第43話 集結
俺は家に帰るとすぐにスマホを取り出し、LEENを起動する。
そして、俺の数少ない連絡先にメッセージを送る。
『今夜、通話できるか? できるならグループに招待する』
俺は若干手惑いながらもグループを作成する。
そして、少し時間が経つと、みんなからメッセージが返ってきた。
俺からメッセージが来ることが余程珍しかったのか、焦ったような文面ばかりだ。
博之でさえ、『グループって文月は誰と話すの!?』と驚いていた。
俺は拙い手つきながら連絡が返ってきた人たちを順々にグループに招待する。
(えっと……そうだったな)
俺は招待し終えたときに、呼ぶべき人を忘れていたことに気づく。
俺は『汐見楓』の名前をタップし、メッセージを送る。
そして、すぐに連絡が返ってきて、グループに新しく二名が追加された。
みんながグループに参加したのを確認できたので、一文を送ってスマホを放る。
そして、ベッドに身を投げる。
『今夜、二十一時から作戦会議を行います』
全てを終わらせるためには、俺一人では無理だと感じたから。
四月の件で自分の無力さを痛感したから。
『お前のその機転を利かしたような発想が出来れば、もっと他に選択肢があるように俺は思うんだが』
あの後、中島先生にかけられた言葉。あのときは知らなかったんだ。
誰かってやつに頼って良いなんて。その誰かが頼ってほしいと思っているなんて。
この二か月間、自分とは違う誰かに触れた。
考え方が違った。価値観が違った。違うところだらけだった。
だから気づいたんだ。俺の選択肢はもっと他にもあったんだって。
今度は間違えない。誰も傷つけず、全てを解決してやる。
俺はその決意を胸に刻みつけるかの如く意識を沈ませていった。
――ピロン
あれ、寝てたのか……
――ピロンピロン
なんか通知なってるけど……
――ピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロ
「うるさっ!」
俺はあまりの通知音の五月蠅さに飛び起きた。
そして、スマホの画面を見ると俺は通知音の理由に気づき、すぐにLEENを移動する。
時刻は既に二十一時五分。
呼び出した本人が遅刻と言う、なんとも間抜けな遅刻。
すぐに俺は通話を繋げる。
『……お? 来たかな?』
俺の耳に最初に届いたのはそんな博之の言葉だった。
「いや、あの、遅刻してすみませんでした……」
『まったく、何のために集められたかもわからない者同士を放置するなよ』
続いて飯沢から苦言を呈される。
『ちょっと、千弦!?』
「いえ、その通りでございます……」
『……ちょっといいかな?』
驚く仲町と謝る俺を放置して、加藤君が口を開く。
『これっていったい何の集まり? 俺は初対面の人いないから良いけど、このメンバーの共通点がわからないんだけど?』
『『『確かに』』』
加藤君の言葉に通話相手たちは同調し始める。
今回、俺が呼んだメンバーは大澤博之、仲町優子、飯沢千弦、汐見楓、加藤君の五名だ。
そんな関係性なので、当然の疑問だ。
「共通点なんてものはない。俺が呼べる人を呼んだだけだ」
『……』
「……あれ、俺なんか変なこと言ったか?」
俺が質問に答えると急に電話口から声が聞こえなくなってしまう。
『あんた、本当に友達いないんだね』
――グザッ
『……だ、大丈夫だよ、僕は友達だから』
『お、俺も!』
『わ、私も友達だから!』
――グサッグサッグサッ
なんだろう、別に友達がいないことは良いんだけど同情されてるこの状況が酷く胸に刺さる。
というか、一名友達になった覚えのないやつにまで友達宣言されてしまった。
「い、良いんだよ別に! 俺のことより本題に入りたいんだけど……」
俺が「本題」と口にするとさっきまでの空気とは一転した。
『じゃあ、その本題とやらを僕たちに聞かせてくれよ』
「ああ。今回集まってもらったのは他でもない、ここにいる汐見楓を悪意から守るための作戦会議だ」
『え、なに、また楓が狙われてんの……?』
『やっぱり』
汐見の友人である仲町と飯沢はそれぞれ対照的な反応をしていた。
仲町は何も知らなかったようで飯沢は何処か感づいていた様子だ。
「今回は俺一人が悪意に曝されることになっても対処できる見込みが薄い。だから――」
「手を貸してほしい」
『……』
一秒の沈黙がとても長く感じる。
これまで、誰かを頼ったことなんて数えるほどしかない。
ここ最近だと、四月に加藤君に俺を怒ってくれと頼んだこと以来だ。
……いや、結構最近だけども。
それでも、俺は不安なんだ。
『……馬鹿』
『そうだな、馬鹿だな』
『大馬鹿』
『古橋って馬鹿なんだね』
『ばーか』
「え?」
五人からそんな言葉が返ってくる。
予想していた言葉とは全く違う言葉だったため、俺は情けない声を零してしまう。
『そんなこと言われなくてもお前の頼みなら僕は何だってしてやる』
『そうだな、友達だし』
『私に関しては、自分の問題だから』
『私たちが楓のために手を貸さないと思ってるの?』
『協力するに決まってんじゃん!』
スマホからそんな嬉しい言葉の数々が聞こえてくる。
そして、俺はようやく気付く。
俺の抱えていた不安は未知の行動へのものだったのだと。
俺は心からこいつらなら協力してくれるって思えてたんだってことに。
「……ありがとう」
俺は皆に聞こえないように小さくこぼした声を消すかのように頬を叩く。
「よし、それじゃあ今後のスケジュールについて話す。再来週には一学期の修行式だからその前までに決着をつけたい。そして、その前には期末テストもある。とりあえず、みんなは期末テストを乗り切ってくれ」
俺たちの通う名南高校ではテストが終わった翌週に赤点を取った者や内申点が低い生徒は補修が始まってしまう。
とりあえず、ここにいるメンバーがその補修に引っかからないことが第一条件だ。
『じゃあ、ここにいる皆の順位を一応知っておきたいんだけど……。ちなみに僕の前回の順位は二十四位だったけど』
博之がそんなことを言い出す。
『私は、まぁ十番以内にはいつもいるけど』
最初に自分の順位を発表したのは汐見だった。
いや、あれだけ家事しててそれは凄い。
というか、彼女が頭が良いのはかなり周知の事実であるが。
『私はまぁ六十位より上!』
次に仲町が発言する。
正直、もう少し下だと思っていた。すまない。
『俺もそのくらいだな』
心の中で仲町に懺悔していると続いて加藤君が自分の順位を言う。
すまない、加藤君ももう少し下だと思っていた。
『……』
「……」
沈黙が流れる。
現在四名が自分の順位を告げる中、まだ何も発言していない者が二名。
『千弦?』
『……いつも全教科赤点スレスレですけど』
飯沢が嬉しくないカミングアウトをする。
『……意外だ。飯沢さんは勉強できるイメージあったんだが』
博之、それは追い打ちだ。
『……ということで、楓さん今回もお願いします!』
『仕方ないなぁ……』
汐見は若干呆れたような声だが、優しい声色で飯沢に勉強を教えることを了承する。
『……で、古橋は?』
「……俺はいつも百五十位前後だ」
『『『『……』』』』
俺の順位を聞くと一同黙ってしまう。
まぁそれはそうだろう。
だって、
『私の調子いいときと同じくらいじゃん! 古橋も一緒に楓に教えてもらう?』
俺もそこまで良い成績じゃないんだから。
俺たちの学年は全員で二百四十人。
後ろから数えた方が早い。
『あの、古橋? もう少し勉強頑張ろうな?』
『お前、そんな頭悪かったっけ?』
『古橋、凄く恰好悪いよ……』
三名から憐みの言葉と言うか蔑みの言葉を投げかけられる。
『……良かったら私が勉強教えようか?』
汐見の優しさが辛い。
「べ、別にいつも平均くらいだから! お前らが頭良いだけだから!」
そう、仲町と加藤君がそんなに頭良いなんて思っても無かったんだ。
とりあえず、今日は顔合わせみたいなものだったので、一時間程度で通話は終了した。
通話が終わり、俺は流石に皆に憐れまれたのが悔しくて机に向かう。
(別に本来の実力じゃないし……)
勉強を始めようとしたとき、部屋に通知音が鳴り響く。
俺はスマホを取ると、そこには汐見楓からのメッセージが表示されていた。
『いま、大丈夫?』
俺はそのメッセージに「大丈夫だけど」と、実に簡素な返信をする。
すると、間もなく汐見から電話がかかってきた。
「も、もしもし」
『もしもし、汐見です……』
「お、おう……」
電話に出てから思ったが、汐見との一対一の通話がこれが初めて。
別に二人で話すのは何度もあったのだが、電話越しってだけで変に緊張してしまっていた。
『えっと……急かもしれないんだけど、明日空いてる?』
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