第49話 飯沢千弦は勉強ができない


『明日の放課後、みんなでテスト勉強しない?』


 テストが直前に迫った金曜日。

 夕食を済ませ、自室で勉強していたところ、二週間ほど前に作ったグループにそんなメッセージが届いた。

 送り主は、飯沢千弦。

 俺は既読をつけることなく、スマホをベッドへと放る。


 そして、一時間ほど経った頃だろうか。

 後方からバイブレーション音が聞こえてきた。

 鳴り方からして電話だったので俺は勉強の手を止め、通話に出る。


「もしも――」

『たすけて古橋!』

「……どうしたんだよ、飯沢」


 電話をかけてきた相手は飯沢だった。


『今回のテスト、結構やばい感じだから助けてほしいなーって』

「そういうことなら俺じゃなくて汐見や仲町に電話しろよ」

『二人とも電話出てくれないの。だから、グループにメッセージ送ったんだけど誰も反応してくれなくて……』

「それで、手当たり次第に連絡してみたと」

『てことで、勉強教えて古橋!』

 

 ……こいつが相当なアホなのではないかと思えてきた。

 以前、グループで通話した際に俺は飯沢とそんなに変わらない成績だったにもかかわらず、俺に勉強を教えてくれって。三人寄れば文殊の知恵ってやつは三人が馬鹿じゃ意味ないんだよ。


「俺、お前とそこまで成績変わんないんだけど?」

『それでも私よりかは頭良いでしょ⁉』

「あー……なら、わかんない所教えてくれ」

『とりあえず、数学がわけわかんない』


 つい、『頭良い』なんてことを言われて興が乗ってしまい、飯沢に時間を割いてしまう。

 幸いにも俺は既にテスト範囲の勉強は終えているので、何の教科が来ても大丈夫だと思う。


 ――なんて思っていた時が俺にもありました。


「は⁉ お前、これ今回のテスト範囲の基本中の基本なんだけど⁉」

『そんなこと言われても……』

「とりあえず、これは覚えろ!」

『でも、公式とか覚えるの苦手で……』


 飯沢は俺の予想を超える勉強の出来なささだった。

(……勉強教えるのってこんなに難しいのか⁉)

 いままで人に勉強を教える、なんて経験をしてこなかった俺にはハードルが高すぎたのか⁉


「……これだと、間に合わないな」


 そう思い、俺はグループにSOSメッセージを送った。

 『飯沢の勉強できなさがヤバい。助けてくれ。』

 時刻は既に二十二時越え。

 誰からもメッセージが届かないことも考えられたが、間もなくして既読がついた。

 『うちの千弦がお手数をおかけしています』

 グループではなく、わざわざ個別で仲町からそんなメッセージが届く。


「おい、仲町が起きてるから、仲町に教えてもらってこい」

『おっけい!』


 これでようやく飯沢から解放されたかと思うと、三分も経たないうちに再び飯沢から電話がかかってきた。


『優子、通話に出ないよー⁉』

「知るかよ……」


 どうやら仲町は飯沢がこうなってしまうことを知っていたようだ。

 まぁ一年からの友達なら知ってて当たり前か。


 ――ピロン


 再び俺のスマホにメッセージが届く。

 『明日、午後一時からショッピングモール近くのファミレスで勉強会をするけど、みんなはどう? 今のところ、女子は全員参加!』

 今度は個別ではなく、グループに仲町からそんなメッセージが届く。


「ってことだが?」

『私なにも言って無いんだけど……』

「いや、お前は最初にメッセージ送ってただろ」

『私なにも聞いてないんだけど……』

「まぁその辺は仲町と汐見に聞け。じゃあ切るぞ」

『あ、えっと、ありがとね古橋』

「おう」


 こうして、騒がしかった飯沢との通話は終了した。

 てか、もっと早くメッセージ送ってくれよ……。

 俺は仲町のメッセージに返信することなく、再びスマホをベッドに放った。



 次にスマホを触ったのは寝る前になるのだが、グループに大量のやり取りがあったのは想像に容易いだろう。

 そして、やり取りの中で何故か俺も勉強会に参加することになっていた。

 寝る前で何も考えたくなかったので、一応汐見に『俺も参加で』と短いメッセージだけ送り、眠りについた。

 きっと、明日の俺が頑張ってくれると信じて。






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