第30話 意外な関わり
六月最後の月曜日になった。
今週の金曜日には七月に突入し、より一層暑くなってくだろう。
週末は汐見の家で夕飯をご馳走になり、昨日は一週間分の予習と復習をしていた。
少し根を詰め、夜遅くまで勉強していたため、今朝起きるのは少し辛かった。
「ふぁ~……」
そのため、思わず欠伸をしてしまう。
これから暑くなるし、もう少し早く寝るようにしなきゃな……。
そんなことを思いながら学校への道のりを歩いていた。
「おはよう! 古橋!」
「……朝から元気だな」
校門前までばったり同じクラスの加藤君と鉢合わせてしまった。
彼はいつからか、やたらと俺に着きまわるようになった男子だ。
「今日は早起きしてだな、朝古橋と話せるのとは早起きは三文の徳と言ったものだな」
「……そうか」
朝からよく喋るな、加藤君。
いつも彼は時間ギリギリに登校してくるので、こうして朝会うのは初めてだ。
学校で話すときと言ったら、休み時間に少しだけ。
まぁ俺は基本的に寝たふりをしているし、加藤君は加藤君で自分のグループがあるので一日に一回も話さない。
まぁLEENでメッセージは山ほど来るけれど。
俺は加藤君の話に適当に相槌を打ちながら、教室へと向かった。
「お、今日は早いな加藤! ……っと、飼い主と一緒か? 珍しいな」
「おはよう! 古橋とは校門で偶然――」
教室に入ると、加藤君は友達に声を掛けられ、そちらに向かう。
飼い主って……。
悪意はないと思われるが、どうやら変な扱いをされているみたいだ。
俺は若干呆れながら自分の席へと向かう。
先週の金曜日、少し早いが七月分の席替えが行われた。
そこで、俺は窓際、前から三番目の席になった。
後ろも横も関わりのないクラスメイトで平穏に過ごせると思っていだが。
「おは~」
「……おう」
「何それ、挨拶されたら挨拶で返しなよ」
気の抜けた感じの挨拶に対する俺の返事に、からかうような声色でやり直しを要求してくる彼女。
「……おはようございます、飯沢さん」
「ん、よろしい」
俺の前の席で満足そうな笑みを浮かべるのは汐見の友達の一人、飯沢千弦だ。
若者っぽい言葉遣いをするザ・女子高生といった感じの振る舞いをする。
四月の一件の後、若干話すようになったが、言葉遣いとは相反して、しっかりとしているなと感じさせられた。
元々、四月の時もそれなりに状況が把握できているキレるヤツだとは思っていたが、数回言葉を交わしたことでそれは確信に変わった。
あのとき、彼女に見えていた状況と推察は俺の予想とほとんど一致していた。
まぁ本人は頭に血が上って、何も策は無かったようだが。
けれども、それ以来こうして絡んでくるようになった。
汐見と飯沢。
この二人が俺に絡んでくるなら当然仲町も絡んでくる。
仲町は俺に苦手意識があるようだから、あまり積極的に話はしないが。
「……お前は俺なんかと話してて良いのかよ」
俺は自分の席に着席しながら飯沢に問う。
「なに、古橋と話しちゃダメなの?」
「そりゃ俺は去年の文化祭で、お前を陥れようとした犯人なんだけど」
「あー……そういえばそうだったね」
俺が小さめの声でそう指摘すると、飯沢は”そんなこともあったっけ?”くらいの反応を見せる。
「お前なぁ……」
「だって、あのときはもう疑われないし、優子を疑わなくてもいいってだけで……」
飯沢の声は段々と萎んでいく。今でもしっかり傷は残っていたのだろう。
「悪い、変なこと言って」
「いや、まぁ古橋がやったんじゃないって知ってるし」
「え」
飯沢の突然のカミングアウトに俺は短く声を漏らしてしまう。
「だって、普通に考えればわかるじゃん? 悪人ならあそこで自ら名乗り出ないよ」
「まじか……」
俺はこの半年間、誰にもバレていないと思っていたが、こうも簡単にバレていたとは。
「まぁほとんどの人は犯人が見つかって、そのヒールさに騙されちゃってたけど」
「……」
俺は手で顔を覆い隠す。
「どした、急に?」
「いや、恥ずかしくなって……」
この秘密の死守は俺の独りよがりだったと知り、一気に恥ずかしくなってしまう。汐見にバレたときに、恋人関係になって秘密を守らせようとしていた俺が馬鹿みたいだ。
他の人にバレてしまえば、汐見たちの信頼関係を揺るしかねないと思っていたが、当の本人たちが俺の嘘に気づいているとは。
俺は俺自身が情けなくなってしまう。
「まぁ朝からそんな落ち込まないでよ。 古橋が何のために動いたかってのはなんとなく分かってるつもりだから」
「お、おう……」
四月の件において俺の動きは”汐見のため”以外の何ものでもなく、汐見を思う仲町と飯沢には仮面の下の俺が若干知られてしまっている。
(……これは色々知られないようにしなきゃな)
飯沢みたいに聡いやつには俺の想いも身分もバレてしまうかもしれない。
そんなことを思いながらも、俺はいつものごとく顔を伏せる。
「よーし、じゃあ出席取るぞ~」
そして、すぐに中島先生が来て、朝の十分ほどのホームルームが始まった。
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