦じゃん」

「違うぞアルグ。砦の機能を持った屋敷だ。これは砦ではない」

「いや砦だから。どう見ても砦だからね?」

「だから外見など気にするな。どうせ屋敷なんて中身が確りしてりゃ~良いんだよ」

「そうなの?」

「お前……普段の休みに何をしてる?」


 そんなの決まっている。

 朝からノイエと一緒に甘え甘えられを繰り返して……気が向いたら2人で城下にお買い物。

 戻ってからは中庭で甘え甘えられを繰り返して……湯浴びしてご飯して一緒のベッドでご就寝だ。


 ハタと気づいた。屋敷の形なんて全く関係無い。


「重要なのは……ベッドと庭の椅子だった」

「ベッドに関しては否定しないが、庭の椅子は知らんぞ。それは自費で買え」


 つまり次の休みにノイエと家具屋さん回りが確定したってことか。


「ベッドはどうなの?」

「今使っているあれを分解して輸送するぞ?」

「ん? 持ってって良いの?」


 あのベッドは大きいし凄く寝心地が良かったから出来たら同じ物を探す気で居たけど。


「あれは唯一のノイエの私物だ。ノイエが要らないと言ってるならあのまま置いとくが?」

「そんな事実をまず知らないし」


 物欲に全く興味を示さないノイエの唯一の私物がベッドって。


「前のベッドとは相性が悪かったらしくてな……フレアに案内させて選んだのがあれらしい。大きいのもあるが、職人が心血を注いで作った一品物の最高級品を即金で買ったんだよな」

「まあノイエの稼ぎはね」


 日々結構真面目に働いている僕の何十倍もの稼ぎだしね。


 退治したドラゴン1匹に付き、売り上げの3割がノイエの収入になる。

 割合的には意外と少ない気もするが……ノイエの場合数をこなすのでそれぐらいがちょうど良い。


 あまり稼ぎ過ぎると周りの貴族とかが物凄く騒ぐって宰相なお兄ちゃんも言ってたしね。

 でも7割は国に収められると言うことは……まあ偽善だけじゃ国家運営は出来ないのかな。


「あっ忘れてた。国庫に預けてあるノイエのお金……全部こっちに移すからね?」

「まあ仕方ないよな。それが普通な訳だし……何かあった時の緊急財源が無くなるのは痛いが」


 こらこら。うちの嫁さんの預金を勝手に財源にするなって。




 それから2人で屋敷の中外を見て回って……細部の確認をする。

 ちょっと手直しして欲しい箇所があったので実費で追加注文を発注した。

 現在のドラグナイト家の財政は、この国の貴族の中でも上位だから……追加工事くらい訳も無い。


 それと伝声菅は無事に機能してくれた。


 これでプライベートは確保されたのである!

 でもノイエとその~……ちゃんと出来るのかな?




「そんな訳でノイエ」

「はい」

「今度のお休みに新しい屋敷に引っ越しします」

「はい」

「詳しく言うとノイエの休みの前日に引っ越しを始めて、その日の夜から新しい屋敷です」

「はい」

「……理解してる?」

「はい」


 まあアホ毛が反応して無いから大丈夫でしょう。


 いつも通りのベッドの上だ。

 向き合う様に夫婦の会話が終わったので、この後は頭ナデナデか膝枕かだ。


 ノイエが動いたからどっちかと身構えたら……何故か真っ直ぐ来たよ!

 ちょぉ~っ! なぜ胸を押し付けるのですか君は!


「アルグ様?」

「ふぁいっ!」

「どうしてここが触れるとそんな顔をするの?」


 確認するために僕に自分の胸を押し付けたの? 嬉しいんですが喜び死んじゃうよ!


「ほら……えっと……柔らかくて柔らかいから、ね!」

「柔らかい?」

「うん。すっごく柔らかいかな」


 でも自己主張が物凄いんです。どんなイジメですか!

『柔らかい?』などと呟き自分の胸に触れるノイエは……しばらくすると飽きたのか、僕に膝枕をしてくれた。


 えっと……完全に弄ばれただけなのかな?




(c) 甲斐八雲

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