第8話 目指すは王都




「マナスピアッ!」



 放たれた鋭いドリル状の魔法が、人間の幼児ほどの大きさを持つ赤いカブトムシ——レッドビートルを貫いた。

 かなり控えめに撃ったので、身体に穴を開ける程度に留まったが、それが致命傷になったようでレッドビートルは活動を停止した。



「レッドビートルからは何が取れるんだ?」


「ツノですね!」


「またツノかよ……使うにしても付け替えないとな」



 リムがナイフをレッドビートルのツノにあてがうと、ナイフは一瞬青白く輝き、見るからに硬そうなツノをスパッと切断した。



「……そのナイフ、なんか特殊なのか?」


「解体用の特殊なやつです! 活動を停止した魔法体に外部から働きかけることで配列を一時的に変化させてるんですよ」


「ははーん、全くわからねえ……。死んだ魔物を自由に切り刻めるってことなのかな」


「まあ、そんな感じですね!」



 めっちゃ便利だ。生きてる魔物には使えなそうなので攻撃に転用することはできないが、それでも特に今の俺には役立つ。



「魔導器って言って、体内にマナを持つ人なら誰でも使えるんです」


「へえ。俺でも使えるのか?」


「うーん、多分大丈夫だと思いますよ? まあ……咥える感じになりますけど」


「腕無いしな……」



 今のところ見たのはスライムとウサギとでっけえカブトムシくらいなので、腕として使えるものが存在しない。

 なんかこう……ゴリラみたいな魔物でもいればいいのに。ゲームだとゴリラ系の魔物は強キャラなパターンが多いので少し怖いが。



 歩き始めてから少し経って、向こうの方から歩いてくる人影を発見した。女性だ。

 辺りの風景に合わない金色っぽいドレスのような服を着ていて、なんというか、トボトボと歩いている。

 その姿をみて、何か思い出せそうだったが……やはりダメだった。相変わらずこの世界に来た時のことは思い出せそうにない。



「こんにちは!」


「あら、こんにちは。ねえ、この辺りに家ってあるかしら?」


「家ですか? うーん、今はないですね」


「やっぱそうよね……引き止めちゃってごめんなさい」


「いえいえ、良いんですよ!」



 そのままトボトボと歩いていく女性。

 なんというか……見覚えがあるような、ないような。



「てか、一人だったけど大丈夫なのかな……レッドビートルとか出たら危ないと思うんだけど」


「ちょっと見てみたんですけど、あの人相当強いと思いますよ。因子はよくわかりませんでしたけど……うーん、研究したかったです」


「そういうのも分かるのか」



 まあ、そもそも強くなければ一人で外に出ることなどしないのだろう。


 ……なんというか、魔法が存在するのだからもう少し文明的にも成長していていいのにと思っていたのだが、そこまで魔法が普及しているようでもなさそうで、そのうえ魔物のせいで人の流通も多くなさそうだから、大きく発展することがないのかもしれない。

 俺の妄想に過ぎないが。



 さて、その後も襲いかかってくる魔物を倒しつつ進み、やがて一つの街にたどり着いた。

 リムの話によると、彼女は昔ここに住んでいたらしい。

 どちらかというと村みたいな感じで、あまり発展してるようには見えないが、まあ馬車を拾うだけなので問題ないだろう。



「よし、馬車を探します!」



 そう言って、街中を歩き回るリム。

 流石に街中で喋るわけにもいかないので、行動は彼女に一任するしかない。

 念話みたいな魔法があると便利だな。



 そのままリムは街を探索し始めたのだが……、なんか住人達の視線がおかしい。

 視線が冷たいというか、妙なものを見る目というか。

 ついでに避けているようにもみえる。


 過去に何かあったのか?

 ……いやまあ十中八九魔物関連なんだろうけど。

 多分気味悪がられてるんじゃないか、これ。

 リムは気にしていないようなので、それなら別にいいのだが。



 少し探し回って、俺たちが入ってきた場所からちょうど反対側で馬車を見つけることができた。


 その側に座り込んで酒のようなものを飲んでる男に、リムが声をかける。



「こんにちは! 王都まで行けますか?」


「おお、嬢ちゃん。王都に用事があるのかい? 残念だが……今は無理だ」


「えっ、なんでですか?」


「なんでも、この辺りにヤバい魔物が出たらしくてな。大事を取って待機することにしてるんだ」


「そうなんですか……」



 思わぬ足止めを食らってしまった。

 というか、住民達が怯えてるのって、もしかして魔物が出たタイミングでリムが来たからか?

 

 魔物を呼ぶ少女、みたいな感じで噂されててもおかしくないな……まあ、俺を連れてる時点で根も葉もないわけではないんだが。



「ちなみに、どんな魔物なんですか?」


「詳しくは知らんが、熊らしいぞ。確か赤い爪の……」


「スカーレットネイル!」


「そうだ、そんな名前だったな。この辺りに住んでる奴らじゃどうにもならないんで腕利きのハンターを呼んでるらしいが、いつ来るのやら……悪いな」


「いえ、お話が聞けただけでも良かったです! ありがとうございました!」



——————

 


「ゴクモンさん、ここら辺なら誰もいませんから話しても大丈夫ですよ」



 頭上の布が取り払われ、わずかに光が差し込む。

 リムに持ち上げられて辺りを見てみると、人気のない路地のような場所にいることがわかった。



「なあ、どうするんだ? そんな強い魔物がいるんじゃどうしようもないと思うんだけど」


「倒しましょう!」


「そうか…………え? 倒すの?」


「ゴクモンさんなら倒せますよ!」


「いやいやいやいや、無理だろ。熊とか檻の中のしか見た事ねえよ」



 いくら魔法が使えるからって、熊は無理だろ。

 そもそもこの辺りの人間じゃ倒せないとか言ってたし。



「つーか、リムだって危険なんだぞ? 俺一人じゃ戦えないし」


「わかってますよ。わかったうえで、勝てるから言ってるんです!」


「でもなあ……もっと地道に……」


「とにかく! 行きますよ!!」


「いやちょっと待てって!」



 俺をもう一度バスケットにしまって駆け出すリム。

 抵抗するすべはなく、俺たちはそのまま街の外へと向かうのだった。

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