第50話 成績表

第二章の大体のあらすじ

 四月の事件から二ヶ月が経ち、文月と汐見の関係性にも変化が現れてきた。

 二人の距離が順調に縮まっていると思いきや、再び汐見に関する噂が拡散されたり、文月が神崎に脅されたりなどと新たな問題も発生。

 そんな中、汐見の噂に対抗するべく集まった汐見、仲町、飯沢、博之、加藤の五人と協力することになる。

 その前に、一学期の期末試験が差し迫っており、若干一名不安要素を抱えているが……テストの結果は如何に。


***


「さて、点数開示といきますか……」

 一学期の期末試験が終わり、約一週間。

 本日、各々に期末テストの成績表が返されたところであり、テスト勉強で集まったファミレスに放課後、再集合していた。


(それにしても、テスト勉強の時は大変だったよなぁ……)

 思い返されるのは約二週間前の記憶だ。

 俺たちはここで勉強会という名目の「飯沢教育会」が開かれていた。

 理由は、飯沢があまりにも勉強ができず、今のままであればそのまま補習コースまっしぐらだったためである。

 汐見や仲町がいつものことだと言いながら、手を焼いていたのは普通の光景だろうが、博之や加藤君までも必死に勉強を教えており、飯沢は五人体制で教育を施されていた。

 その光景を一歩引いたところで眺めていた俺だが、あまりのおかしさに吹き出してしまった。

 ……その後、「人ごとではないでしょ」と汐見や博之に怒られながら勉強したのは言うまでもないだろ。


「じゃあ、次は古橋な」

「あ、おう……俺の成績表は」

 加藤君の声で現実に引き戻された俺は、鞄からファイルを取り出す。

 まだ順位表を見せていないのは俺と飯沢のみだ。

 俺たち以外の面々はいつもと大して変わらない順位を取っており、補習とは縁遠い成績であった。

 あとは、成績下位組か。

 少し、気が重いがファイルから成績表を取り出す。

 そして、皆に見えやすいように自分からは逆向きで成績表をスッと提示した。


「え、これホント?」

「まじか……本当に古橋の順位?」

「そもそも中間の順位を偽ってたんじゃない?」

「文月、普段からちゃんとやりなよ」

「古橋……アンタ私を裏切ったな!?」


 それぞれから驚きの声が上がる。

 俺の中間の順位はだいたい百五十位前後とクラスでも真ん中ちょい下くらいの成績だ。それが今回、三十二位という成績になっていれば驚くのも仕方がないだろう。


(中島先生からもちゃんとテスト受けろって言われていたしな)

 それに、だ。

 今回は、汐見や博之にも勉強を見て貰った。それで成果を出せないとなると少し申し訳ない気もしていた。だから、今回のテストはだけちゃんと回答した。

 ……相変わらず、間違いは空白のみだけれど、今回の正答率を見れば流石に手を抜いているとは疑われないだろう。中島先生も「やっとちゃんと取り組んでくれたか」とか泣き真似しながら色々言ってたし。


「まぁあれだ。やればできる子って言葉もあるし、今回は汐見や博之に教えて貰ったからな」

 人のこうした視線を集まるのはあまり得意ではなく、この居心地の悪さから逃げるように適当にはぐらかす。

 加藤君と仲町はなんか納得してくれた表情を浮かべていたが、汐見と博之は懐疑的な視線を向けていた。そして何より。


「私も楓や大澤君に教えて貰ったのに、なんで古橋だけ!?てか、なんかこの後に私の成績表出したら霞むじゃん!?」

 飯沢が、喚いていた。納得のいかなさが爆発してしまったようだった。

 ファミレスであまり大声で出すなよ。

 汐見や仲町も飯沢の声が大きかったことに気づいており必死に静かにするよう宥めていた。



「――落ち着いた?」

 先ほどまで不機嫌に喚いていた飯沢が大人しくなり、仲町が優しく問いかける。

「……どうせ、私はこんなもんですよ」

 不貞腐れた様子で飯沢は自分の成績表を俺たちに見せる。

 ……これは。


「え、凄いじゃん!」

「ちづるぅー!!よく頑張った!」

「おぉ!思った以上に良い!」

「まじか、あの理解度だったのに……」


 先ほどの俺の成績表を見た時と同じくらいか、それ以上の驚きが俺たちを襲った。

 成績表に記載された点数はどれも良いとは言えない。

 しかし、どれも平均点前後であり、学年順位は百三十位。

 いつも赤点スレスレで、学年順位も下から数えた方が早かった彼女が正直こんな成績を取るとは思っていなかった。


「……ほんと?私がんばった?」

 いつものサバサバとした態度とは少し違い、幼児退行してしまったかのようなあどけなさ。

 そんな姿にキュンときたのか、汐見と仲町が飯沢を抱きしめる。


「えらい!えらいよ千弦!」

「うん、ほんと良くやった!」

「……もうっ、恥ずかしいって」


 そんな百合な光景を目の前で見せられている男どもは。

「……俺らも文月に抱き着いとくか?」

「え、やっとく?」

「馬鹿、やめろ触んな。おい」

 この後、両腕に抱き着いてきた気色悪い男どもを剥がすのに苦労したことは言うまでもないだろう。

(……何でこいつらを頼ってしまったんだろうか)

 この時だけは、本気で後悔した。


***

 

 投稿日不定で週一更新を目指して、また投稿していきます。

 二章については、あと数話で終わる予定です。

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