第42話 確信
待ちに待ってない週末がやってきた。
今週に限っては本当に来なくても良かった週末だ。
今日は土曜日で、いつもならまだ本でも読んでるか、汐見の家に行く準備をしている午前十一時半。
俺は博之に呼び出されて、いつも利用しているショッピングモールに呼び出された。
待ち合わせ時刻は既に過ぎているのだが中々来ない。
五分経っても来ないので、LEENを送ろうかと思っていた時。
「ごめん、遅くなった!」
そんな声が聞こえてきた。
「全く、遅れるなら連絡くらいくれよ」
「悪いな」
「で、その子が?」
俺は博之に悪態を吐きつつも、博之の後ろに半身を隠している女子について問う。
「ああ、僕の彼女の
「……はじめまして」
博之の後ろからちょこんと顔だけ出して俺に頭を下げてくる。
「お、おう、はじめまして。てか今更だが、お前、俺の悪評を知っておきながらどうして……」
「その質問は本当に今更だね。僕が会わせたかったんだ。それ以上でもそれ以下でもない」
しれっと、利己的な発言をする博之。
昨日の夜、博之から明日、土曜日に会えるかという趣旨の連絡が来た。
俺は偶然にも今週は汐見の家に行く予定が無かったので快く承諾したら、
『僕の彼女と会ってもらうから』
その一文だけ送られてきて、それ以降俺の抗議のメッセージに既読がつかなくなってしまった。
という訳で渋々来たわけなんだが。
「あの……」
「っ……!」
河合さんはすっかり委縮してしまっている様子だ。
どうやら相当俺のことを怖がっている様子だ。
河合さんは俺たちと同じ名南高校に通う生徒なんだ。
俺の噂は長い時間をかけて浸透しているから当たり前の反応ともいえる。
俺は目で博之に何とかしろと訴える。
しかし、博之は俺の視線に気づくことなく、
「昼時だし、ご飯にしようか?」
とか言い出す。いや、確かに昼時で腹は減ってるんだけど。
「わかった、じゃあお前への文句は飯を食いながらでも」
「それはやめてくれないか? 僕のご飯が不味くなる。ついでに言えば咲のご飯もね」
「……なら仕方ない」
「文月は本当にやさしいなぁ……ね、咲?」
「う、うん……」
何とも言えない微妙な三人でショッピングモール内のファミレスに入っていく。
「で、ご飯も食べ終わったわけだけど、文月のこと、どう思う?」
俺たちがご飯を食べ終わり、俺がドリンクバーから飲み物を取って帰ってくると、博之は河合さんにそんな質問をする。
てか、二人の世界を作られて更に会話の内容が俺のこととか凄く気まずい。
「……まぁ噂とはずいぶん違う方としか」
「ま、そうだね」
博之は今の返答に満足したのか俺に何故か笑みを向けてくる。
「……なんだよ」
「僕の彼女はどうかな?」
「まぁ女を見る目は流石としか……」
彼女の言葉が本心であることは間違いない。
博之からの好感度をもっと上げたいのなら俺のことをしっかり持ち上げてくるだろう。
けれど、妙に歯切れの悪い返答だったということは本心だった可能性が高い。
こいつの人を正しく見る目はきっと才能だろう。
きっと、神崎に匹敵するくらいの才能だろうこれは。
それでも神崎には適わないかもしれないが。
「僕からの質問は以上だけど、文月から咲に質問したい事とかある?」
「はぁ?……そんなことあるわけ――」
あった。
けど、いきなりこんなこと聞いたら引かれないだろうか。
そんな俺の中のちんけなプライドが、博之の友人としての面目が邪魔する。
「……どうしたの文月? 急に黙って」
俺の中で一番最重要なものは何か。
プライドか状況打破か。
そんなものは考えるまでもなく、決まっていて。
「すまん二人とも。いきなり変なことを聞くようで悪いが『神崎奏』について知っていることを全部教えてくれ」
俺は真剣な顔つきになり、二人に問う。
河合さんは何を言ってるんだこと人はと言わんばかりの表情を浮かべ、博之は若干呆れていた。
「……僕が知ってることは君と同じだよ。みんなに好かれ、みんなに頼られるカリスマ。それ以上でもそれ以下でもない唯一無二の生徒って言ったところかな?」
「……まぁそんなもんだよな」
博之は去年は俺と同じクラスで神崎とも同じクラスだった。
しかも、俺たちは神崎と必要以上の関わり合いをしていないので情報は限られてくる。
「……あの」
河合さんが俯きながらも、小さな呟きを漏らす。
「ええっと、私は奏ちゃんと小学校も中学校も一緒、です、け、ど……」
段々と声は小さくなっていくが、しっかりと伝えてくれた。
これは、ラッキーだ。
今は兎にも角にも情報が欲しい。
神崎が偽装証拠で攻めてくるなら、俺は情報で戦うしかない。
「どんなことでもいい。神崎について知ってることを全部教えてくれ」
「なんだ、文月。浮気か?」
茶化すように声を掛けてくる博之。
「ちげぇよ」
「分かってるよ。お前が誰よりも汐見さんを優先してることは。けど、今のお前ちょっと怖いから落ち着け」
俺は今の自分の状況を自覚した。
思いっきり机に身を乗り出して、厳しい表情で河合さんを見ていた。
「すまん……」
「いえ……」
「じゃあ咲。 話してくれる?」
「えっとですね……」
「今日はありがとな文月」
「いや、俺の方こそ。河合さんもありがと」
「いえ、私は何もしてませんよ」
「……じゃあ俺はこれで」
ファミレスを出ると俺と博之たちは別れた。
今日は正直乗り気じゃなかったが、思いも寄らぬ情報が得られた。
神崎の過去。その中に興味深いこともあった。
しかし、神崎の動機にはあと一歩足りない。あとひとつ何かがあればきっと、全てが片付く。
(……どうしたらいい)
「おい」
家に帰るのはまだ早いと思い、考えをまとめるため近くの公園のベンチに腰を下ろしていた。
すると、横から男の声が聞こえてきた。
「……なんだ、意識の高い眼鏡か」
「その呼び方は何だ。 僕には
四月に汐見に言い寄ってきた意識高い系眼鏡、もとい、永田が声を掛けてきた。
「なんか用か?」
「……お前に頼みごとがある」
「断る」
どうして、汐見にあれだけ嫌な思いをさせたやつの頼みなんて聞かなければならないのか。
「汐見さんにも関係することなんだこれは」
「……ここに座って話を聞かせろ」
俺は自分の隣を指さすように指示する。
永田は腰を下ろすと間もなく口を開き、頼みとやらを話し始めた。
そして、この頼みが最後のピースを埋めることとなった。
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