第8話

       8


(くそっ! クウガと戦う羽目になるなんて。勝てる気がしない。でも勝たなきゃアキナが殺される!)

 焦りながらも蓮は、両手を龍爪掌に組んで左前の姿勢で構えた。ぬるぬると接近してくるクウガに全神経を集中させる。

 次の瞬間、クウガの真正面に黒球が出現。引力を受けた蓮はすぐさま前のめりになった。クウガの右ストレートが顔面に飛んでくる。

 予期していた蓮は、無理矢理に頭を逸らした。しかし避けきれず、拳の端が耳の上部に当たった。

 体勢を崩されつつも蓮は、白神龍ホワイトドラゴンを纏った右の龍爪掌で顔を狙う。

 渾身の張り手を、クウガはスウェー頭部を引く動きで難なく回避。間髪を入れずに右アッパーを振るった。

 蓮はくるりと反転。拳がわずかに顎を掠めるが構わず大股で二歩引いた。即座にクウガに歩み寄り左手を突き込む。八卦掌の技術の一つ、上下換掌じょうげかんしょうである。

 白神龍ホワイトドラゴンの加護を得た反撃だったが、クウガのヘッドスリップに空を切る。

 すぐさま右フックを撃ってくるが、見切った蓮は左脚を前に滑らせて身体を低くした。何とか避けてクウガの懐に入り、力一杯身体をぶち当てる。

 蓮の当て身は綺麗に入り、クウガは数歩後退していった。

超念武サイコヴェイラーを身につけて二週間そこらで俺の動きに従いてくるか。資質があると認めざるを得んな。だが」

 剣呑な調子の台詞の直後、クウガの右前に黒球が現れ、クウガはそこへストレートを放った。直後、蓮の腹部に特大の打撃が加わった。

(がはっ!)予想外の攻撃により、蓮は肺の中の空気を全て吐き出させられた。身体の制御を失い、クウガのいる前方へと飛ばされる。

 黒球を消したクウガは、寄ってくる蓮の顎を目掛けてアッパーを撃った。蓮はとっさに両手で顎を覆った。クウガの右拳が左手に当たるも、運良く白神龍ホワイトドラゴンを帯びていた。

 クウガの攻撃を受け止めて、蓮はクウガから逃れた。五歩ほど行ってから、素早く向き直り構えを取る。クウガは再び、隙の皆無なファイティング・ポーズを取っていた。

「わかったよ蓮くん! クウガの能力は引力と斥力だけじゃあないんだ! おそらくだけど、黒球に当てた攻撃を、白球にワープさせられるんだよ! 二週間前の水無瀬葵依とさっきの私も、きっとその力でやったんだよ!」

 未だ苦しげな面持ちのアキナから、必死な調子の忠告が来た。

 クウガはアキナにちらりと視線を向けた後、感心したような顔になった。

(奥の手を味方にも伏せてたのかよ)クウガの策士ぶりに蓮は驚愕する。

「単純な能力の強さだけなら、俺はアキナに劣っているだろう。だが力の活用という点では、俺はアキナどころか大半の神人を凌駕している。そんな俺に楯突こうというなら、それ相応の覚悟をしてもらわないとな」

 刺すような口調でクウガは言い放った。クウガの醸し出す並々ならぬ圧力に、蓮は気圧されまいと気を奮い立たせていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る