ロリコン?
「本当に色々と厄介事を言い出しますね?」
「仕方なかろう? 俺はお前の教育係だ。ある意味先生として優秀だろう?」
「反面教師として最高の間違いですがね」
えっと確か机の上に……あったあった。羽ペンって実在するんだね。
「何で王子のままだとノイエさん以外の嫁を得るんですか?」
「簡単に言うと身分の差だな」
「身分?」
「お前は王子。ノイエは騎士。実はこの間には凄い壁が存在している。はい何でしょうか?」
知るか馬鹿。さっさと説明しろ。
何よりインクは何処ですか?
「答えろよ」
「思いつきません」
「馬鹿だな。答えは貴族だ」
「貴族?」
「ああ。貴族には下級、中級、上級と三つの地位がある。
王家の者が正室に出来るのは、最低でも下級貴族からなんだ」
「へ~」
あったあった。
なんで書類の下にインクの壺があるの? 全く仕事してない証拠だよね?
「ノイエは騎士だ。王子のお前では正室に出来ない」
「ん? それだと今のノイエさんは?」
「ただの嫁だな。貴族や将軍、他国の大使たちは……まあ良くて側室。大方は妾扱いだと思っているだろうな」
「嫌ですよ。僕はノイエさんを正室にします」
「だったら分家の当主になれ。王子の地位を捨てれば騎士でも正室に出来るからな」
「了解しました」
「迷うことなく実行できるお前がちょっと羨ましいな」
何で? お嫁さんって普通正室から決めるんじゃないの?
って目の前の馬鹿息子は妾さんが5人でしたね。
「俺も兄貴も結婚相手は選べる立場じゃ無いからな」
「そうなんですか?」
「ああ。兄貴なんて今年24だぞ。正室が幾つか知ってるか?」
「知りませんし、まだ会ったことも無いですし」
「お前の結婚式に居たぞ。俺の隣にな」
なら全く知らないです。あの日の僕は完全にいっぱいいっぱいでした。
えっと……まず申請者の名前を書けば良いのね。
「でだ。兄貴の正室は今年で12だ」
羽ペンを持つ手が止まった。
今、何歳と申しましたか?
「……そう言う趣味の人なんですか?」
「変態貴族みたいな性癖は無いな。政略結婚の都合だよ」
「だからってえっと……出来るんですか?」
「出来なくは無いな。それぐらいの少女を好む者も多い。でも王子ともなるとちょっとな」
「ですよね」
会っても居ない兄さんがロリコンとかだったら……うん。出来るだけ会わないようにしたいかも。
「ちなみに側室は11歳、10歳、8歳だ」
「そう言う趣味の人と思われてませんか?」
「嫌がらせにしか思えないだろ? でもこれが政略なんだ」
政略結婚と言うか、政略ロリコンにしか思えませんが?
「子供を作れる歳になると兄貴もそこそこの年齢だ。そしてその子が成長したら?
15の成人を迎えた頃には隠居間近だ。下手すれば死んでいるかもしれない。
そうなると後見と称して正室などは実家から有力な者を派遣させる訳だ。体の良い乗っ取りだな」
「うわ~。そんな話って本当にあるんですね」
「ゴロゴロと転がってるぞ? それがこの世界だ」
嫌だ嫌だ。僕は平穏無事に暮らしたいものです。
うっし。書けた書けた。
後はノイエと一応相談して、家名を決めれば問題無いな。
「……早いな」
「そうですか?」
「書類の山を丸投げできる弟が居て兄として嬉しい限りだ」
「もしもし?」
「王子を辞めても王族だから、お前のサインで全ての書類が受理できるしな。
これで俺もしばらく行けなかった地方巡視などに行けるってもんだ。さあ仕事するぞ~」
立ち上がって嬉しそうに両腕を振り回す姿が露骨に怪しい。
「本音は?」
「地方の領地を巡ってだな」
「ん!」
「……地方を巡って嫁探しだな」
「またお妾さんですか?」
「いや正室だ。有力貴族の娘から選ぶ予定だ」
「それは何故?」
ドスンと向こう側のソファーに乱暴に座り、ジッとこっちを見て来る。
男に見つめられる趣味は無いぞ?
「さっきの話の続きだ。兄貴は生涯子供を作る気はない」
「はい?」
「誰が相手でも子供を作れば問題が生じる。なら作らなければ良い」
「でもそれって?」
「ああ。正室や側室相手に寝ずにそうすれば問題になる。
なら寝てやっても出来なければ?」
それなら仕方がないかな?
だってやって出来なかったのは運不運だしね。
「でも確率は運任せですよね?」
「ああ。普通ならな」
「はい?」
「この世界には子種を殺す薬ぐらいあるんだ。それに手術をして斬るって手段もな」
「……」
「普段俺たちが悪ふざけして遊んでいる様に見えるが、それぐらいの覚悟でこの国を護ろうとしている。知っとけ」
「……はい」
日々の言動からじゃ想像も出来ない覚悟だ。
……あれ?
「でもそれって跡取りの長男さんの話ですよね?」
「ああ。俺は有力貴族の娘を正室にしてさっさと子作りだな。側室は適当な国の王族から迎え入れることになるだろうしな」
「つまり跡継ぎは貴方の息子からってことですか?」
「そう言うことだ。こんな化かし合いばかりで嫌になるけどな」
やれやれと肩を竦めて彼はまた立ち上がった。
「アルグ。お前はお前本来の仕事を確りとやれ。そうしてくれるだけでもこっちとしては案外助かる」
「知りませんよ。そんな都合なんて」
さてと……とりあえずこの書類の山を相手しますか。
「僕はただノイエさんと、ごく普通に暮らしたいだけですから」
(c) 甲斐八雲
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