第82話 マィンティア様の野望
ルシャ……じゃないシン・ラン殿下は身元確認後、ノーシア国王との謁見に臨んだ。
帝国にいるときに外交を担っていたわけではないはずだ。
しかし他国の王に委縮することもなく、かと言って世間知らずな皇女が無礼な振る舞いをすることもなく無難に終えた。
その対応は見事と言わざるを得ない。
ノーシア国王は殿下の無事を祝いたいと、祝宴まで催すと言い出した。
マトハット将軍はすぐにでも殿下を帝国に連れ帰りたい様子だったが、国王の申し入れを断りはせず、滞在予定を延期した。
***
ティアはずっと城に詰めている。
サウスの将校や高官たちとお知り合いになりたいらしい。
仕事熱心なヤツだ。
城内の総司令官室の一人掛けのソファに背を預け、頬杖をついている。
「光翼をあそこで見せるとはね。サウスの若い将校たち、あっという間に彼女のファンだよ。ノーシアの高官たちはビビらせちゃうし。彼女やるねぇ」
俺はソファに横になって天井を眺めた。
「今頃、調査団は全員で盛り上がってるだろうよ」
俺は将校たちが神を崇拝する目を思い出していた。
ただの秘薬店のバイト娘に向けられる目ではない。
アイツはいつもあんな目で見られていたのか。
サウスに帰ろうとしなかったのも分かるような気もする。
それとも他に帰りたくない理由があったのだろうか。
「人心の掌握に長けてるね、彼女。コワイ、コワイ。生れながらの人タラシだ」
「女タラシが言うか?まったく女ってのは、化粧と着てるもんで変わるよな」
「素直にかわいかったと言えばよいものを」
「ハァ?」
「教会でいい感じになってただろ?正直に言えよ。ホントはヤったんだろ?敵に回さないように仲良くしといてとは言ったけどさ」
「ヤッてない!ちょっと仲良くしといただけだ。任務だ!」
「ふーん……任務ねぇ。まぁいい。彼女と仲良くするのは外交的にもお得感がある」
「鬼畜野郎」
「軍事的にも、イチの私的にもね。ご機嫌はとっておいてくれ。任務も兼ねて、いや任務の方がメインで。頼むよ」
「どうせもう会わない」
「晩餐会にはイチも出ろよ」
「なんで?」
「会いたいくせに」
ティアがニヤニヤ俺を見た。
「彼女は皇帝になると思うか?」
「叔母さんの女帝が譲位するか?強欲ババァなんだろ?」
「彼女自身が皇帝になりたいかどうかさ」
「知るかよ」
「お付き合いしてる彼女が皇帝って、かっこいいと思わないか?」
「付き合ってないし、思わねぇ」
「あの力は敵に回したくないんだよねー。翼もコピー魔法も人心掌握術もさ」」
「まぁ確かにな」
「そこで私は考えた。殿下にはイチの彼女になってもらってさ、ノーシアとサウスの仲を盤石なものにしてもらうっていうのどう?」
「幼稚だ」
「結構、真面目に考えたんだけどなー」
「騙されるほど、あの女は馬鹿じゃない」
「騙す?そうじゃないさ。本気でお付き合いしたらいいじゃないか」
「ティア……。前から思ってたんだが、なんでアイツを全力でおススメしてくるんだ?」
「彼女、かわいいし。イチもまんざらでもないだろ?」
「ハァー」俺はわざとデカい溜息をついて目を閉じた。
コイツの考えていることは俺には分からん。
「まぁ、ちょっと考えておいてよ」
「断る」
「じゃぁ、任務にしようか。バーレント大佐」
「職権乱用だ」
“せっかく応援してるのに”と不満をもらしている。
「翼をもらって飛ぶってどんな感じがするんだ?」
「俺はジェラーニと戦闘中で雷撃ドカンドカン落ちてきて、やばかった時だから堪能してる暇なんてなかった。
ただ、人の魔力で楽して飛べるってのは、なかなか戦略上も有利なことに間違いない。
何人同時に飛ばせるのか気になる。
あと飛行持続時間と最高スピードと…。」
「私も翼をもらってみたいな」
なぜか貴公子顔でうっとりする。
「ハァ?ティアは自分で楽に飛べるだろ?」
「翼が生えるというのが、なんともロマンチックではないか」
「軍事的興味じゃねぇのか!趣味趣向の話かよ!?
あれ、あとでヒリヒリするんだぞ」
「そうなのか?うーん、しかし面白い力だ」
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