第6話 イッカクナマクビ



「あっ。あれなんかいいんじゃないか」



 家を出て少し歩いたところで、ある魔法生物と遭遇した。

 身体はウサギと同じだが、その額からは殺意をむき出しにしたような鋭いツノが生えている。



「ホーンラビットですね。あれは……あまり魔法生物としての部分は多くないですよ」


「そうなのか?」


「この辺りは進化の過程とかいろいろあるんですけど、簡単に言うとほぼウサギです。血は流れてませんが」


「どこなら同化できるかな」


「ツノですね」



 ツノかあ。

 いや、貰えるものはもらっておきたいけど、ツノかあ。

 別にいいんだけど、ツノって実力が伴ってないとちょっと滑稽じゃないか?

 専用機にツノつけるのだってスピード三倍だから許されてるようなものだし。


 どうしようかと悩んでいると、ホーンラビットはこっちに気づいたようで、鋭いツノをこちらに向けて威嚇を始めた。



「どちらにせよ、やるしかありませんねっ」


「そうだな……回避は任せたぞ」


「わかりました!」



 瞬間、ホーンラビットが突進を始める。

 ぴょんぴょんと文字に表すと可愛らしいが、そのスピードはかなりエゲツない。


 不意打ちされたら避けられないであろうスピードだったが、正面からなら普通に避けられるようで、リムニアはサッと横に回避した。



「今です!」


「わかった! ……インパクト!」



 ボゴン! と音がして、地面が抉れる。

 弱めに……と念じながらやったため、初めて使った時に比べると威力は抑えめになったが、それでもこの威力だ。

 しかし、当たる直前にホーンラビットが高く跳躍したため、その身体を捉えることは出来なかった。



「すばしっこいな……!」


「あっ、魔法撃ってきそうですね!」



 上空に跳び上がったホーンラビットのツノが青く輝く。

 キュインという音とともに、ツノの形をした魔法弾が勢いよく襲いかかってきた。



「わわっ」


「殺意高えなあ……」



 おそらくあれがツノを装着することで手に入る魔法だろう。

 インパクトが打撃系なのに対し、アレはもう見た目的に突攻撃だろう。使い分けが出来そうなので、やはりツノはあった方がいいかもしれない。



 数発のインパクトを躱され、ホーンラビットが二度目の跳躍を行う。

 慌てて回避するリムニアの腕の中で、撃つタイミングを考える。まあほとんど決まっているのだが。



「ここだっ、インパクト!!」



 ホーンラビットが着地するタイミングに合わせてインパクトを放つ。

 狙い通り、着地の瞬間は避けられないようで、ホーンラビットは衝撃を食らって吹き飛ばされた。

 着地の瞬間を狙うという、ゲームと漫画で得た『絶対に今後使わないだろうな』という知識が生かされた瞬間だった。



「よしっ」


「気絶してますね、今のうちに捕獲しましょう! せっかくだから飼いたいです!」



 リムニアはいつのまにか用意していたノコギリを取り出し、うまくホーンラビットのツノを切り落とした。



「根元だけ残しておくと、少し経ったら生えるんですよ。アクセサリーに使われたりしてるのを見たことがあります!」


「へえ、やっぱ詳しいんだな」


「それはもちろん!」



 ふふんと胸を張るリムニアは、腕に抱えた俺の頭の上にホーンラビットを乗せ、ついでにツノを俺の額に押し当てた。


 ぞくりと撫でるような感触が額に走り、ツノが固定される。同化完了だ。



「どうだ?」


「鬼族みたいですね……」


「あ、鬼はいるんだ」


「はいっ。人間にも色々と種類がありますからね」



 人型の魔法生物が存在しないだけで、本来魔物として扱われるような存在が人として扱われているのがこの世界なのだろう。

 それが人権的なものなのか、それとも生物学的に人と同一だからなのかはわからないが、それは俺には関係のないことだ。


 リムニアは草原に布を敷き、その上に俺を置くと、バックからデンドログラムを取り出してめくり始めた。

 すぐにお目当てのものが見つかったようで、ページを差し出してくる。



「これがホーンラビットの魔法、マナスピアの流紋です! さっきの魔法ですね!」



 早速流紋を目でなぞり、マナとやらにそれを覚えこませる。



「……さて、試してみるか」


「はい! 外ですから遠慮はいりませんよ!」


「まあ程々にやってみるよ」



 普通にやってあれだけ威力が高くなるのだから、本気でやったらどうなってしまうのか……。

 俺は環境破壊がしたいわけではないので、気持ち抑えめで使ってみることにする。



「じゃあ、この樹に撃ってみてください!」


「おう」



 学校に生えているような、数人で手を繋ぐと一周出来るほどの少し大きい樹だ。

 樹の幹の中央を狙うように顔の方向を微調整してもらい、意識を樹と額に集中する。

 そして——



「——マナスピア!」



 ごうっ、と一瞬風が吹き、俺の目の前に巨大なツノが現れた。

 青く半透明な、ツノというより巨大なドリルのように見えるそれは、その直径をリムニアの背丈と同じほどに巨大化させ、そして放たれた。



 ……幹に穴が開くとかそういう次元じゃない。

 空間ごと削り取られたように木の一部が消滅し、そのまま残された上の部分が落下する。



「やっぱり凄いです! ほんと……なんでこんなに強いんですかね!?」


「なんというか、こう……天元突破しそうな感じだったな……」



 強い魔法を使えるのは良いが、だからといって全ての魔法が強くなってしまうのはちょっとしんどくないか……?


 土埃が舞う中で、やっぱ魔法使うときは力を抑えようと固く誓う俺であった。

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