第26話 俺と君の関係は
土曜日。
今日は球技大会当日。
俺の参加したサッカーはリーグ戦で全敗し、午後の下位トーナメント出場が決定した。
時刻は十一時。
他のチームメイトたちはみんな他の種目の応援に向かう中、俺はひとり特別棟に向かう。
加藤君だけは俺を誘おうかどうか、といった感じでキョロキョロしていたが。
特別棟に向かいながら、昨日のことを振り返る。
昨日、五限目をサボった俺は放課後に中島先生の元へ向かった。
中島先生から何があったのか聞かれて正直に事情を話した。
「――なるほど。 それで教室があの雰囲気だったのか」
五限目の授業は物理で中島先生の持つ科目だった。
そのため、中島先生も何かしら違和感を感じていたようだが、話を聞いて理解したようだ。
「まぁどの雰囲気だったのか知らないですけど、これで俺の話は以上です」
中島先生は何かを考えるように顎に手を当てる。
「なぁ、お前はこれで良かったのか?」
「……はい?」
俺は中島先生の言葉を聞き返してしまう。
「だって、お前は何も変わらないじゃないか。お前のその機転を利かしたような発想が出来れば、もっと他に選択肢があるように俺は思うんだが」
「そんなの、ありませんよ。 俺にはこの策しか思い浮かびませんでした」
俺は事実を告げる。
実際に何も思い浮かばず、過去の行いの焼きまわしをしたまでだ。
去年の作戦と大して変わらない、それどころか他人を傷つける最悪の手段で。
「まぁ、そうか。 とりあえず、今後は授業をサボるなよ」
「……はい」
「今度はちゃんと叱るからな?」
「はい、失礼しました」
帰宅し、夕食を食べ終わると、俺の部屋からスマホの着信音が鳴り響いた。
俺は急いで自室に向かいスマホを手に取る。
そして、スマホの画面を確認すると博之からの着信だった。
「……もしもし」
『おう、今大丈夫か?』
「ああ、なんだよ」
『……お前、またやったみたいだな』
「……ああ」
既に、俺の悪行は学校内で広まり始めているらしい。
本当に、皆この手の話題が好きだよな。
『お前、もう少し色々考えて動けよ』
「……」
博之から怒られる。
きっと、彼には俺のやり方は理解しがたいもののようだ。
「俺だって、色々考えたが、それがこの結果だ」
『なら、その考え方が間違ってるんじゃないか?』
いつもよりキツめの口調で俺を責める。
「考え方ってなんだよ」
『お前の考えに”自分を大切にする”っていうのが抜け落ちてるんじゃないか?』
俺は、何も言えなくなってしまう。
確かに、俺は自分のリスクを省みていない。
(けど、そんなの俺の勝手だろ)
そんな怒りが沸いてくるが、俺はぐっと飲み込む。
「ああ、覚えておくよ」
俺はそれだけ告げると、通話を終了する。
そして、ベットに身を投げる。
俺は中島先生や博之に対して、確かな怒りを感じていた。
(俺にできる最適の策を取ったんだ。 何もしてない人間に何か言われる筋合いは無いだろ)
そんな感情を抱いているはずなのに、どこか彼らに対して本気の怒りを向けられていない俺が居た。
特別棟に着き、いつも使っている教室の扉を開く。
すると、そこには一人の女子生徒がいた。
「あ、やっぱりここに来たんだ」
俺の顔を見て、そんなことを言う彼女。
その姿、振る舞い、声色、表情。
その全てに俺の心は魅了される。
昨日、俺の胸で不細工な声をもらして、泣いていた彼女。
同一人物とは思えない、綺麗な彼女がそこにいた。
「なんで汐見がここに……自分の種目はどうしたんだよ」
俺は当然の疑問を投げかける。
「もう終わったからここで古橋君を待ちながら休憩してた」
「なんか用か?」
俺はなんだか恥ずかしくて汐見の顔を見れなかった。
普通は泣き顔を見せたはずの汐見が恥ずかしがるんだろうけど、何故か俺の方が恥ずかしがっていた。
「古橋君に改めてお礼を。 それと、宣言を伝えに」
「別に昨日、十分すぎるほど感謝されたと思うんだが……宣言?」
俺は彼女の「宣言」という言葉に引っかかった。
「……改めて、ありがとう。 私は古橋君のお古にしてくれて」
「すまん、俺が悪かったからそれはやめてくれ」
汐見は俺の反応を見て、悪戯が成功したかのようなあどけない笑みを浮かべる。
そして、少し真面目な顔つきになる。
「私が古橋君に感謝しているのは本当のことだけど、私は怒ってもいるから」
そんな真面目な表情で、告げる汐見の次の言葉を待つ。
「……古橋君は私を助けてくれた。 けど、君は誰に助けて貰えるの?」
彼女も俺の行動に対して憤りを感じる一人のようだった。
「別に、俺は誰かに助けなんて求めてない」
「それは、嘘だよ」
「……なんでそんなこと言えるんだよ」
汐見に否定され、つい若干の苛立ちをそのままぶつけてしまう。
「だって、古橋君自身が助けを求めているからこそ、誰かを助けようとするんでしょ?」
「そんなこと……」
「常に助けを求めている人だから、誰かを助けるんだよ。 今回も去年も」
「……」
俺はついに黙ってしまう。
これ以上まともに取り合っていたら無駄だ。
「自分を犠牲にすることがきっとその表れだから。 誰かに心配されて、誰かに助けられることを求めてる。 だから――」
「……黙れよ」
俺は冷たい声色をぶつける。
「ううん、黙らないよ。古橋君だって黙らなかったから」
いつかの汐見に忠告した時とは、逆の状況だ。
俺はかつての自分と同じ行動をされているため、何も言えなくなってしまう。
「だからね、私が君を助けてあげる」
「……は?」
汐見が唐突に言い出したことに理解が追い付かなかった。
「君が困ってたら相談に乗る。君が辛いときは話を聞いてあげる。君が寂しかったら傍にいてあげる。だからまず初めに、私と友達になろ。……ね?」
「……」
汐見の口から甘美な言葉の数々が発せられ、俺は再び黙ってしまう。
何も言えない。
汐見に甘えるわけにはいかない。
彼女に甘える、ということは彼女の言うこと全てを認めてしまうということだ。
そして、彼女を俺自身の問題に巻き込んでしまうかもしれない。
「これが、君に全て背負わせた私の贖罪。 だから、恩を返して罪を償う機会を下さい」
そんな風にして汐見が頭を下げてきた。
きっと、俺は相当ひどい顔をしていたのだろう。
だから、汐見は昨日の俺の言い回しと同じ言を使ってきた。
全部、俺が汐見にしてきたことを今やり返されている。
汐見は友達になるための大義名分を差し出してきているのだ。
(ああ、俺のしてきたことは結構強引なことばかりだったな……)
自分のしてきたことを自分で体感してそう感じる。
「……そうだな」
どうやら、最初から俺に与えられた解は一つだけだったようだ。
俺は未だ頭を下げたままの汐見に告げる。
「学校以外では好きにしてくれ」
そんな、素直になりきれない最低限の条件だけ汐見に告げる。
すると、汐見は勢いよく顔を上げ、笑みを浮かべる。
「――改めて、これからよろしく!」
彼女の申し出の真意はわからない。
俺に対する罪悪感か、彼女なりの恩返しか。
それ以外にも色々な理由が考えられる。
けれど、きっと彼女の言葉は本心なんだろう。
だから、俺も覚悟を決めよう。
昨日は諦めかけた彼女との繋がりをこれからも紡いでいこう。
どんな関係でどんな形であれど、離れない。
これから先、どうなろうとも俺の全部で君に恋をしていこう。
――――あとがき――――
はじめまして、浅野蛍です。
ここで、一区切りとなり第一章は完結になります。
次回からは第二章が始まりますが、約一週間の構想期間を経て投稿が始まるので暫しお待ちください。
処女作ということで、読みづらさは感じられたとは思いますが、皆さまが不快感なく読めるよう精進していきたいと思っております。
今後も本作品、並びに浅野蛍を宜しくお願い致します。
ここから先は私のこの作品に対しての思いと、書くに至った経緯について述べていきますので、興味の無い方は読み飛ばしていただいて構いません。
私にとってこの作品は、一つの構想から始まっています。
ラブコメって言ってもラブコメらしいことはまるでしていないのですが、価値観の違う者同士が恋愛していく過程を描きたい。その一心で書き始めました。
実際に、文月と楓は物事に対する解釈や考え方が異なっています。その理由として環境や個人的バックグラウンドが大きく作用している、と言った内容が恐らく皆様にも伝わっていることでしょう(まだ楓に関しては開示されていない部分も多いですが)。
当然、現実の我々も同じように考えが違ってくるのですが、価値観が合わなければその人とは離れて行ってしまうことが多々あると思います。
ですが、そこを恋という感情で執着させていければ、きっと分かり合えるのでは。そんな物語となっております。
この作品を書くに至った経緯ですが、私はちょうどひと月前にアルバイトをやめました。
朝、五時半から七時半の二時間週六勤務しておりましたが、身体への影響が大きく死にそうな思いをしていました(常に吐き気を感じており、食事もままならない状況でした)。アルバイトをやめた翌日、私が最近楽しかったのは何をしていた時だろうと考えたとき、一年前に二次創作で小説を書いていたときだと思ったので、今度は一時創作してみたいと思い、このカクヨムというプラットフォームにやってきました。実際には楽しい事だけではなく苦痛に感じたこともありました。
ですが、なんとかこうして今日まで書き続けられているのは皆さまのおかげです。
本当にありがとうございます。
少しだけ今後のお話をさせて頂くと、この物語は全部で三章になります。
この一章は「邂逅」にあたるお話になっております。
そして次回は「解決」というテーマに沿って執筆を始めていきます。
最後の構想からすべてが生まれている作品なので山場までの持って行き方をしっかり考えて書いていきます。
最後になりますが、今日まで本作品を読んでくださった方々へお礼を言わせてください。
本当にありがとうございます。
そして、宜しければ今後とも本作品を応援して下さると幸いです。
あ、これで一区切りとなったので、宜しければコメントやレビューをして下さると私が喜びます。
カクヨムのシステム上、自分のコメントや感想が他人の目についてしまうので、それが嫌な方は私のTwitterの方にリプライでもダイレクトメッセージでも良いので、お言葉を頂けると幸いです。
Twitter ID → @Asano_hotaru
次にこうして私の言葉を書くのは二章完結時になります。
そのときに皆さまにこうして私の思いを伝えられる日を心待ちにしております。
ここまで、長々としたあとがきに付き合って下さりありがとうございました。
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