第5話 貴方だけの生首を
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女神シトラフォールは、勇者の転生に失敗した。
色々と儀式をミスった結果、生首だけを転送してしまったのだった。
一応生存は確認できたものの、これがバレるとマズいというのは理解していたため、女神は証拠隠滅に走った。
そしてバレた。
めちゃくちゃ怒られた。
始末書も書かされるが、その前に勇者の手助けをしろということで、女神は神由来の力を全て没収された上で地上に送られたのだった。
「はあ……どうしてこんなことに……」
のどかな草原に出来た道を歩きながら、女神シトラフォールは呟いた。
もちろん自分が悪いということは理解していたが、一時的とは言えまさか自分が地上に追放されたことにショックを隠せずにいた。
いくら転生者に神の力を与えていたとは言え、生首だけではできることも限られる。
先行きの見えない不安を抱えながら、女神は天界で確認した生首が放置されている場所へと歩みを進めた。
「うんうん、確かここが確認した場所ね」
大皿で見た風景と同じことを確認しつつ、生首が置いてあった場所を見つけた女神だったが——そこには既に何もなかった。
「えっ」
女神には知る由もないが、この時すでにリムニアが西極を拾ってから数日が経過していた。
当然ここに生首があるはずもなく、女神は完全に手がかりを失ってしまったのだった。
「どうしよう……魔物に食べられた? ……いや、それはないわね。死んだらこのブレスレッドの反応が消えるはずだから……誰かに拾われた?」
女神は考え、そして誰かに拾われた可能性が高いと考え、行動を開始した。
実際、女神の推理は当たっていた。
しかし——
「あら? この家崩れちゃってるわね……って、今はそんなこと考えてる場合じゃないわ!」
——肝心の『正解』にはたどり着くことができなかったようだ。
「はあ……とっとと探して、天界に帰るわよ!」
決意を新たにしつつ、転生者の生首を求めて、女神シトラフォールは地上を探し回るのであった。
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「う、うーん……」
目がさめると、知らない空間だった。
……ここ最近これを繰り返してる気がする。
多分気絶していたんだろうが、そうすると今日二回目の気絶だ。
気絶癖みたいなのついてんじゃねーかな、これ。
改めて辺りを見回してみる——と言っても首を回せないのであくまで前方のみの情報なのだが、見た感じは割と現代的というか、簡単にいうと実験室のような感じだ。
火にしては明かりにムラのない光が部屋を照らしている。
壁は磨かれたように光沢を持つ石で造られ、机の上には乱雑に本が重ねられていた。
リムニアの家……ではないよな。
だんだん思い出してきたが、そういえば魔法撃ったら崩れたんだった。
とすると、何処だ?
「リムニアー、いるかー?」
「はいはーい? あっ、起きたんですね! よかった〜」
とてとてと小走りするような足音が近づいてきて、細い手が俺を持ち上げた。
嬉しそうに俺を抱きしめるリムニアは、服を着替えたようで、ツギハギの服から俺の世界で言う白衣の様な服に変わっていた。
「なあ、ここ何処なんだ?」
「うちの地下ですよ〜。研究室になってるんです!」
「地下か……」
確かに壁に窓は無い。
あのボロい家の下にこんな空間があるとは……。
「両親が使ってた研究室なんです。お母さんは私と同じマナの流れが見える眼を持ってたので、お父さんと協力して魔物図鑑を完成させようとしていたんです」
マナの流れが見える眼……というのは恐らく、あの淡く光る眼なのだろう。
魔眼と言えば俺がいた世界でも創作として根強い人気があったが、それが実在するこの世界ではどのように扱われているのだろうか。多分、貴重なものだとは思うのだが。
「ですが、両親とは数年前から連絡が取れなくて。だから、私が後を継いでこの図鑑——デンドログラムを完成させようと思ってるんです!」
「なるほどな」
「つきましては! ゴクモンさんを記念すべき私の初発見魔法生物として図鑑に登録したいので色々と調べさせてください!」
「やっぱそうなるよな!」
家が崩れても研究を止めようとしなかったナチュラルボーン研究者だ。俺の生態にも興味があるのだろう。
「それはまあ置いといて、覚えたい魔法があるんだけど、図鑑で探してくれないか?」
「はい! どんな魔法ですか?」
「物を収納する魔法と、腐敗を止める魔法。あと眠らせる魔法が欲しいな」
「わかりました! ちょっと待っててくださいねー」
そう言って、リムニアはパラパラと図鑑を流し見始めた。
俺が提示した三つの魔法は、どれも俺が今考えている作戦に必要なものだ。
なるべく全部あってほしいが……どうなのだろうか。
十分ほど経って、リムニアは笑顔で顔をあげた。
「お待たせしました! 全部見つかりましたよっ」
「マジか!」
「収納魔法インベントリはミミック系、防腐魔法エンバーミングはアンデットプリースト系、睡眠魔法ソパイトはファンシーテイパーなどが持ってますね! どれも少し遠出しないと会えませんけど」
「やっぱこの辺にはいないんだな」
「どれも珍しいものではないので、生息地に行けばすぐに会えるんですけどね」
「じゃあやっぱ脚パーツが必要だな……申し訳ないけど、ちょっと外まで運んでくれないか?」
何でもいいから、とにかく動くためのパーツが欲しい。
いつまでもリムニアに頼っているわけにはいかないし、この際動きやすさは無視してもいいかもしれない。
ふとリムニアを見ると、何やら言いたそうな顔をしていたが、すぐに俺を小脇に抱えて、ゆっくりと地上へ通じる階段を上った。
「あー、リムニア?」
「はい? どうかしました?」
「……いや、なんでもない」
聞こうと思ったが、聞けなかった。
なんとなく気後れしてしまったのだ。両親が音信不通だとも言っていたし、恐らくそれ関連のことなのだろう。
地上に繋がる扉を開け、外に出る。
木材の山と化した家を見ると申し訳なさを感じてしまう。
表情を見て察したのか、リムニアが微笑みながら「気にしないで良いんですよ? そもそもいつ壊れたっておかしくなかったんですから!」と言ってくれた。
それすらも申し訳なかったが、これ以上気を遣わせるわけにもいかない。
「よし、早速魔物を探しに行くぞ」
「はい!」
元気な返事とともに、俺たちは草原を進みだしたのだった。
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