第4話 魔法生首ゴクモン



「あっ、起きましたね」


「ああ、おはよう……記憶がないな」


「気絶してたんですよ?」


「マジか」



 そう言われると、確かに机から落下したことを思い出した。

 後頭部を打ち付けて脳が揺れたのだろうか。

 もしかしなくても今の俺って全身弱点なのでは?



「そういえば、スライムさんのところ分離してましたよ。多分、気絶か睡眠で外れるんだと思います」


「なるほど……一応着脱が可能なんだな」


 

 気絶、或いは睡眠によって着脱が可能と言うのは、若干付け替えがしにくいように感じる。

 色々と試してみたいものは多いが、着脱が面倒だとそれもままならない。

 まあその辺りは追い追い試していこう。



「それでですね、今の時点でのゴクモンさんの性質をまとめてみたんです。箇条書きですけど」



 そう言ってリムニアは一枚の紙を差し出してきた。

 ベージュ色の上に綴られた文字の羅列は、形だけに注目すると意味のわからない図形なのだが、文として読むと日本語のように理解できるという不思議なものであった。



————————



・類似パターンなし。新種の魔法生物である。


・死んだ魔法生物との物理的接触によって、対象と同化することが可能。対象が生きている場合の結果は不明。


・同化は気絶によって解除される。そのほかの解除方法については不明。


・恐らく「魔法使い」と同様に、流紋のイメージ定着によって因子の近い魔物の使う魔法を使用することができる。


・スライムと同化した際に因子の獲得を確認した。そのため、同化さえ出来ればあらゆる魔法を使用することが可能と思われる。



————————


「専門用語が多くてよくわからないな……」


「うーん、とりあえずザックリ説明すると、ゴクモンさんは魔物とくっついている間、その魔物が使う魔法を同じように使用することができる……というわけです」


「あー、じゃあスライムとくっついてた時はスライムの魔法が使えたってことか?」


「正確には『使える状態になっていた』ですね。その上で流紋を……いや、実際にやってみましょうか!」



 習うより慣れろということだろう。

 リムニアは部屋の奥から分厚い本を持ってきて、ついでに俺の頭をスライムにドッキングした。

 ぞくりという感覚が背筋を走り、同化が完了したことを告げる。


 若干スライムに申し訳なさを感じるが、俺が生きる為なので仕方ない。全て終わったらちゃんと葬います。



 

「さて……うん、因子の一時的獲得が確認できますね。では、この図形を見てください」



 目を淡く光らせながら、リムニアが本を開いて俺の目の前に立てる。

 スライム、インパクト、と書かれた下に複雑な図形が描かれている。

 円形を基としたデザインで、いわゆる魔法陣のようであった。



「この図形が流紋です! これは魔物が魔法を使うときに現れるマナの流れで、つまり、この通りにマナを流動させれば魔法が使えるというわけです」


「なるほど……つまりこれを覚えるわけか?」


「いえ、一度見るだけで問題ないですよ! 勝手にマナが記憶してくれますから」


「へえ、便利なんだな」



 まあつまり、魔物を倒して、パーツと同化して、その上で流紋とやらを見ることで魔法を使えるようになるのいうわけか。


 ということは新しく魔法を使いたければどんどん魔物を倒して同化していけば良い……と。

 やりようによってはとんでもない化け物になりそうだ。無とはいったい……みたいな。


 付け替えが簡単なら使いたい魔法に合わせてパーツをカスタマイズすればいいのだが、そうするには同化の解除だったりパーツの持ち運びだったりを考えなくてはならない。


 魔物の魔法をそのまま使えるというのは確実に強い能力なのだとは思うが、それを十分に活かすためにはある程度考える必要がありそうだ。



「で、スライムの魔法はなんなんだ?」


「スライムさんの魔法はインパクトというものです! 属性はなくて、簡単に言うと衝撃波ですね。試し打ちしてみますか?」


「ああ、感覚掴んでみたいし、やってみるか」



 リムニアは台所から空き瓶を持ってきて、壁際に据えられた机の上にそれを置いた。



「とりあえず、あの瓶を倒すか壊すかしてみてください。本来あまり強い魔法ではないんですけど、ゴクモンさんなら瓶を割るくらいの火力は出ると思います!」


「初めての魔法だからあんまり期待するなよ?」



 魔法なんて今までコマンド選択でしか使ったことないからな。下画面に描くやつもあったがそれはともかく。

 意識を空き瓶に向け、集中する。



「インパクトッ!」



 そう声に出した瞬間、俺の体内……というか頭の中を一瞬血液が回るような感覚が走り回る。

 そして——

 

 ボンッ! っと爆発するような音を立てて空気が歪み、一瞬で瓶は粉々に砕け散った。


 ……ついでにその後ろの壁も砕け散った。



「……えっ」


 

 ……何この威力。

 強い魔法じゃないんじゃなかったのか?


 恐る恐るリムニアの顔を見てみると、その眼はキラキラと光り輝くようであった。



「すっ、凄い威力ですー!! 何故なんですか!?」



 そう言ってリムニアは俺の頭を揺さぶる。



「俺に聞かれてもわかんねえって! ちょっ、揺さぶるのやめてっ! 目ぇ回るっ!」



 揺さぶられる視界の中で、パラパラと天井から木屑のようなものが落ちてくるのが見え、ついでに軋むような嫌な音が響くのが聞こえる。


 これまずくね?


 そう思った次の瞬間、一段と大きな音を立てて梁のような大きな木の柱が落下し、家そのものが崩れ始めた。



「退避! 退避ー!」


「この流紋が魔法の威力を底上げしているんでしょうか! 研究のしがいがあります!! 楽しいです!」


「なあなあなあ! 家崩れてるんだって! マジで俺動けないから生き埋めにされたら終わるんだって!」

 


 必死の訴えも虚しく、完全に崩れた屋根が視界に迫ってくる。

 あっ、これ終わったわ。



「ぎゃああああ!?」



 降り注ぐ木材の中で、俺はまた意識を手放してしまうのだった。

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