不穏な動き

 ノイエ成分を大量補充した今日の僕は超元気です!


 膝枕してくれた彼女の肌着が普段より丈が短くて、胸の下の部分がチラチラと見える訳です。

 あれこそ究極のチラリズムです。お蔭で今朝からテンションMax!

 気を利かせてくれたメイドさんありがとう! あとでお菓子を差し入れだっ!


「アルグ様」

「ん? なに?」

「……」


 軽く体を振って衣装の出来栄えを見せて来る。

 本日最初のドレスはある意味派手だ。レースで作られた花の飾りとかがふんだんに付けられている。


 こんな出来で既製価格なの? 後で追加料金とか来たら泣くよ?

 お祝いのお蔭で、ドラグナイト家の金庫は潤沢なまでに潤うけど。


 それでもやっぱりドレス姿のノイエは綺麗だ。


「綺麗だよ」

「……」

「でも」

「?」

「鎧姿のノイエも好きだな」

「……はい」


 頭のヴェールが気持ち動いた? 今日のアホ毛も絶好調?


 二人で他愛もない会話をしつつ暇を潰す。


 この後は仮設された野外の結婚会場で、長い長いバージンロードを歩いてお披露目。

 檀上にて国王様の前で永遠の愛を誓って、誓いのキス。

 僕の『ノイエしか娶りません』の宣言。

 もう一度バージンロードを通って馬車に乗って城下を一周。

 会場に戻って来て来賓のお客様たちのお見送り。


 そんな感じ。


「どうしたの?」

「ドラゴン」

「落ち着いてねノイエ。ドレス汚れちゃうから」


 そういう問題じゃ無いと分かっているけど、その言葉が一番効果的なんだ。

 お店の人が寝る間も惜しんで作ってくれたドレスを彼女は大切にしている。だから汚す様な行為は出来ない。


「それにドラゴンは兵士たちが頑張って追い払ってくれるからね」

「……はい」


 返事に元気がない。


「……明日きっといっぱい居るからたくさん狩れるよ?」

「はい」


 あっさりと元気が戻った。


 それにしても……ノイエ小隊の人たちは、無事にやってるのかな?




「ミシュ! 泡吹いて気絶してる振りしても許しませんっ! そのまま立って食われてでも時間を稼いでくださいっ!」

「無理~っ! 何でどうして夜間活動するドラゴンとか来たの? ねぇ? 誰の日頃の行いが悪かったのか私に言ってみてっ!」

「「貴女(よ!)(です!)(だ!)」」


 異口同音の罵声が響き渡る。




 無事にバージンロードを歩き終え、壇上で永久の愛を誓う。


 ヤバい。前より遥かに数が多い。足が竦むって!


 フルフル震えながらノイエのヴェールを捲りその顔を晒す。

 彼女の視線がチラチラとドラゴンを追っている。


「ノイエ。我慢」

「……」

「……キスするから、ね」

「はい」


 そっと顔を寄せると、最近の彼女は目を閉じてくれるようになった。




「あは~。ルッテ~。私この仕事が終わったら、結婚して辞めるから宜しく~」

「あはは。馬鹿ですね先輩。相手が居ないと結婚とか出来ないんですよ?」

「居るから! ほらそこにっ! ただちょっと皆に見えないだけ~!」

「馬鹿言ってないで次が来るわよっ!」

「休ませろ馬鹿~」

「休ませてくださいよっ!」




「アルグスタ・フォン・ドラグナイトは今ここに誓う!

 自分はノイエ・フォン・ドラグナイトをただ一人の妻とし、今後彼女のみを愛することをっ!

 故に彼女以外に決して娶ることなどしない。それはこの誓いを侮辱する行為にしか他ならないからだっ!

 重ねて誓う! 彼女のみを愛するとっ!」


 女性たちから黄色い声が飛び、野郎たちから生暖かい拍手が飛ぶ。


 誓ってやったぜ! これで側室、妾攻撃は封殺したのである!




「あはは。蝶々……蝶々が見えます」

「確りしてルッテっ!」

「あはは。隊長の綺麗なドレス姿も見えます」

「……良いな隊長。きっと今頃ボーっとしてるんでしょうね」

「どうしたのミシュ? 大丈夫? 変な物食べた?」

「私が普通のことを言うと、狂った扱いとかおかしくないっ!」

「あっ先輩たち……次が来ました」




 馬車で一周とか本当にただの見世物だ。


 でも誰もがノイエの綺麗な姿に見とれて、そして有り難そうに祈って来る。

 それがドラゴンを退治する人に対する感謝の念だとしても構わない。これだけノイエを必要とする者が居てくれることが大切だ。

 だから良い。僕は自分の祝福を使わない。それで良いんだ。



『そんなに世の中は甘く無いわよ?』


 煩い黙れ消えて無くなれ。


『怖いわね。でも……どんな強い力も使う人次第だから』



 そんな言葉で囁いても無駄だ。僕は使わない。




 花嫁の衣装を変えていると言うことで最後の進行が遅れている。

 男は周りの様子を見ながら……黒いローブの中に隠す手で弄ぶそれを軽く握った。


 大陸屈指のドラゴンスレイヤーの力がどれほどの物か?


 クククと笑い、男は手にしていた物を握り潰した。




「あれ?」

「ついに来たのねっ! ルッテが生理よ~っ! 臭いほどの雌の匂いにドラゴンたちも大興奮っ! どんと来いドラゴンたちっ! この駄肉を震わせる愚かな女をバクッとどうぞ! そして私にはバコッとする相手を是非に!」

「違いますっ! 違うんですけど……これって?」


 ふと馬鹿なことを言う同僚を殴り飛ばし、フレアは嫌な気配を感じた。


「どうして? 何でですかっ! 何でこんな王都の中央に突然ドラゴンがっ!」


 光を宿していない黒く落ち窪んだ彼女の目に映るモノ……それは紛れもなく中型のドラゴンだった。

 そんな物がまるで湧き出る様に突然姿を現したのだ。結婚式会場の近くに。




(c) 甲斐八雲

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