第51話 犯人は彼女
飯沢の成績開示の興奮から少し落ちいた頃、時刻は既に十七時を回っていた。
無事に俺たちの中に赤点を取った者は居らず、補習を無事に免れた。
これで夏休みを満喫できると普通の生徒なら思うが、俺たちはそうでは無かった。
「――みんな、それじゃ本題に入るけど良いか?」
博之がそう言って話を切り出すと、各々が少し神妙な面持ちとなった。
本来なら俺が集めたメンバーだから、俺から話を切り出すのが筋だが、最初は博之に仕切って貰うことにしていた。中学時代の神崎について知った際に、博之にはその時点でのことは話してあったし、今回はあまりに俺が騒動の渦中すぎる。
「まず先日文月が神崎について探っていた際に、それがバレて脅された。まぁ脅されたと言っても、文月が神崎に乱暴しているように見える写真を撮られて、ばらまかれたくなかったら詮索するな、とのことだったから実質ノーダメージなんだけど」
博之が端的に事実のみを述べる。
確かに俺にとって落ちるところまで落ちたイメージや名声に今更変な噂や写真が纏わり付いてもダメージは無いけど。無いけど、少しは気にはするんですけど。
他のメンバーは何故か神崎の名前が出てきて、意味が分からずポカンとしている人もいれば、何かを察した人もいて、博之の次の言葉を待つ。
ちらりと、汐見の様子を伺うと、汐見から何故か変な圧を感じた。
汐見は俺が脅された当日に俺の様子が変だったことに気づいていたから、その日のことを思い出しているのだろう。そういうことにしておこう。
そんな汐見の圧に気づくこと無く、博之は話を進める。
「実はこの件の少し前から、文月は神崎が今回の騒動の主犯じゃないかと睨んでいたそうだ」
察しの悪い人たちも博之の言葉で気づいただろう。
四月から、もしかしたら去年の文化祭から今日まで汐見に対して嫌がらせ行為をしていた生徒。それが、
俺以外にも恐らく飯沢は気づいていただろう。四月の時に神崎に一番反発していたから。そう思って飯沢を見ると、目が合いコクリと頷いた。
「それと、中学時代の神崎を知っている人から情報を得て、最近神崎の様子が変だった理由も推察できた」
「神崎さんの中学時代って……誰から聞いたんだよ」
加藤君の何気ない質問。
そんな質問に博之は恥ずかしげも無く、さらりと答える。
「誰って俺の彼女だけど」
……加藤君は絶句していた。
博之はほとんどリア充アピールをしないため、加藤君は博之も自分と同じ側だと思っていたのだろう。女性陣も程度の差はあれど驚いた様子だった。
そんな皆の様子を気にせず、博之は話を続ける。
「神崎は昔から好きな人に異常に執着するみたいなんだ。中学時代もそれで問題を起こしている」
「執着って、一昔前に流行ったヤンデレみたいってこと?」
仲町がやけにオタクっぽい例えを出してくる。
仲町、それは多分こいつらには伝わらない。
俺と同じ事に気づいたのか飯沢は机に肘をつきながらその手を額にやる。
「……実際はもっと酷いかもな」
「え、そんなに?」
仕方ないから俺が仲町に助け船を出して、博之に話を続けて貰う。
「小学校時代からそういうことをしていたらしく、神崎に不登校にさせられた女子生徒は四人。そのどれも手口は違えど、対象になった女子生徒を彼氏と別れさせるだけでなく、その後にも手ひどい仕打ちをしているみたいだ」
神崎の行ったことを聞くと、皆少し表情が強ばる。
一歩間違えれば、汐見がそうなっていた。
事実、汐見が暴力を振るわれそうになったことがあった。
クラスで孤立しそうになったことだってあった。
学校から処分を受けそうになった事だって。
各々が今までの出来事を思い出し、背筋を凍らせる。
「――でもさ、それっておかしくない?」
飯沢が控えめに手を上げなら、声を上げる。
そして皆の視線が飯沢に集まる。
「だって神崎さん彼氏いるって聞いた、けど……」
集まった視線に飯沢の声は少しずつしぼんでいく。
だって、飯沢の言う通り神崎に彼氏がいるなら汐見に嫌がらせをする必要など無い。だから実際に汐見に嫌がらせが起こっている時点で、その話は嘘だったのかもしれないと思うのも仕方ない。
実際、ここにいる皆も混乱しているだろう。
ただ俺だけは、いけ好かないあいつから話を聞いている。
博之にだって伝えていない、本当の悪。
神崎が汐見に度を過ぎた嫌がらせをする理由。
「その彼氏が言ったんだよ。汐見を紹介しろってな」
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