第7話 旅の始まり



 ツノを獲得した次の日、俺たちはスライムさんを埋葬した。


 この世界の葬儀については知らないが、リムもよく知らないらしいのでとりあえずスタンダードな埋葬にすることにしたのだ。墓はあるらしいし。


 まあ、愛着はあったようだし、このまま道具として使い続けるのは忍びないなとも思っていたのでちょうど良かった。

 インパクト使いたかったら代わりのスライムを探せばいいわけだし、問題はない。



 それから少し経って、リムニアがある話を切り出して来た。



「私もついて行きたいです!」


「えっと……何に?」


「魔王討伐です! するんですよね?」


「あー……そうだな……アレは若干テンションのまま言ってしまったというか……」


「するんですよね!」


「あっはい、します」



 確かに人としての身体は欲しいので魔王討伐は最終目標ではある。

 魔王がどんなものなのかはわからないし、ゲーム的に考えるのであればポジション的にはやはりラスボスなのだから、それ相応の準備が必要だろう。


 なんだかんだで俺には、首から下を失った代わりに色々と便利な能力がある。

 魔物と同化できる能力だとか、異常な魔法の威力だとか……深く考えると疑問だらけだが、未だにこの世界に来るまでの記憶は霞みがかって思い出せないので考えるだけ無駄だ。

 生き残るためならなんだって使ってやる。



「ついてくるって言っても、平気なのか? 結構危険だと思うけど」


「自分の身は自分で守れますよ!」


「うーん……」



 冷静に考えると、睡眠でパーツが外れてしまうため一人だと寝たら行動不能になってしまうし、協力者はそもそも必要だ。



「私の目標が魔物図鑑デンドログラムの完成だっていうのは言いましたよね。ゴクモンさんと一緒に行動したら、きっと色んな魔法生物を見ることができると思うんです!」


「……わかった。正直言って、俺もリムニアについて来てもらえると助かるからな」


「本当ですか!」


「ああ。だからお互い手を組んで行こう」



 リムニアが俺についてくるのではなく、あくまでも関係は対等だ。その方が良いだろう。

 ……まあペットにされてるからそもそも俺の方が立場は下っぽいけど、リムニアは魔物に対しても常に敬語なのでその辺りがわかりづらいな。



「じゃあ、私のことはリムって呼んでください!」


「リム、か。わかった。じゃあ俺のことはゴクって呼——」


「準備するから待っててくださいね、ゴクモンさん!」


「……おう」



 そう言って、バタバタと準備を始めるリム。

 マジで俺の名前ゴクモンで行くのか? この世界に打首獄門とかいう物騒な概念はないのかも知れないけど、なんか……なんか不吉だ。とっとと身体を手に入れて生首から卒業したい。



「お待たせしました!」


「準備が速いな」


「実は、ゴクモンさんが魔王討伐に行くって聞いてから、準備してたんです」



 なるほど。何か言いたそうにしていたのはそういうことだったのか。



「っていうか、今から行くのか?」


「思い立ったら吉日って言うじゃないですか!」


「その言葉こっちにもあるのか……まあいいや、じゃあ行くぞ」


「はい!」



 リムは元気良く返事をして、俺を手提げのバスケットへと収納した。



「あっ、俺は隠すんだな」


「だって生首ですよ?」


「いや確かにそうなんだけど、生首をペットにする人間に言われても釈然としねえな……」


 魔物が普通に存在しているせいで感覚が麻痺しているが、人型の魔物は殆どいないらしいので俺という存在は普通に不気味だろうし、なんなら見世物小屋的な施設で一生を終える可能性すらある。

 そう考えると、最初に通りがかったのがリムで本当に良かった。

 そのあたりは運が良かったと言える。不幸中の幸いってやつだ。



「あっ。あとツノラビさんも連れて行きましょう!」



 ずいっ、とホーンラビットが俺の横に設置された。

 マジかよ。スペース的に余裕はあるけどさ。


 ホーンラビット——通称ツノラビさんは、どうやらツノの再生に体力を使っているようで、昨日から殆ど寝ている。

 既にツノは再生を始めていて、額には小さく突起が現れていた。


 目が覚めたらヤバイだろうな……俺身動き取れないし。



 バスケットには上から布が掛けられ、外からは俺の姿が見えないようになっている。

 さらに、俺用に作ってくれたのか、ちょうどいい位置に穴がくり抜かれているので、外の様子もある程度わかるようになっていた。



「さあ、出発しますよ!」


「おう。って、どこに行くんだ?」


「とりあえず王都に向かいたいんですけど、徒歩では行けないので、近くの町で馬車に乗ろうかと!」


「なるほどな。まあ移動に関しては任せるよ」


「はい! じゃあ、頑張って行きますよー!」



 バスケットを天高く突き上げ、リムが元気よく叫ぶ。


 魔王を倒す旅が、今始まったのだった。

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