第21話 友
翌日、学校の様子は昨日と変わらなかった。
相変わらず、俺や汐見を見かけた生徒たちはひそひそと話始める。
休み時間のたびに他のクラス、他の学年からギャラリーが集まる。
それを俺は寝たふりをして、汐見は仲町や飯沢に守ってもらいながらやり過ごす。
今はまだ大丈夫だが、汐見、仲町、飯沢が精神的にやられてしまわないか少し心配になる。
これで、友達辞めましたなんてことにはならないとは思うが、もし万が一そうなってしまったら俺が盗人になったことすら無駄になってしまう。
(……はぁ)
まぁそれとは、あまり関係ないが俺も憂鬱な気分に陥っていた。
何故なら今日から体育の授業は球技大会の練習時間となったからだ。
汐見は仲町と飯沢と一緒だから恐らく大丈夫だろうが、俺は加藤君以外からは物珍しいものを見るかのような視線を向けられ、会話すらしなかった。
まぁ加藤君はウザいくらいに必死に話しかけてきたけど。
球技大会は今週末。
俺にとって、あらゆる意味でより一層憂鬱なイベントとなった球技大会。
早く終わってくれないかと切に願うばかりだ。
流石に今日は中島先生からの呼び出しは無く、俺は早くこの雰囲気から逃れたい一心で足早に帰宅する。
すると、校門から出てすぐのところで、俺のスマホが振動する。
俺は歩道の端により立ち止まり、スマホをチェックした。
『大丈夫か?』
バイブレーションの正体は、博之からのそんな短いメッセージだった。
俺はそのメッセージに、『大丈夫』と簡素なメッセージを返した。
何も大丈夫なんかじゃないが、俺に今できることは必死に虚勢を張ることだけだ。
それに、ここで変な行動を取ったら余計に事態を悪化させてしまう可能性だってある。
だから、今は耐えるしかない。
というか、今ここで立ち止まっていたら今度はどんな難癖をつけられるかわからない。
俺は携帯をポケットにしまい込み、家へと急いだ。
良子さんが作っておいてくれた夕食を食べ、自室に戻ると電話がかかってきたのか、スマホが震えだした。
俺は一度、画面を見て誰からの着信なのか確認する。
電話をかけてきたのは博之だった。
何事かと思い、一応俺は電話に出ることにした。
「……なんだよ」
『お、出たか。 いや、文月からあんなメッセ来たら電話かけるしかないだろ?』
「いや、大丈夫って言ったろ」
心配とか気を使わせないために送ったメッセージが意味をなさないだろ。
『いいや、大丈夫じゃないね。 お前が大丈夫って言うのは、大丈夫じゃないときだ』
「……」
俺は何も博之に言うことが出来なかった。
『そうだなぁ……去年の球技大会の時も一年の一学期の中間テストの時も』
「……そうだな、全部お前に助けてもらったな」
昨年度、俺は博之にお世話になりっぱなしだった。
当時は訳あって「俺だけでなんとかなる! 他の人の助けなんていらない」なんて間違ったプライドを振りかざししていた。
そんな当時の俺を博之が助けてくれていた。
『だろ? だから、俺なんかに気を使うなよ』
「……でも」
『なら、あのときの罪滅ぼしをさせてくれ』
突然、そんな重々しい言い方をする博之。
「……あのときのことは仕方ないことだ」
『俺にけじめをつけさせてくれ』
必死に博之は頼み込んでくる。
罪滅ぼし。
別に博之は俺に対して大罪を犯したわけ名じゃない。
俺が大罪を犯したあのあと、博之はしばらく俺を無視していた。
無視というと語弊があるが、俺たちは会話も連絡もしなかった。
しかし、二か月ほど経ったある日博之からメッセージが送られてきて、腹割って話し合って、仲直りをした。
今、博之はこのことを大義名分として俺に協力しようとしてくれている。
それは有難いが、今現在誰も何もできない。
「……じゃあさ」
『おう! 何でも言ってくれ』
「俺の独り言を聞いてくれないか?」
『おう! ……おう?』
「だってこの状況じゃ何しても悪い結果しか生まれないからな」
俺が博之のおかげで学べたことの一つ。
悩みってのは誰かと共有するだけで数パーセントは気が楽になるってこと。
「……そもそも何でこんなことになったのかな」
『それはお前が盗人になるから』
「……そもそもなんで噂なんて」
『それはお前の立ち位置的に面白いから』
「……なんで写真なんて」
『それはお前が軽率に二人きりになるから』
「……お前、相変わらず相談相手に向いてないよな」
『え!? 俺なんか変なこと言ったか?』
「……はぁ」
無自覚の博之に思わずため息をついてしまう。
『おい!? 露骨にため息吐くなよ! 悲しくなるだろ!?』
「ま、それがお前の欠点でもあり魅力だよな」
『いや、欠点なら直したいんだけど!?』
「治んねぇから安心しろ」
『ちょっと!?』
結局、この後は一時間ほどいつもと変わらない他愛もない雑談をして通話を終えた。
何も解決の手立ては無かったが、俺は少し活力を取り戻せた。
友達。
俺にとって友人は現在一人だけ。
でも、誰もいないのとは見える世界がきっと違うんだろう。
そんな、厨二病チックなことを思ってしまった。
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