膝枕

 目覚めた時の何とも言えない独特な感覚。

 意識が覚醒しても何となく目を開けるのが億劫で、わざと枕に頭を預けてグリグリとかしない?


 無駄な抵抗だと分かってるんだけどね。

 でも微睡まどろみを楽しむのってある意味贅沢だと思うんだけど……はて? 何か今日は枕が違うな。いつもより高い。

 手を伸ばして枕を撫でてみると、確定別の物だ。何より絶対に枕じゃない。


 目を開けるとノイエが覗き込んでいるパターンも確定だろうけど、ならこの滑らかな枕はもしかして……ガッと目を開けたら、いつもとは上下逆にノイエの顔があった。

 こっちを無表情な顔で見下ろしながら、一定の速度で動かし続けている右手から、そよそよと風が。


 お嫁さんの膝枕くらいで驚くと思ったかっ! 僕だって日々成長ぅぉおっ!


 豪快に彼女の大切な三角地帯に突っ込んでいた手を引き抜く。


『っん』とか言って体を震わせないで~っ! 思いもしないリアクションにビックリだよ!


 ガバッと起き上がると、彼女の手により強制的に元の位置へ。

 勝てっこないじゃん。相手は大陸屈指のドラゴンスレイヤーだし。


「アルグ様。大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。何かこう色々と元気っ!」

「良かった」

「……僕はどうなったの?」


 薄っすら残っている記憶だと……湯船に沈んで行くビジュアルが。


「……沈んだ」

「そっか」


 すっごく解りやすい解説だな。


 つまりその後メイドさんたちによってサルベージされて寝室に運ばれて来たのかな?

 うわ~。間違いなく全裸を見られた。恥ずかしい。


「一緒にと、言わなければ良かった?」

「ん?」

「アルグ様が沈んだ。一緒が悪い?」

「……違うよ。ノイエ」

「本当?」

「うん」


 いつも通りの無表情のはずなのに……どこか彼女か哀の雰囲気を感じる。

 気のせいじゃ無いのかな?


「ノイエと一緒に入って浮かれすぎただけ。もう少し早く出とけば良かったのにね」

「……」

「ノイエは悪く無いよ。もし良かったらまた一緒に入ろうね」

「……はい」


 へんにゃりと力を無くしていたアホ毛が少しだけ元気になった。


 どんな原理なんだろう?

 手を伸ばしてアホ毛を触ってみる。うん。ごく普通の毛髪だ。


「っん」

「痛かった?」

「違う。平気」


 結果として彼女の頭を撫でていた。サラサラの髪が心地良いな。

 もう少しだけ撫でても良いかな?


「…………っん」

「……」


 撫でているとノイエが吐息を発する。


 実はアホ毛は敏感な場所なのか! ……そんな訳無いよね。

 ずっと撫でているのも悪いので、手を降ろして彼女の足に頭を預ける。


 まだ少し体が重いけど動けるかな?


「ノイエ」

「はい」

「ご飯は?」

「まだ」


 だよね。僕なんてベッドに転がしておいて先に食べれば良いのに。

 膝枕とかどこで仕入れた知識なんだろう?


「メイドが教えてくれた。アルグ様がきっと喜ぶと」


 グッジョブだメイドさん。今度何か甘いお菓子でも差し入れしたい。


「これは嫌?」

「凄く良いよ。ノイエの顔が良く見えるしね」


 特におぱいでふっくらとした肌着越しの景色が良いです。最高です。魂に焼き付けます。


「さて。お腹空いた。ノイエ……ご飯に行こう」

「アルグ様。大丈夫?」

「平気平気」


 正直胃の中がグルグルしてて気持ち悪いけどね。


 でも僕が行かないと彼女は絶対に食事に行かない。

 あれだけの量を黙々と食べるってことは、たぶんノイエさんの消費カロリーは半端無いんだ。それか凄く燃費が悪いのか。少なくても空腹にさせておいて大丈夫じゃないはずだ。


 彼女の手を借りて僕らは食堂へと向かった。

 並んで歩く彼女の足取りが、どこか少しだけ軽そうだった。




「ふにゃぁぁあああ~」

「何か言うことはありますかね? この売れ残り」


 全力でモチモチの頬を引っ張ると、ミシュの目からボロボロと涙がこぼれた。


「違います。私は隊長の幸せを願って」

「今、正直に言ったら……罰はここまでで」

「結婚している人なんて皆不幸せになれば良いのです!」


 薄い胸を張って柱に縛り付けられた馬鹿を見る。

 うんうん。良く分かった……有罪だ。


「いやぁ~。何ですかそれは?」

「料理番の人から貰ったお芋。この白い部分が肌に付くとすっごく痒くなるんだって」

「って、目の下に擦り付けないで下さいっ! ……はぅ~。痒いっ! 痒いですっ!」


 ジタバタと暴れる彼女をそのまま放置。

 痒いけど美肌効果があるらしい。とにかく凄く痒いらしいけど。


 呆れた様子でこっちを見ていた兄と向かい合う様に座る。


「いい趣味してるな?」

「本当ならもっとキツイお仕置きがしたいくらいです」


 いつもいつもノイエに変なことを吹き込んで。

 可愛いから良いけど、一歩間違って僕以外の人にやったらどうするのさ!


「キツイお仕置きか……思い切って股裂きにでもするか? 馬を使って」

「いや~! 馬並みにならまだしも、馬なりで裂こうだなんてっ! この女の敵っ!」

「……意外と元気だな。さっきの芋をくれ。背中に塗ってやる」

「ひぇ~っ! 兄弟そろって人でなしですかっ!」

「王子の嫁をそそのかしているんだから、本来ならその首刎ねられても文句は言えんぞ?」

「……ドンと来て下さいっ! 実はちょっと気持ち良くなって来てる所ですっ!」


 呆れた兄が、芋を彼女の下着の中に放り込んだ。

 女性の大切な三角地帯に……この人は鬼だ。




(c) 甲斐八雲

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