第5話 ロストホール

「――ぁ、――ゅ人様、ご主人様!」


 目を開ければ美しい涙の雫をだらだらと流したジャンヌが居た。


「ここは?」


 長く寝ていたようで意識はもあもあしていた。


「森の中です。あの後、馬車で進んでいたのですが、途中で巨大な龍に襲われてしまい、森で隠れている状況です」

「分かった。それじゃ――」


 俺は視線に入った光景を見て、言葉を切り、息をのんだ。

 紺色の髪の少年が両手剣を持って、赤い鱗に覆われたドラゴンへ立ち向かっていた。


「ジャンヌ。皆を頼む」


 俺は傷口を抑えながら、立ち上がり、剣を抜く。左足を下げて蹴り出し、急速な加速を生み出した。傷口が痛い。そう感じながら突撃した。

 剣をドラゴンの頭に叩き付けるが難なく弾かれる。


「なっ…」


 少年が走り出し、剣で攻撃をしようとすると尻尾で真っ黒の大穴に叩き落とした。


「まてぇぇぇぇぇッ!」


 俺は走り、少年と共に落ちてしまった。



 どのくらい落ちただろうか。果てしない暗闇。終わらない痛み。それらが俺の精神を痛めつけている様に感じた。


「き、君は?」


 少年は目を覚ましたようで、状況を把握できておらず、目を白黒させていた。


「ああ、そうだよな。俺はフェル。君と一緒に落ちたんだ」

「僕はアクト。冒険者になったばかりなんだ」


 話をしていると、暗闇から抜けて、とても明るい世界となった。緑の草木があり、雲があり、太陽の様な明るいものがある。

 下には大きな空を舞うクジラが居た。


「アクト。俺に掴まれ」

「うん」


 俺の袖をぎゅっとつかんだのを確認し、アイテムストレージを開く。倒したシャドウウルフの魔石を取り出して握りしめる。


「ユニークスキル【魔装】!」


 ぷわーっと俺を光が包み、俺の手足はシャドウウルフ同様の獣の手足と化していた。

 アクトをお姫様抱っこで抱え、クジラの背中を蹴り、大穴の裾へ着地する。


「「ふぅ」」


 二人のため息が重なり、笑いがこぼれた。

 しかし、めまいがして俺はばたりと地面に倒れた。

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