イケメンさん?

 さあ……どうやら僕の全力を見せる時が来たらしい。


 大波乱の祝辞タイムを終えて僕らは謁見の間を出た。


 本日はここまで。後は本番の明日を待つばかり。

 一応王家主催の食事会が夕方から執り行われるけど、そこは王国の貴族たちが出張って来て各国の大使やら代表やらと軽く飲みながらお喋りをって感じ。


 今夜の僕らは明日に備えてさっさとお休み。の……はずだったんだけどね。


 後ろに引っ込むと同時にメイドさんが飛んで来た。


「アルグスタ様……その……」

「分かってる。どこに行けば良いの?」

「はい。陛下の執務室へご案内するようにと」

「分かった」

「それとノイエ様は連れて来るなと」


 僕から最大の武器兼盾を奪う気か!

 ただやらかしたのは間違いないから……全面降伏の道しかない。


「ノイエ。先に戻ってて」

「……」


 やっぱりノイエは優しいや。僕の手を掴んで離さない。

 これで人殺しだなんて信じられない。たぶん何かの間違いだ。

 決めた。僕だけでもそう思いそう信じよう。


「大丈夫。ちょっと行って直ぐに戻るから」

「……はい」

「戻ったら膝枕して。代わりに頭を撫でるから」

「はい」


 アホ毛をフリフリさせてノイエが去って行った。


 落ち込んでいても仕方ない。覚悟を決めて行くか。

 なに……殺されたりしないだろう。




「本当に申し訳ございませんでしたっ!」


 執務室に入るなり筋肉王子が剣を抜くとかマジ無いわっ!

 屈したんじゃないから……その脅しに屈した訳じゃ無いんだからね!


 机に肘をついて重々しい空気を纏った国王様が、ゆっくりと立ち上がった。


 ゆったりと歩いて近づいて来ると、バンバンと肩を叩いた。

 いたた。痛い。ちょっと手加減をっ


「痛いってっ!」

「これぐらいの罰なら軽かろう。まったくこの馬鹿者が」

「……本当にごめんなさい」

「何を考えてあの二人にあんな態度を取った?」


 何を考えてって……反射的に?


「将軍はただノイエを笑い者にしようとしてイラッとして。財務大臣の方はノイエの秘密を暴露されてブチッと来て」

「何だ。全部ノイエか?」

「はい」

「自分のことを馬鹿にされたことは?」

「そんなのはどうでも良いです。僕が許せなかったのはノイエのことだけです」


 って僕のことを馬鹿にされるような部分とかありました?


 くははははと笑った国王様は、またバンバン肩を叩いて椅子に戻った。


「夫として妻を護ることは大切なことだ。その心意気を示したことは来賓の者たちにも通じておった。

 だからまあ……今回の件は二人ともが『冗談』と申していたので不問に付す。良いな?」

「ありがとうございます」


 全力のお辞儀です。

 国王様……自分しばらく貴方について行きますっ!

 チッとか言って剣を鞘に納めた馬鹿兄貴だけは絶対に許さん。


「しかし父上? ノイエの過去が他国に伝え漏れている原因を突き止めなければ」

「シュニットの申す通りだな。誰か心当たりは?」

「あの場所を制圧したのは先代の近衛団長が指揮する近衛だ。

 たぶん現役を退いた者の中で、金に困った者を見つけて小銭を握らせたって所でしょう」

「そうなると厄介だぞ? ハーフレン」

「……俺は先代の団長が怪しいと睨んでます」

「根拠は?」

「あの人は腕は立つが酒と女に甘かった。退役した理由も確か女絡みだったでしょ?」

「その線で探るか」


 うんうんと頷いている国王様は何もしていない。まあそれは良い。

 で、もう一人ソファーに座って居らっしゃるこのイケメン金髪さんは誰ですか?

 ハリウッドの映画スターとか世界的なモデルでもそうそう居ないレベルのカッコ良さ。


「馬鹿なおにーちゃんよ」

「何だ? 馬鹿すぎる弟よ」

「あの人、誰?」

「だってよ。兄貴」


 兄貴? 兄貴と言いましたか?


「直接会うのはこれが初めてか……宰相のシュニットだ」


 軽い会釈がとても絵になる。

 三歩下がって二人の兄を視界に収める。間違いない。


「国王陛下」

「どうした?」

「たぶんどっちかが貴方の息子ではありません。僕的にはこっちだと思いますが」

「ちょっと待て。何故兄貴を指さす?」

「だってあんたら二人そっくりじゃん。女の尻ばっかり追ってるし!」

「尻派は親父だ。俺は胸だ」

「尻は良いぞ~」


 ほら確定だ。


「あはは。確かに俺とハーフレンは似ていないと言われるな。俺は母親に似てハーフレンは父親似だ」

「納得しました」

「即答かよ!」


 黙れ変態親子。僕まで仲間だと思われたくない。


「話を戻す。情報の流出は防ぎようが無い。今後考えられるのはアルグスタの秘密だ」

「そっか。そんなのもありましたね」

「お前忘れてたのか?」

「はい。あっちの記憶も悪く無いんですけど、こっちにはノイエが居るんで。それと比べると向こうの思い出なんて屁でも無いと言うか」

「本当に心底惚れてるんだな」


 だから褒めるなよ。そろそろ本気で照れちゃうぜ?


「仲睦まじいことは良いことだ。さて父上……アルグスタの秘密をどうします?」

「うむ。それよりアルグスタよ」

「はい?」

「一族のこと……誰に聞いた?」


 そんなの決まってます。


「この人です」

「即答かよっ!」

「ハーフレン?」

「……アルグが病気の母親に会いに行くとか言い出したから、ついな」

「そうか」


 口を閉じた国王が……しばらくして息を吐いた。


「お前に謝っても仕方ないが、申し訳ないことばかりして来た」

「いえ。結局他人事なんで」


 僕の本当の肉親は、二人とも亡くなってるしね。

 それもあって向こうの世界に未練が無いのかな。


「そう言って貰えると助かる」

「いえいえ。ただアルグスタが口約束した婚約者の件……どうかその~」

「分かった。それはこちらの責任として必ず対処する。案ずるな」


 マジ国王様良い人。女好きだけど。


「まあアルグスタの秘密は暴露された時に考えれば良かろう。でだ……ドラグナイト家当主よ?」

「はい?」


 あれ? 国王様の雰囲気が変わった?


「お祝いとして、いささか多過ぎるくらいの金を集めたそうだな?」

「そこで臨時に税を課すことにする」


 敵は国王様と宰相様ですか……僕も家を預かる身として譲れませんね!




 結果……帝国から来るお祝いの品全部で折り合った。




(c) 甲斐八雲

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