姿が違う!?
「猛毒を煽ったお主の体に急ぎ禁忌とされていた蘇生魔法をかけた。肉体は見事に完治したが精神……魂は失われ戻らなかった。過去に蘇生した例は無いから肉体を完治させるのが主体であったがな。
そして一度犯した禁忌ならと言うことで、召喚術式で魂の召喚を行うこととなった」
「……」
服毒自殺から一気にファンタジー色が強くなって来た。
ちょっとドキドキしている僕が居る。興奮するよね?
「ただ『変な魂は呼べない。勿論肉体との相性も大切だ。何より時間がない』などの理由から、ありったけの魔力を注いで実行した結果……お前の魂がその体に入ったのだ」
「あ~。聞いても良いですか?」
「何だ?」
「僕が異なる世界の人だと分かった理由は?」
「うむ」
頷いてからしばらく返事が無かった。
『どうしたのかな?』と思っていると、国王が振り返り……申し訳なさそうに頭を掻いた。
「実は『この世界の男では、誰もあれと結婚したがらないのでは?』と言うことで、だったら他の世界の……それこそ『雌であれば何でも平気な者』を条件に加えたのだ」
カチンと来たよ。マジで。
「……誰の発案ですか?」
「第二王子だ。次男でお前の兄だな」
「僕の名義でその人に猛毒入りの飲み物を届けておいて下さい」
本当に失礼な。それじゃあ僕が何でもOKな飢えた狼か何かってことになる。
それも食欲では無くて性欲って意味の……まだキスもしたことの無い初心な少年に対して失礼極まりない。
「だからお前ならどんな相手でも大丈夫であろう? この国を救うために結婚しろ」
「……せめて相手と会わせて下さい。会っても居ない人とは流石に」
「うむ。それは当然だ。しかしその姿を見て怖気づいても拒否は許さん。最低でも結婚はしろ」
あれ? その言い方だと……違うのかな?
「あの~」
「何だ」
「結婚さえすれば後は好きにして良いってことですか?」
「うむ。そう言っている」
そんな政治家みたいな言い方されても分からないよ。
相手は国王だけど。僕王子だけど。
「もしかして……他に女性の人を?」
「許す。側室でも妾でも好きなだけ持てば良い。持てるならばな」
「だったら引き受ける人とか居そうだけどな?」
結婚さえすれば後は自由なんでしょ?
疑問符を掲げる僕に国王がため息交じりで口を開いた。
「それでも皆が断った。理由は……分かる訳無いか」
「分かりません」
「……彼女にはある許可が発行されている」
「許可ですか?」
まさかの"マーダーライセンス"ですか?
「うむ。ドラゴン退治の為なら国王すら殺害しても罪に問われないと言う免罪符だ。
それを利用されると儂ですら殺されてしまう」
もしかの大当たりですか?
「何でそんな許可を?」
「取得権益などの都合で、王族や貴族などが欲に走ることを封じるためだ」
「しゅとくけんえき?」
聞いたことあるような無いような。
「ドラゴンは……とにかく高く売れるのだ」
「はい?」
「その皮、肉、血、牙、骨。内臓……捨てる所が一つも無い。だから利益を求めて馬鹿をする者をけん制する意味で発行した。
結果として我々の首も締まってしまった」
「つまり彼女が浮気に腹を立ててズンバラリンと剣を振っても?」
「うむ。斬られても『ドラゴン退治の邪魔になるようなことをされた』と訴えれば罪にはならない」
確かにその条件だと、僕も引き受けることに二の足かな。
そもそも浮気して無くても気分次第で殺されちゃう心配がっ!
「また死ぬのは嫌なのでお断りしても良いですか?」
「お前の拒否は許されていない。諦めて結婚しろ。そうすれば彼女は王家に連なる者となる。後は……好きにやって殺されても文句は言わん」
「こっちが文句たらたらなんですけど!」
聞けば聞くほど悪い立場だ。
毒を飲んで死にたくなる……と、僕はようやくそれに気づいた。
まずジッと自分の手を見て、足を見て、色々触って……最後に顔を触る。
「お父様。鏡ってありますか?」
「銅鏡ならそこにあるぞ」
「お借りします」
立ち上がって調度品の中に並ぶ丸い物を手に取る。
銅板を磨いて作った鏡らしき物を覗き込むと、
「僕じゃない僕が居る!」
「……当たり前であろう? お前の魂だけを召喚したのだからな」
呆れた様子の国王の言葉に、僕は自分の体を色々と確認した。
引き抜いた髪の毛は金髪だ。顔の作りは西洋人だ。何より……ズボンを引っ張って覗き込んだ息子のサイズが、下着越しでも分かるくらいに大きい。
西洋の人ってやっぱり大きいんだ。
「今さら体が違うことに気づいたのか?」
「はい」
「大物なのか間抜けなのか……」
色々とあって確認とかしてなかったしね。
でもこうして体を得たってことは、僕はどうやら脱幽霊が出来たらしい。
本来の僕は……死んで幽霊になったのかな? 確認する方法が無いから別に良いけど。
「まあ細かいことは後でまた説明する。お前にはノイエと結婚して新しく分家の当主となって貰う」
「とうしゅ?」
「お主の一族を作れと言うことだ」
「その意味は?」
「……一部貴族たちがあれが王都に居ることを恐れている。
分家とは言え王族のお前に嫁げば、王族の決まりでその家族は王都に居なければならない。つまり彼女を王都から追い払うことは二度と出来ん。
やらせはせんよ……あの糞貴族どもめ」
国王様の私怨が垣間見えるのは気のせいでしょうか?
ジトッとした視線を向けたら国王が顔を背けた。やはり私怨が混ざってるっぽい。
「まああれだ。そうだ。確かノイエに会いたいと言っていたな。直ぐ手配しよう」
あははと笑って部屋の外に声を掛ける国王様。
……物凄く誤魔化された感じがする。
(c) 甲斐八雲
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