第3話 入番試験

「この辺りのはずなのだが」


 江戸城の御膝元、外濠そとぼりの内側に広がる武家地を行く剣華はぼそりと呟き、立ち止まった。初夏の暖かい朝、額にうっすら浮かんだ汗を拭いつつ、周囲を見渡してみる。

 五尺(約1メートル51センチ)ほどしかない小柄な身体は、大きな武家屋敷が立ち並ぶ中にあって、どこか頼りなげである。また身なりも昨晩とは打って変わり、浪人風の貧相なもので、長旅をともに経てきた麻の着物は色あせてよれてしまっていた。

 目的地はもうすぐそこのはずだ。そう思い始めてから、すでに半刻(30分)ほどが経過していた。だが、一向に辿り着かない。

有体に言えば、剣華は道に迷っていた。

 武家屋敷の多くが番方、すなわち幕府直属の武官のものであることから、『番町』と名付けられたこの一帯は「問はぬは恥ぞ番町の道」と川柳に謳われるほど複雑に入り組み、さながら迷路の様相を呈していた。その上、各屋敷には表札すら付いていないのであるから、初めて江戸を訪れた剣華が道に迷うのも無理はないだろう。

 それでも誰かに道を聞こうとしないのは、少々意固地な性格だからである。


「む、もしかして、ここか?」


 ようやくにして、ある屋敷の前で立ち止まった。

 規模自体は決して他と見劣りしないが、随分と簡素な武家屋敷であった。どの屋敷も漆や金箔を施した豪華な門を構えている中にあって、かえって浮いて見える。


「頼もう、頼もう」


 剣華は通用門を叩いた。


「天雲剣華様ですね」


 いきなり背後から声をかけられて、剣華は咄嗟に振り返った。反射的に手を柄にかけている。


「そんなに驚かれなくとも結構ですよ。わたしはこの屋敷に仕える下男ですから」


 猫背で痩せぎすの中年男が茫洋と立っていた。顔に底意のない笑みを浮かべ、殺気は感じられない。


「相違ない。おれが剣華だ。……しかし、いつの間に後ろに?」


 剣華の問いに、男は飄々として、


「ははは、そんなことよりも、お待ちですよ」


 誰が、とは言わなかった。質問を無視されたことで不満そうに唇を締める剣華の脇を抜け、下男はさっさと通用門から中へ入る。仕方なく、剣華もすぐ後を追った。質素な庭園を伸びる石畳を行く。

 なぜか屋敷の方へは向かわず、剣華が連れて行かれたのは道場であった。

 広々とした道場の中央。そこに、齢十五、六くらいの、道着を着た美しい女人が瞼を閉じて座っていた。


「これは何のつもりだ?」

「中に入ればお分かりになりますよ」


 曖昧な受け答えに対し怪訝に顔をしかめながらも、剣華は言われた通り敷居を跨いで道場に足を踏み入れる。

 空気が変わった。

 冬の早朝のように空気が凛と引き締まっていた。単に道場そのものが神聖な雰囲気に満ちている、というだけではない。目の前に正座する女人自身が、神仏のような研ぎ澄まされた霊気を放っているのである。


「御休息御庭ノ者が一人、常盤にございます」


 凛とした声が響いた。いつの間にか女人が瞼を開け、深みのある黒い瞳で真っ直ぐと剣華を見つめていた。


(彼女が、御庭ノ者か……)


 御休息御庭ノ者は、大奥の雑役や警固に就く者とされてはいるが、それはただの表向きの職務であって、実態は大きく異なる。幕府が定める武芸段級位制において、七段以上の者しか所属することが許されない江戸最強の武芸者集団にして、将軍の密命の元に動く隠密部隊、それが御休息御庭ノ者――通称、御庭番であった。

 剣華は力強く言った。


「天雲剣華だ。おれもこれから御庭番に属することになる。よろしく願いたい」

「そうでございますか」


 常盤と名乗る女人は感情薄く小さく呟いて、


「ですが、試験はまだ終わってはおりませぬ」

「……?」


 眉をひそめる剣華の前で、常盤は立ち上がった。

 その瞬間、剣華は突風が駆け抜けたような闘気の波動に、思わず圧倒されそうになった。

 剣華は身構えた。


(これほどの闘気……そうとうな使い手に違いない)


 五尺一寸(約1メートル55センチ)と、剣華よりもやや背の高い常盤は、なぜか腰に計六本もの刀を差していた。両腕を交差するようにして、そのうちの二本を抜く。


「僭越ながら、参ります」


 状況を呑み込むことができず戸惑う剣華へ、常盤は問答無用で迫った。剣華は咄嗟に剣を抜き、迎え撃つ。

 とても片手で放ったとは思えぬ速さの、袈裟懸けに斬り降ろされた右手の一刀。剣華は瞬時に右足を引いて下がり、切っ先に空を切らせた。相手の刀が一本ならば、この時点で勝負ありであったであろう。無防備になった身体へ、こちらの太刀を浴びせれば良い。だが、相手は二刀流。残る左手の一刀が、瞬息の刺撃を繰り出してくる。

 左肩を掠められながらも、剣華は二撃目をもかわしていた。回避の勢いそのままに身体を旋回させて遠心の力を加えると、鋭い刃鳴りを上げる必殺の斬撃を相手の左肩へと繰り出す。

 強烈な金音が響き、空気を震わせた。

 剣華の剣撃は、いつの間にか防御に回っていた常盤の右手の刀に止められていた。刀を弾き、両者いったん距離を置く。


「この太刀は、一応、業物であったのでございますが」


 感心したように呟く常盤の視線は、右手が握る刀の刀身へと向けられていた。僅かであるが、真新しい疵が付いている。


「その刀は……」


 常盤の視線が剣華の持つ剣へと移動した。剣華はその直刀を僅かに掲げて、


「これは特別な剣だ。その辺の業物ごときでは、斬撃を凌ぐことすらできぬ」


 それは〝天剣〟と言った。

 因幡國の天雲一族の男児は皆、この天剣を胸に抱えて母胎から生まれてくる。剣はほとんど肉体の一部に近く、持ち主とともに成長し、持ち主とともに死ぬ。

 なぜこのような不可思議な現象が起こるのかは分からないが、彼らの里には一族が安徳天皇の血を継いでいるという伝承があった。

 かつて源平の乱の頃、平家一門が壇ノ浦の戦いにて滅びた際に、数え八つであった安徳天皇は三種の神器の一つである天叢雲剣を抱え、瀬戸内海に沈んだ。そのとき、剣が安徳天皇の身体と同化、身体が海中より浮かび上がって難を逃れた天皇は、さらに落ち延びて因幡國へと至った。その子孫が天雲一族であり、天剣は天叢雲剣の分身であるというのである。

 無論、これはただの伝説ではあるが、事実この剣は、数ある妖刀、宝刀に負けない神秘の力を有していた。


「戦うというのなら、おれは容赦せぬぞ」


 剣華は目元に険をつくり、常盤を睨みつけた。勝気で強気、そして今の言葉通り、白刃を向けてくるものや悪人には容赦のない性質なのである。


「望むところにございます」


 顔色一つ変えずに淡々と応じ、常盤は二本の刀を隙なく構えた。「はぁっ」と裂帛の気合いを迸らせ駿馬のごとく駆け出すと、四間(約7・3メートル)近くあった彼我の距離が一息で詰まる。

 二刀が二条の光となって閃いた。

 先ほどよりなお速い斬撃であった。常人ならばそれはただの閃光にしか見えなかっただろうが、剣華にはその電光のごとき剣筋が見えていた。しかし、だからこそ咄嗟に跳び下がって間合いの外へと退避するしかなかった。


(間合いに入られると危険だ)


 あれほどの速さと強さで打ち込まれては、体捌きでかわすことは容易ではない。かと言って一つの太刀を一本しかない剣で受け止めてしまっては、次の太刀を防ぐ手立てが無くなってしまう。

 獲物を狙う獣のごとく追いすがって来る常盤から、剣華は必死に距離を取る。幾つかの剣閃が頬や腕を掠って赤い筋が入った。


「逃げてばかりでは、勝負になりませぬ」

「ぬかせ」


 天剣が光を放った。

 天剣神術第参式――『変幻へんげん

 防戦から一転、剣華は右足を大胆に踏み込んで間合いを詰めると、左から右へ払い斬り。しかし、それほどの速さは無かった。常盤が右の太刀で悠々とそれを受け止める。そのときにはもう彼女は左の太刀を振り上げて、次の攻撃へと動いていた。

 常盤の顔に初めて驚きの色が生じた。

 剣華の剣。真っ直ぐ伸びる直刀のそれが、常盤の太刀とぶつかったその場所でいきなり折れ曲がっていた。剣尖が、彼女の頸部へと迫る。

 首皮一枚斬り落とされながらも、常盤は辛くも身を翻してそれを回避した。


「今のは……?」


 驚く常盤に、剣華は隠すこと無く明かした。


「天剣神術だ」


 天剣神術――それこそが、天剣が持つ神秘の力。

 血を通じて伝わる天剣とともに、計八式の術が天雲一族に受け継がれていた。


「これはその第参式『変幻』。容赦はせぬと言った。本気で参る」


 今度は剣華が先攻する。

 主の意志に応じて自在に伸び、湾曲する。それが参式『変幻』。

 剣華が内心で命ずるがまま、刀身が一気に伸長。もはや剣とは思えない、まさに変幻自在なな動きで虚空を駆け抜けた。

 常盤はその出鱈目に奔る剣先を見極め、右の太刀で叩き落とした。だが、落下する剣先は即座に鋭角に跳ね上がり、再び常盤へと来襲する。それでも常盤は冷静に、今度は左の太刀でそれを跳ね返してみせた。

 参式『変幻』の自在な動きは先を読み辛く厄介であるが、速さが無いことが弱点であった。

 常盤も即座にそう看破したが、しかし直後に天剣が見せた動きに驚嘆する。

 剣華が思いきり腕を振ると、それを受けて剣が鞭のごとくしなり、剣先が凄まじい速さへと到達した。唸りを上げて空気を切り裂くそれを避けることなどできず、常盤は反射的に二本の太刀を交差して頭部を護った。

 美しい破砕音が鳴った。

 業物の太刀一本が真っ二つに折れ、切っ先が飛んで板張りの床に突き刺さる。

 さらに天剣は、もう一本の太刀を刀身の中程まで切り裂いていた。

 だが常盤はそれに動ずることはなかった。それどころか、二本の太刀を捨てて別の二本を抜き放つと、一足飛びに剣華へと肉薄する。

 峻烈な刀氣が、二本の刀から迸った。二つの斬撃が斜め十字の閃光となって、剣華へと迫る。

 その刹那、天剣が再び発光する。瞬時にその性状を変貌させ、剣華の身体を護る絶対の防御壁と化した。

 天剣神術第よん式――『甲羅』

 激突の瞬間、火花が炸裂した。

 盾状に変わった天剣で身を護り、剣華は無傷。しかしその衝撃を抑え切ることはできず、足裏で床板を擦りながら三間ほども後退した。


(何という威力だっ)


 思わず驚嘆する剣華であったが、一瞬の隙も許さぬ相手と自らを戒め、即座に次の一手をへと移る。


 三度みたび天剣を煌めかせ、参式『変幻』へと変更、大技を繰り出した。

 参式ノ極技――『くちなわ

 鋭い白刃が伸び、不規則な左右への蛇行を見せながら常盤へと迫る。

 それを打ち破らんとした常盤の両の太刀が、蛇の牙を前に呆気なく粉砕した。今度こそ勝負あり――とはならなかった。

 常盤は咄嗟に残る刀二本の内の一本を抜いた。その瞬間、辺りに不気味な妖気が漂ったのを、剣華の鋭い感覚は見逃さなかった。


「おらあぁぁっ!」


 常盤が鬼気迫る雄叫びを吐き出しながら、下段からその妖しい刀を豪快に振り上げた。

 剣華は我が目を疑う。

 激音が耳をつんざき、天剣の剣先が弾き飛ばされていた。


「お、おれの極技がこうも簡単に破られるなど……」


 唖然として呟く剣華の視線の先で、天井にぶつかった『蛇』が木屑を盛大に散らす。


「はははははっ、面白れぇ面白れぇぞ! 久方ぶりに胸が躍る! もっと、もっとだ! 俺をもっともっと楽しませてみろ!」


 いつの間にか常盤の性格が豹変していた。形相もまるで夜叉のごとく成り代わり、大声で狂喜して剣華を煽り立てている。

 恐らく原因はあの刀――妖刀であろう。そうと分かりつつも、剣華は相手の挑発に湧き上がる対抗心を抑え切ることができなかった。やや荒くなった息を落ちつけつつ、不敵に言い放つ。


「良いだろう。要望通り、十二分に楽しませてや――」

「それはなりませんよ。なぜなら」


 剣華の言葉を遮って、そんな声が割り込んできた。声の主は、先ほど剣華を道場まで連れて来た下男――


「試験は終了ぢゃ」


 ――ではなく、黒装束に身を包んだ老人であった。剣華の目の前で、一瞬にして中年の下男から老人へと変身したのである。そのあまりの早業に剣華は目を丸くし、


「忍者だったのか」

「いかにも」


 目尻に深い皺を寄せ、老人は満足そうに笑う。髪は見事なほどにすべて白髪で、還暦はとうに過ぎていると思えるが、先ほどまでの猫背とは違い、背筋はぴんとしていかにもかくしゃくとしている。


「このまま続けると、お互いただでは済まんぢゃろう。今日のところはそこまでする必要などない」

「こら冗談じゃねぇぞ! せっかく良いとこなんだ、邪魔するんじゃねぇよ!」

「むぅ。やはり鬼切丸を手にした常盤は困ったものぢゃのう。まぁ、最悪の妖刀と言われ、普通の者が持てば完全に我を忘れ、会話も成り立たぬ野獣と化すそれを、そこまで抑え込んでおるのぢゃから、これでも良しとせねばならんか」


 声を荒げる常盤に、老人は嘆息しつつ呟く。


「戦いの機会はまたいくらでもある。もしこの場で続けると言うのなら、儂が相手になろう」

「貴様は奇策ばかりでつまんねぇんだよ!」

「そりゃあ忍者ぢゃからのう」


 かっかっかと老人が笑う。そう返されて、常盤は諦めたように舌打ちし、


「くそっ、興ざめだ」


 そして刀を鞘に収めた。その瞬間、立ち込めていた妖気が収まり、まるで独り芝居でもしているかのように、彼女の性格ががらりと戻る。


「申し訳ございません。また我を忘れてしまいまして」

「良い良い。いつものことぢゃ」


 頭を下げて謝罪する常盤を、老人は軽く許して、


「その引き締まったお尻を、少々撫で撫でさせてくれるだけで許してやろうぞ」


 常盤が再び鬼切丸を抜いた。


「たたっ斬るぞ、この助平じじい」

「じょ、冗談、冗談ぢゃ……け、剣を収めよ」

「失礼いたしました」

「う、うむ……」


 常盤が刀を収めて元に戻ったところで、老人は剣華の方を向いた。


「さて。多少の騒ぎはあったが、これでお主は晴れて合格ぢゃ」

「どういうことだ」


 剣華も剣を鞘に収めつつ問う。


「現役の御庭ノ者と手合わせし、志望者の実力を立会人が認める。これが御庭番に入番するための最終試験ぢゃよ。今回の立会人は、この儂、御休息御庭ノ者が一人、服部保長が務めさせていただいたわい」

「……先日、武芸方の役人に、昨晩のあれが最終試験と言われたのだが」


 武芸方とは武芸者たちを管理する役所のことで、武芸段級位制もここの担当であった。睨むように剣華が問い詰めると、保長はまた大きく笑って、


「あれも一応、最終試験の一環みたいなものぢゃよ」

「一応とは何だ、一応とは」

「まぁ、本音を言うとぢゃな、ただあれは、儂がお主の女装を見てみたかっただけなのぢゃ」

「な……」

「ちなみに、それでは一応とは言え試験にならぬから、事前に密告しておいたわ」

「あれは貴様のせいか!」

「それにしても、思っていた通りの美しさぢゃった。男にしておくのが惜しい位にのう。この歳にして、儂は特殊な衆道(男色)に目覚めてしまいそうぢゃ、はぁはぁ」

「申し訳ございません、剣華様。保長様は助平なのでございます」


 剣華の顔が引き攣ったのを見て、横から常盤が呆れたように口を挟む。


「そうぢゃ、常盤にも見せてやろうぞ」


 そんなことを呟きつつ、保長が着物の懐から一枚の紙片を取り出した。

 そこには昨晩の、女装した剣華の姿が写っていた。


「絡繰身写し! いつの間に撮ったのだ!」


 絡繰身写しとは、目の前の光景をそのまま紙に写すことのできる不思議な絡繰のことである。以前は白黒であったが、最近は数色の色が付くようにもなっていた。


「ほれ、常盤。女子にしか見えんぢゃろう?」

「本当でございますね」

「おいこら、やめろ!」


 剣華は己の恥辱に満ちたそれを奪い取ろうとするも、保長はひらりと身軽に跳んで逃げる。


「無駄ぢゃよ。大量に複製したからのう」

「っ~」


 顔を赤くして、地団太を踏む剣華。しかし、眼光を鋭くして剣を握っている時分とは違い、怒っている姿にはまだ幼さが多分に残っている。


「保長さん! また新人さんからかって! いけないですよ!」


 甲高い声が響いた。小柄な少女が道場へと入って来る。好奇心の強そうな瞳を抱く可愛らしい顔をした彼女は、日焼けのせいか肌が浅黒く、背丈は四尺五寸(約1メートル36センチ)ほどと、剣華よりずっと小さい。年齢も剣華よりいくらか下であろうと思えた。

 やがて彼女は剣華の傍まで小走りで近づいてくると、先ほどとほとんど変わらない音量で、


「ぢるーのときもそうだったです! 保長さんは意地悪な人ですから、あんまり気にしちゃだめですよ!」


 それから、あっと言って、


「紹介遅れてごめんなさいです! わたし、御休息御庭ノ者の真鶴まぢるー言うです! 琉球國から来たです! ぢるーとでも、まぢるとでも呼んでください!」


 琉球國は、薩摩藩の南の海に浮かぶ島国である。薩摩が琉球征伐を行って以後、江戸上りと言って、琉球国王の即位や将軍の襲職の際に使節団が江戸へと派遣されてくるのが習わしとなっていた。


「剣華さんですね! 聞いてます! 合格おめでとうです! これから一緒に頑張るです! 年はいくつですか! 江戸は初めてですよね!」


 さらに真鶴は、鼓膜を打つ声を次々と放り込んでくる。あまりの喧しさに、剣華は思わずたじろいだ。


「相変わらず元気でぢゃのう。ちょうど良い、真鶴、お主が屋敷内を案内してやれ」

「任せてくださいです! 剣華さん行きましょう!」


 真鶴は自信満々に平らな胸を叩き、それから子供のように剣華の手を引いた。その手がぎしりと軋む。


「痛っ」


 その体躯からはとても想像できない程の力であった。


「こっち、こっちですよ!」


 真鶴は痛がる剣華などお構いなしにずんずん歩いて行く。とにかく手が痛かった。

 剣華は成す術も無く、手を引かれるままに道場を後にした。

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